11月27日、東京大学データレゼボワール実験グループが記者説明会を開催した際、同グループを率いる東京大学大学院情報理工学系研究科教授の平木敬氏が、スパコン事業の事業仕分けについてコメントを発表した。

東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 平木敬氏

同氏は、今回の最大の問題点として、「いろいろな問題が一緒に語られており、議論がかみ合っていないこと」を挙げた。そして、こうした状態のなか、重要な事項が決定してよいはずがないと、現在の状況を強い調子で批判した。

「"科学技術政策・予算のあり方"、"日本におけるスーパーコンピューティング研究開発のあり方"、"理研プロジェクトの過去・現在・未来像"、"ハードウェア・ソフトウェア・アプリケーションの各分野の問題"など、レベルが異なる問題が混合状態で論じられている」

同氏は今行わなければいけないのは、「日本の世界におけるポジション」と「技術の流れと課題」を把握することだと話した。

「日本の世界におけるポジションを把握したうえで、日本の強い分野と競争的な位置づけにある分野を伸ばし、弱いけれども重要な分野を強化する必要がある」

先日の事業仕分けでは、「スパコンで世界一を目指す必要はないのではないか」という意見が出たが、同氏は「スパコンの世界では世界一を目指さなければ、敗者にすぎない」と訴えた。

なぜなら、スパコンの技術の流れは速く、1年に2倍は性能が向上し、いったん敗北を帰すと回復に十年単位の時間がかかるからだという。

「現在のスパコン業界の土俵には、IBM・Cray・Intelと日本がいる。IBMは1960年代半ばまで汎用大型計算機で市場を牽引していたが、それ以降Crayに抜かれ、復活するまで30年近くかかった。Crayもまた日本のベクトルマシンに抜かれた後、現在の地位を回復するまでに20年かかった。つまり、スパコンの技術は一度止めてしまうと、20年から30年の遅れが出てしまうのだ。こうした状況のなか、日本が今、スパコンの研究を止めたらどうなってしまうだろうか?」

同氏は、日本の科学技術界におけるスパコンの存在意義は大きく、スパコンの停滞は多くの分野に影響を及ぼすと指摘した。

また、事業仕分けで指摘された「複合型の中止」は、技術の流れから起こった出来事であり、合理的な理由に裏付けられているという。

同氏は、「豪華な建物など、プロジェクトに無駄がないわけではなく、これらを省くことは重要である。しかし、こうした無駄を省くことと長期的科学技術の計画は別問題だ。専門家を交えたうえで、論理的な議論を行うべき」と、解決策を提示した。

ノーベル賞を受賞したさまざまな学者が今回の事業仕分けについて異議を申し立てるなど、各方面に波紋を呼んでおり、日本の科学技術・産業に大きな影響を及ぼすことが予想される「スパコンの事業凍結」の行く末に注目は集まる一方だ。