三菱電機 先端技術総合研究所パワーエレクトロニクスシステム開発センターの小山健一センター長

三菱電機は、SiCを利用したインバータ(SiCインバータ)で、SiのIGBTを利用したインバータと比較して20kW動作時で電力損失を約90%低減できることを実証した。2009年11月11日に開催された記者説明会で、同社の先端技術総合研究所パワーエレクトロニクスシステム開発センターの小山健一センター長が達成値と技術内容の説明を行った。

SiCは、Siと比較して絶縁破壊強度が約10倍、禁制帯幅を約3倍と高く、低抵抗、高温動作といった点に優れており、次世代のパワー半導体材料として期待されている。特にSiC-MOSFETの低電力損失と優れたスイッチング性能を生かしたインバータは、機器の電力利用効率を向上させ、炭酸ガス排出量削減効果をもたらすことから実用化に大きな期待が寄せられている。

同社では2009年2月にはSiの代わりに11kWのSiCインバータとすることで、Siを使用した製品と比較して電力損失を70%低減できることを実証しており、今回はさらに低損失化を実現する技術を開発した。太陽電池発電システムでは、現在の同社Siインバータにより97.5%程度の効率を達成しているが、ここに新技術を応用した場合、99%以上の効率が可能になる。電力システムの場合、扱う電力量が多いことから絶対量としての損失削減効果は大きなものとなっている。

インバータの低損失化に向けた技術の推移

インバータの低損失化を図るためには、スイッチング時間を短縮してSiCデバイスを高速駆動することにより、スイッチング時の損失を抑制することが有効となる。しかし、スイッチング速度を上げて、高速動作を行うと、インバータ回路内のSiCデバイスに瞬間的に高電圧(サージ電圧)が発生してSiCデバイスが破損するという問題があった。このサージ電圧は回路内に発生する寄生インダクタンスと回路電流の時間変化率に比例して発生する。

SiCデバイスを高速駆動することでスイッチング時の損失を抑制

サージ電圧によりSiCデバイスが破壊される

今回、この問題を解決するため、磁束の発生を打ち消すようにSiデバイスの配置や配線のレイアウトを最適化することにより、高電圧や電圧波形の振動を抑制してスイッチング損失を極限まで低減し、電力損失を抑える。これによりスイッチング速度を上げても、サージ電圧を従来インバータを約1/2に抑えることが可能になり、許容電圧内とすることができるため、高速化を実現した。このような技術を利用して、主回路を試作。SiCデバイス、ダイオードなど個別デバイスに関しては、大幅な変更を行っていない。

サージ電圧を従来インバータを約1/2に抑えることに成功

試作された主回路

また、SiCインバータの高速駆動を実現するため、インバータの駆動回路を高速化している。同回路により、ON時の立ち上がりを09年2月発表製品の約1/2に短縮、OFF時の立下りは同約1/3にまで短縮した。

インバータの駆動回路を高速化

これらの技術を集約した低損失化技術により、前回発表した試作品から約65%の低減を実現した。

前回開発品のSiCインバータ比で焼く65%の低損失化を実現

今後、SiCデバイス(MOSFET、SBD)の大容量化などの性能向上とともに、信頼性、長寿命化など製品化に向けての研究開発を進めていく。また、空調機器、太陽光発電システム用パワーコンディショナ、エレベータなどのさまざまな機器への技術展開を進めていく。具体的な製品化時期は明らかにしていないが、数年内の実用化が期待される。