アドビ システムズは10月に学生・教職員個人版となる「Adobe Student and Teacher Edition」を発売した。この発売を記念して、アップルストア銀座にて漫画家のモンキー・パンチ氏を招いたスペシャルイベント「Adobe x mixi presents:モンキー・パンチが語る『デジタル』x『マンガ』の魅力」が行われた。

制作に「1ヵ月かかった」最初の作品

DTP黎明期からPCを活用し始め、いわばデジタルクリエイターのパイオニアとして知られる同氏。多くのデジタルツールを活用し、作品制作しているのかと想像していたのだが、意外にも「特別なことをしているわけではない」とのこと。使用するツールは「Photoshop」が中心で、「それでマンガを描くと言うよりは描くためのヒントを生むツールとして使っています」という。

モンキー・パンチ氏。PCで制作すると「締め切り前の"カンヅメ"の際にも荷物が少なくて便利」とのこと

何年経っても原画が色あせないこともデジタルの利点だ モンキー・パンチのマークが書き込まれている!

もともと、氏がPCで作画を試みた頃は、それを満足に出力できるプリンタも無いという状況だったという。Macintoshが登場し、レーザープリンタやポストスクリプトといった環境が整ったことで、本格的にPCを使い始めるようになったそうだ。デジタルで制作した作品には、「ペンタッチの良さが出ていない」という批判もあったそうだが、氏は基本的に「その絵自体が面白ければいいじゃないか」という考えだったという

当時は雑誌の編集部もPCでの制作に批判的で、PCの導入を勧めても「PCで漫画の編集などできるか」という反応だったという。今やPCなしでは編集はできない環境になり、多くの漫画家がデジタルで制作を行うまでになっている。そんな話の中で氏は初めてデジタルで制作した作品を紹介した。様々な試行錯誤を繰り返し、約1ヵ月かかって完成させたそうだ。

Photoshopは発想のツール

次に画面に映し出されたのは、1枚の雲の写真。実はこれが同氏の"アイデアのもと"なのだという。重なったレイヤーが表示されると、キャラクターが現れた。それを清書、着彩し、組み上げていくことで、1枚のカラーイラストが完成する。

雲に発想を得たイラストメイキング

雲を見ていても何も思い浮かばないこともあるが、その際は連想する形を追い続けることで何らかの形が出てくるとのこと。この連想から生まれたのが下記の作品。背景は過去の作品の一部を渦巻き状にし、押し出しフィルタで描画している。

現在ではだいたい5~6時間で1枚描けるとのこと

また、同氏の故郷である北海道浜中町で行われた、酪農家に看板を作るプロジェクトでは、このプロジェクトのために作られたストーリーをもとに、十数点のキャラクターを同氏がデザインした。これらも雲の形が発想のヒントになっている。

白鳥に乗った少年

北海道らしく、キタキツネがモチーフ

樹木をモチーフにした竜のようなキャラクター

実験的取り組みとデジタルコミックの今後

氏は従来の作画だけでなく、実験的な取り組みも積極的に行っている。こちらは同じ絵が2枚並んでいるようだが、実は「立体視」ができるように制作されたもの。特にデジタルで配信されるコミックスには、今後何らかの可能性を求めていくことができるかもしれない。

立体にすることで人の立ち位置・距離感など表現できる情報量が増え、1枚の絵でもストーリー性が高まると同氏は語る

「PC1台でアニメを作りたい」という着想から始めた、3DCGによるアニメーションも試作中。このイベントで初公開された

最後に、氏はペンタブレットを使ったライブペインティングを披露した。実はキャラクターを作る際、何気なくルパンの絵に帽子やヒゲを描き足したことが人気キャラクター 次元の誕生に繋がったという裏話も聞くことができた。

いつもは液晶タブレットを使っているという同氏。手元でなく画面を見ながらの作業に感覚が掴みづらいようだったが……

まずは、ルパンを描いてくれた

ルパンに、帽子・髪・ひげを描き足すと…次元に!

氏は現在、大手前大学メディア・芸術学部教授として教鞭を執っている。氏によると、学生にもデジタル環境で作品制作を行っている人が多いという。氏は、通常版のアドビ製品より圧倒的に低価格なアカデミックパックの存在を知り、学生をうらやましく思った経験があるそうだ。今回はより利用しやすい価格になった「Adobe Student and Teacher Edition」を、教員である「自分も買うことができる」と語り、笑顔を見せた。