【レポート】
「アドビ システムズのアプリケーションは?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶのが「Adobe Illustrator」ではないだろうか。パソコンでイラストを描く、図版を作る、さらにはペラ物(用紙1枚に印刷される商業印刷物)のレイアウトも行うなど、アマチュアからプロのクリエイターまで、幅広いユーザー層に活用されている。
初めてAdobe Illustratorが登場した1985年から早20年を越え、アドビ システムズの中でも長い歴史をもつアプリケーションだ。
Adobe Illustratorといえば、マウスで曲線を描くベジェ曲線を使用した独特の描画方法を思い起こす人も多いだろう。
ベジェ曲線は、アンカーポイント(端点)と方向点を利用して自由曲線を描く。直線は2点以上の端点を描き、曲線は端点から伸びるハンドルの方向線を動かす。これが基本的な仕組みだ。
アンカーポイントの数が無駄に多いとRIP処理に負担が掛かるため、初期のPostScript RIPではエラーの原因になることもあった。「アンカーポイントが少なくストレスなく出力できるデータ」は、DTPの黎明期に誰もが目標とした"完全データ"である。
Adobe Illustratorは、この「ベジェ曲線で自由な描画を行う」という基本コンセプトを今日まで踏襲しながら、これまで複数回のバージョンアップを繰り返してきた。日本市場において、そのエポックメイキングなバージョンとなるのが1993年に発売された「Adobe Illustrator 5.0日本語版」だろう。
Adobe Illustrator 5.0日本語版の特長は、高精細なプレビューを見ながらの作業と、日本語TrueTypeフォントのアウトライン化が実現されたこと。1993年といえば日本語PostScriptフォントのバリエーションも増えていたし、Mac DTPの波が少しずつ大きくなってきた頃。Mac雑誌も次々に創刊されていた(Mac本体で言えば「Quadraシリーズ」が大ブームを起こしたことを思い出される読者は多いのでは?)。「日本語環境で本格的なドローソフト」としてAdobe Illustratorが広まったのは当然の結果だろう。
Adobe Illustrator 5日本語版の後、日本市場では「5.5」→「7」とリリースが続き、1998年に登場したのが「Adobe Illustrator 8日本語版」だ。このバージョンでは、今ではすっかりおなじみになった「バウンディングボックス」や「スマートガイド」、「グラデーションメッシュ」、「リンクパレット」などが搭載された。Adobe Photoshopとの連携が強化されたことも記憶に新しい。すっかりMac OS X環境となった今でも、根強いファンがいるバージョンだ。
テキスト処理機能も充実し、はじめて字形パレットが搭載されたのもこのバージョン。スポイトツールで文字の属性を他のテキストに適用することもできるようになった。ただし、発売された当時は旧バージョンのユーザーも多く、特に文字組みに関してはAdobe Illustrator 5日本語版で作成されたデータを開くと詰めが崩れるなどのトラブルが起きたことも事実。
また、PDFへの書き出しが本格的にサポートされ、出版や広告の現場でカンプ代わりにPDFファイルがメールで送られ合うようになったのも、このバージョンの発売が大きなきっかけになっているだろう。
Adobe Illustratorの顔といえば、ボッティチェリの「ヴィーナス」。このヴィーナスが消えたのが2003年に発売されたAdobe Illustrator CSだ。すでにAdobe Illustrator 10日本語版ではMac OS Xに対応していたが、Adobe Illustrator CSの登場によってMac OS 9への対応が終わり、新時代のドローソフトに生まれ変わった。だからというわけではないだろうが、パッケージやスタートアップ画面などが一新され、ヴィーナスが消えてしまったのだ。
さらに、2005年にはドローソフトのライバルであった「Macromedia FreeHand」の開発元であるマクロメディア社を買収し、新たな局面を迎えることになる(現在、FreeHandは「Adobe FreeHand MX」としてアドビ システムズ社から販売されている)。
そして現在、Adobe Illustratorの最新バージョンとしてリリースされるのが「Adobe Illustrator CS4」。このバージョンで、Adobe Illustratorはようやくひとつのドキュメントに「複数のアートボード」を作成できるようになった。
その他にもAdobe Illustrator CS4で搭載された新機能があるのに、なぜこの機能にフォーカスを当てるのか -- それは、先にFreeHandで「マルチページ環境」として搭載され、Adobe Illustratorにはなかった機能だからだ。
周知の通りAdobe Illustratorは、イラストや図版といったベクターデータの作成だけではなく、レイアウトソフトとして活用しているユーザーも多い。しかし、これまでアートボードはドキュメント内にひとつしか作成できなかったため、複数ページの場合は複数のファイルで制作する必要があった。しかし、Adobe Illustrator CS4では最大100個のアートボードを作成できるため、レイアウトソフトとして活用しているユーザーの夢がようやく実現したわけだ。
ドローソフトという枠を越え、紙やWebとさまざまな媒体で活用されるAdobe Illustrator CS4。これからどんな機能が搭載され、どれだけ使いやすさを追求していくのかが非常に楽しみなアプリケーションだ。これからも、DTPワークの中心となるアプリケーションとして我々の仕事を助けてくれるに違いない。
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