オーディオDSPを揃えなくても、GPUを使って高度なデジタルオーディオ編集を効率的に処理できる。GPU Technology Conferenceで、「Have you heard what a GPU can do?」という、"グラフィック"プロセッサをデジタル"オーディオ"用のコプロセッサとして活用するユニークなセッションが行われた。ゲストとして、オジー・オズボーン・バンドやホワイトスネークのベーシストとして活躍したルディー・サーゾ氏が参加し、CUDAを導入した現場のワークフローを説明した。

スティーブ・ヴァイのスタジオを見せながら、プロのスタジオワークを説明するルディー・サーゾ氏

デジタルオーディオ処理の多くは線形畳み込みをベースとしている。安定するものの、ドライで不自然なサウンドになるというデメリットがある。そのためプロの現場では、たとえば1系統の周波数特性をサンプリングした畳み込みリバーブに対して、時間的変化やパラメータ変化などノンリニアな特色をサンプリングしたエミュレーションを加えている。ただし、こうしたエフェクトはCPUへの負荷が高く、オーディオDSPによるコプロセッサ・ソリューションが欠かせない。

だが、リバーブのような複雑でも並列的に処理される作業はGPUが得意とするところである。オーディオワークステーションのグラフィックスカードが、DSPカードの代わりになれば、高度なデジタルオーディオ編集のハードルがぐっと下がる。実際にデジタルオーディオの分野でも、少しずつCUDAの採用が進んでいるという。たとえばVolterra Kernelテクノロジを採用したACUSTICA AudioのVSTベースのプラグイン「Nebula 3」だ。VectorialエンジンがIRサンプルをコントロールし、Kernelエンジンのプロセスの多くが並列処理されるため、CUDAを用いてKernelエンジンの処理をGPUに振り分けている。ほかにもnilsschneider.deの「GPU Impulse Reverb」やLiquidSonicsの「Reverberate LE」や「Filtrate LE」などがCUDAに対応している。

サーゾ氏は以前、簡易なデジタルオーディオワークステーション(DAW)には慎重だったという。マルチチャンネルで複雑なエフェクトを幾重にもかければ、システムに負荷がかかり、作業効率の悪化やノイズの原因になる。しかしCUDAを導入してみたら、CPUがレコーディングに専念し、残りのスタジオ作業はGPUが担当するような状態になった。それは「大きな扉が開け放たれたような気分だった」と述べていた。

ただし現状において、オーディオDSPの代役としてのGPUの能力に不透明さを感じる人は多いようだ。デジタルオーディオ編集では安定したストリームが重要であり、セッションでは参加者からGPUのグラフィックス機能部分の影響を懸念した質問が出てきた。プロ向けであるからこそ、クオリティで妥協しては本末転倒というわけだ。

こうした声に対してNVIDIAのイアン・ウイリアムス氏は、改めてGPUのコプロセッサとしての能力をアピールした上で、次世代CUDA GPUアーキテクチャ「Fermi」に言及した。CUDAコアが倍増し、スレッド実行を制御するGigaThreadエンジン、メモリ階層の拡張など、GPUコンピューティングの効率化が図られている。「Fermiアーキテクチャには、デジタルオーディオにも恩恵をもたらす重要な拡張が行われており、オーディオ専用のハードの代わりにGPUを使う違和感は霧散するだろう」と述べた。