映画という枠を軽々と飛び越え、噂が噂を呼んでいる珠玉の"青春ヒップホップ映画"をご存知だろうか。8月に韓国の富山(プチョン)国際ファンタスティック映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』だ。

本作を以前から讃えていたのが、日本のヒップホップ創始者いとうせいこう氏。映画制作、表現、ヒップホップ、次回作……etc、いとうせいこう氏と入江悠監督による『SR サイタマノラッパー』放談がここに実現した。
(※いとうせいこう氏&入江悠監督のサイン入りオリジナル・サウンドトラックのプレゼントあり)


いとうせいこう

1961年、東京都生まれ。クリエイター。早稲田大学法学部卒業後、講談社入社。『ホットドッグ・プレス』編集に携わる。86年退社後は、作家、プロデューサー、演出家、MCなど、あらゆるジャンルに渡り表現活動を行う。音楽では、ジャパニーズヒップホップの先駆者としてカルチャーシーンに多大な影響を与えた。Web動画コンテンツ『plants+』 監修、「したまちコメディ映画祭 in 台東」 の実行委員など幅広く活躍中。
ブログ:readymade

入江悠

1979年、神奈川県生まれ。映画監督。日本大学芸術学部映画学科卒業。2006年『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウィルス』で長編作品デビュー。2008年には劇団「野良犬弾」を旗揚げ。2009年『SR サイタマノラッパー』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリ受賞。8月には韓国の富山(プチョン)国際ファンタスティック映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。
ノライヌフィルム/映画監督入江悠 日記

『SR サイタマノラッパー』

ニートのIKKU、おっぱいパブでバイトするTOM、ブロッコリー畑を耕すMIGHTY、病弱なトラックメーカーT.K.D……etc。ラップグループ「SHO-GUNG」が、北関東のど真ん中--群馬との県境に近い埼玉の片田舎を舞台に紡ぎ出す、おかしくも切ない、痛々しいがゆえの"号泣青春ヒップホップストーリー"。タイトル『8000miles』で韓国をはじめ海外での上映も決定。
出演:駒木根隆介/みひろ/水澤紳吾/杉山彦々/奥野瑛太/益成竜也/上鈴木伯周、ほか
製作:ノライヌフィルム 配給:ロサ映画社/ノライヌフィルム
脚本・監督:入江悠 撮影:三村和弘 音楽:岩崎太整
公式サイト http://sr-movie.com/
Webラジオ「ブロッコRADIO」も公開中(詳細は公式サイトより)


いとう どうするのさ、これから。次回作とか。

入江 いきなりこれからの話しですか!?

いとう ブログで『SR サイタマノラッパー』を絶賛しちゃったからね。ハードル上げてるよ(笑)。

入江 確かに、かなり上がってしまいました……。

いとう ネットの時代って不思議だなって思うけど、ブログで書いたら映画のメンバーから書き込みがあって。僕が教えている大学の元ゼミ生も「監督とマイミクになっちゃった!」とか言ってるわけ。よくよく考えたら入江君って「600秒デジタルショートアワード」に応募してたあの監督かって思い出したんだよ。

入江 もしかして、ご覧になってたんですか?

いとう 当然、審査員だから。なんだ、自分だって入江君のこと知っていたのか、という繋がりの不思議さね。

入江 なんだか恥ずかしいですね……。『SR サイタマノラッパー』は、何もないところから作り上げた映画ですが、その場その場の即興的な撮影が楽しかったんです。このスタイルは今後も続けたいなと思ってます。「寅さん」とか「釣りバカ日誌」みたいに埼玉からはじまって全国行脚してくのもアリかなとか。

いとう 練り込まれた脚本と役者たちのチームワークがあるなら、それもアリだなとは思うよ。

入江 それこそ短篇やVシネマを撮っていて、内面で「もう映画が撮れなくなるかもしれない」という切迫感がありこの作品を制作したんです。実は同時に、いろいろなものを捨てた、という想いもありました。たとえば、この映画を制作する前は、商業性の高い映画はやらなくてもいいかな、とも。好きなことをやり続けていきたいというか。

いとう うーん……、気持ちはわかるけど両方やっていきなよ。『SR サイタマノラッパー』のゾーンをしっかりと持っておけば、他所でなにかあっても帰ってくればいいだけでしょ。確かに資金のある映画だと、監督としての意志を貫くのは大変だと思うよ。でも入江君にはその道にも挑んで欲しいし、別の世界をいかに切り取るかを見てみたい。今いる場所から外にも出て、奇想天外なことをしてもらう。そういう存在感を入江君に期待するな。


ディテイルを観客の想像に委ねる


いとう きっと、この作品ではセリフひとつひとつに対して「間を持て」という指示が多いでしょ。そこはどういう意図があるの?

入江 できるだけシンプルな構成にしたいという思いはありました。カットを割らないといった制限を事前に設けて、ワンカットでカットが割れている印象にしようと決めたんです。詳細な説明を入れないで、どんどんストーリーを進めていこうと。そうすることでお客さんがディテイルを想像できるようにしたかったんです。

いとう それは十分に効果が出てるよね。自分勝手に話しが進んでいるようには一切見えないし。

入江 主人公の一人称と捉えられるくらい主観的な視点で撮影しているので。

いとう 要するに、シチュエイションとかキャラクターを既出のシーンである程度描写できているから、見る側も理解できるし辻褄も合う。

入江 どこかで見たことのあるようなシーンを入れるのもやめようと決めていて。たとえば、ライブハウスで歌うシーンとか。

いとう ディテイルの解釈はいくらでもできるし、それこそ映画の楽しみ方でしょ。あれってどうなったのかな? って話しながら2時間飲むみたいな(笑)。見ている側が想像する余地もないくらい説明的だとガッカリしちゃうもんな。

入江 その点、『トラック野郎』とか東映プログラムピクチャーのような昔の映画は、お客さんに委ねてた感じがあって好きなんですよね。短い尺でサクッと終わる潔さもありますし。

いとう 確かに『SR サイタマノラッパー』の80分という尺にも惹かれたしね。最初見た時は、サッパリしてて俳句みたいな印象だった。いい映画だなー、と思って。

入江 ありがとうございます。

いとう 2度目に観たときは号泣でしたよ。そもそも複数回見て面白いと思ったのは、『運命じゃない人』とか内田(けんじ)君の作品だけ。『SR サイタマノラッパー』に関しては同じ日に2回見てるからね、生まれて初めて(笑)。