マイクロソフトは、ITベンチャー支援に関する施策について、現在の取り組みを明らかにし、そのなかで、2008年11月からスタートしたBizSparkの登録会社が約830社に達したことを公表した。

BizSparkは、創業3年未満、売上高1億2,000万円未満、未上場のスタートアップ企業を対象に実施しているITベンチャー支援プログラムで、現在の事業や計画している事業の核が、ソフトウェアベースの製品およびサービスであれば、法人化を目指している個人事業主、起業家も含まれる。これらの条件を満たしていれば、3年間に渡って、ソフトウェアの開発に必要な製品や開発ツールが入手でき、少ない開発コストで、より迅速に、ソリューションを市場投入できるようになる。

さらに、KDDIやシックス・アパートといった企業、Wipse (Windows + Services Consortium)などの関連団体のほか、ベンチャー企業支援センターやベンチャーキャピタリストなど30を超える団体で構成されるネットワークパートナーや米Microsoft本社との交流、Webサイトにおけるプロモーション機会の活用により、グローバル市場におけるビジネス展開のきっかけを作ることが可能になるという。

マイクロソフト 最高技術責任者 加治佐俊一氏

マイクロソフト 最高技術責任者(CTO)の加治佐俊一氏によると、昨年11月のプログラム開始から今年6月までの8カ月間の登録企業数は650社。マイクロソフトの新年度が始まる今年7月から現時点までの新たな登録社数は180社にのぼっており、「土日を含めて、1日3社以上が新規に登録している計算になり、勢いは加速している」という。

今後、登録会社数はさらに増えると見ており、これらの企業に対する技術支援、製品提供などを活発化していく考えだ。

また、マイクロソフトでは、新たなベンチャー支援プログラムを発表する計画を明らかにした。

今年12月に日本で開催される予定のMicrosoft Innovation Dayにおいて、詳細を発表する予定だが、「単に技術を提供するといった支援に留まらず、起業や会社運営を支援するものにしたい」(加治佐氏)としている。対象となるのは、スタートアップの企業で、「技術力はあるが、会社をどう設立したらいいのか、どう運営したらいいのか、という疑問や課題に対して、マイクロソフトなどが支援するものになる。プログラムの内容は資金援助には踏み込まないものだが、会社として機能するために必要な基本的な要素を起業家に熟知してもらうことを目的とする」としている。

マイクロソフトでは、2003年から「ITベンチャー支援プログラム」「インキュベーションプログラム」を開始。さらに、2007年からは「Microsoft Innovation Award」を開催し、イノベーションをもたらすソフトウェアを開発している企業を表彰。マーケティング支援、技術支援などを行ってきた。

ステップワイズ CEO 長谷川誠氏

2008年のITベンチャー支援プログラムの選定企業19社のうちの1社として、1年間に渡って、マイクロソフトからマーケティング支援および技術支援を受けてきたステップワイズ(本社・名古屋市)では、「信用がなく、バックボーンがなかった当社が、マイクロソフトという世界トップ企業のロゴを名刺に刷り込むこと、ホームページにも表示できたことで、それがお墨付きとなり、仕事が数多く舞い込んだ」(ステップワイズ 長谷川誠CEO)と語る。

支援内容には、マイクロソフトによる各種ツール群の提供、米国Microsoft本社での研修なども含まれる。支援プログラムに参加した企業では、全国各地で同様の成果が見られているという。

ステップワイズの長谷川誠CEOは、「いまでは実務をこなすことに追われるほどの状況になっている。Microsoft Innovation Awardに参加したいと考えていたが、仕事が忙しく、残念ながら今年は見送らざるを得なかった。来年はぜひ参加したい」としている。

Tech・Edにあわせて開催差rたMicrosoft Innovation Award 2009

一方、マイクロソフトは、8月26日、Microsoft Innovation Award 2009審査会を開催した。Innovation Awardは、マイクロソフトの技術を利用し、イノベーションをもたらすソフトウェアでビジネス展開しているベンチャー企業を対象に、独創的なアイデアからコマーシャルビジネスを立ち上げたベンチャー企業を表彰し、それらの企業に対して、マイクロソフトがマーティング支援、技術支援のほか、グローバルビジネス展開をサポートするもの。同Award 2009の優秀賞を受賞したITベンチャー企業5社のなかから、最優秀賞を選定するための審査会で、審査員などを対象に、各社の幹部がそれぞれのソリューションをプレゼンテーションした。

最優秀賞を目指してプレゼンテーションしたのは、三三、スカイフィッシュ、マジックチューブ、リトルアイランド、トラストデリートの5社。

三三 取締役技術担当 常楽諭氏

三三は、「名刺を企業の資産に変える」というコンセプトのもとに開発した名刺 SaaS「Link Knowledge」を説明。名刺をビジネス活動における重要なログと位置づけ、名刺管理はもとより、名刺中心型のCRMおよびSFAを実現するSaaS型新世代ソリューションとした。「名刺は99.9%が紙の状態で保管されている。名刺をスキャナでの読み込みだけに頼らず、人の入力によって正確なデジタルデータとし、これを活用することで、社内で情報を共有したり、対象となる人事情報や企業のニュースリリースをまとめてWeb上に表示する、自分だけの新聞を作ることができる」などとした。

Link Knowledge

スカイフィッシュ 代表取締役 大塚雅永氏

スカイフィッシュは、PowerPoint 2007のスライドショー実行時に、ノートの内容を合成音声で自動ナレーション「リアルナレーターズ with JukeDoX」をデモストレーションした。10種類のナレータのなかから声を選択でき、日本語のほか、英語、中国語などの発音も可能となっている。「時間内にプレゼンテーションを確実に終了させたい場合などにも、これを利用することができる」とした。

リアルナレーターズ with JukeDoX

マジックチューブ 代表 向井真人氏

マジックチューブが発表したのは、フェイストラッキングによる視界の自動追尾ソリューションである「WallThrough」。Webカメラなどで撮影した離れた場所にある画像を、あたかも窓越しに見ているように表示する技術で、画面の左側から見ると右奥の画像が見え、逆に右側から覗くと、左奥の画像が見えるようになる。「すぐ隣に存在しているかのような感覚を提供することができ、研究室などでの利用が想定されている」という。

WallThrough

リトルアイランドが紹介したのは、本人の声で会話するクローン ロボット「Sokkly」。本人の写真から、ぬいぐるみを作成。さらに、人工知能により、音声認識をしたり、人を見つけて本人の声で会話をしたり、踊ったりする。「独居老人をサポートするといった、福祉的な役割などに期待している。将来的には、口や目を動かしたり、二足歩行という点も考えている」とした。

リトルアイランド 代表取締役 小池浩昭氏と「Sockly」。麻生首相のぬいぐるみも登場。声もそっくりだった

ワンビ 取締役 板井清司氏

ワンビは、盗難/紛失したパソコン データを遠隔消去できるソリューション「トラストデリート」を紹介した。パソコンの盗難時などに、インターネットに接続した時点で、設定したファイルなどを消去し、情報漏洩などを防ぐというもの。ASPタイプ、または自社サーバのいずれかから選択でき、より便利でセキュアに運用できるのが特徴。「すでに金融機関において、9,000台のクライアントで導入されている例がある」という。

トラストデリート

なお、最優秀賞は、Tech・Ed Japan 2009参加者およびマイクロソフト全社員による投票、マイクロソフト役員による最終選考によって決定し、12月に開催が予定されているマイクロソフト イノベーション デイで表彰される予定。

マイクロソフトの最高技術責任者(CTO)である加治佐俊一氏は、「今年のInnovation Awardは、ITベンチャー支援プログラムを中心に選出された企業に加えて、スタートアップ企業を支援するBizSparkのなかから推薦された企業も参加しており、レベルの高いソリューションが集まっている」とした。