これまでに『自殺サークル』や『紀子の食卓』、『愛のむきだし』などの問題作で日本映画界を席巻してきた鬼才・園子温監督。彼の最新作となる『ちゃんと伝える』は、これまでの作品とはまったく雰囲気の異なる正統派のヒューマン・ドラマであり、EXILEのAKIRAを主役に抜擢したことでも注目を集めている。本作に託した想いを監督本人に伺うことができた。

『ちゃんと伝える』STORY

父が病に倒れ、初めて父に向き合おうとする息子・史郎(AKIRA)。限りある時間のなかで、史郎は父(奥田瑛二)との大切な約束を果たそうとする。ところが、彼自身もガンに蝕まれ父よりも短い余命宣告を受けてしまう。あまりにも残酷な運命を背負った史郎。父を気遣い、自身の苦しみを誰にも打ち明けられないまま時間だけが過ぎていく。しかし、そんな彼に見えてきたのは、家族、友人、そして恋人とのかけがえのない心の絆。突き動かされるように彼は、父との約束を果たすため無謀な行動をとるのだった。

園子温監督

きっかけは父親の死

――まずは本作を撮影することになった経緯について教えてください。

園子温監督(以下、園)「昨年の1月に僕は父親を亡くしました。そのときはこういう(父と子の絆を描いた)映画を撮るとは思っていなかったのですが、それから8カ月ぐらい後にEXILEのAKIRAを使って映画を撮らないかという話をいただいたときに、なぜか父と子の絆を撮りたいと思う自分がいて。それで脚本を書き始めてから、『僕は自分の父の映画を撮りたいんだな』ということに気づきました。まだ(父の死が)生々しい頃だったから撮れたのだと思います。これが5年先だったらまた違っていただろうし、もちろん父が亡くならなければ撮らなかっただろうし」

――AKIRAさんで映画を、というお話があってから脚本を書かれたということは、主人公である史郎のキャラクターはAKIRAさんのイメージで作られたのでしょうか。

「そうですね。AKIRAはEXILEでああいう格好をしているんだけど、プライベートでは普通の青年なのかなと思ったので、素朴な田舎のサラリーマンも演じられるんじゃないかと。そこで彼に髪の毛をバッサリ切って髭も剃れるかって聞いたら、それは大丈夫だってことだったので、じゃあそういう映画を撮ろうということになりました」

映画初主演を果たしたEXILEのAKIRA。先日公開されたホラーコメディ『山形スクリーム』ではまったく違った役柄にも挑戦している

「少々上手い役者」に興味はない

――AKIRAさんの演技は監督からご覧になっていかがでしたか。

「彼は自分がEXILEだってことを忘れて一人の新人役者としてやりたい、良い芝居がしたいって燃えていましたから、これは同世代でそこそこ芝居ができるやつよりも観客の心が動かせるなって思いましたね。僕は"演技って上手い下手を超えたものじゃないといけない"って思っていて、AKIRAならそれができるなと。そうしたら、やっぱりすごくハマって良い芝居になりました」

――「演技は上手い下手を超えたものじゃないといけない」というところについてもう少し詳しく聞かせてください。

「僕は少々うまい役者にはあまり興味がないんです。抜群に上手いか、四苦八苦して一生懸命にやろうとしているか、そういう極端な役者の方が好きですね。たとえば自分の限界を知っていて、『笑い顔はこれ』『怒り顔はこれ』みたいに決まり切った芝居をする人って面白くないし、感動がないんです。逆に抜群に上手い人っていうのは、常に初心に戻って新人みたいに悩みながら挑んでいくんです。そういう意味では、重鎮である奥田瑛二さんと新人のAKIRAが親子の役であるっていうことが、この映画がうまくいったある種のポイントだったのかなと思います。奥田さんはちゃんとみんなとコミュニケーションして切磋琢磨する人なので、そのおかげでAKIRAも輝くことができたんじゃないかなと」