BI(Business Intelligence)はここ数年、経営を改善し効率化するための手段として重要性が高いことが浸透しつつあり、国内の企業でも関心が高まっている。一方、BIベンダー業界では、大手ベンダーによる買収、合併が相次いでおり、再編が進んでいる。このような潮流に対して一線を画し、他のBIベンダーとは異なる独自の路線を歩み、着実な地歩を築いているのがSASだ。1976年の創業以来、成長・拡大を継続している同社の日本法人・SAS Institute Japanを率いる吉田仁志社長に、BIの現状、事業戦略、BIを経営に生かすためのポイントについて聞いた。

--内外で「景気が底を打った」という報道がなされているが、現在の経済環境をどう見ているか?--

吉田氏: 2008年暮れ以降、景気はかなり落ち込み、今年前半の時点でまだ良くなっていない。しかし、実体よりはマインドの面での影響が大きいのではないか。例えば、実際にはそれほど経営状況は悪くないにもかかわらず、今日の不況ムードに押されて、投資を凍結したり、生産ラインを停止したりして、かえって悪化させている例もある。通信業、官公庁はさほど悪くないし、金融は不況の影響を受けてはいるが、コンプライアンスに関するシステムなどが比較的順調だ。製造業が最も厳しかったが、ここに来て回復しつつある。在庫調整が一巡したからだ。しかし、それが生産ラインを止めたことの反動にすぎないのか、本当に需要が回復したのかどうかは見定める必要がある。

--最近のBIはどのような状況にあるか?--

吉田氏: あえて「BIは死んだ」と表現している。というのも、長らくBIによって"ビジネスの見える化"を実現させようとの試みが続けられてきたが、経営層にとってビジネスの状況が見えるだけでは不十分である。ビジネスの現状を知り、そこから分析と予測を行い、課題を解決していく必要があるのではなないだろうか? BIは課題を解決するための手段であり、レポートやDWHはそれを実現するツールにすぎない。そもそも、ツールは「何か」をするためのものだが、BIにおいてはその何かがわからない状況がある。「金槌を買ってはみたものの、何をするべきかわかっていなければ使いようがない」とでも言おうか。BIは本来、目的ではなく手段なのだが、履き違えられているのだ。国内では見える化に用いるレポーティングツールが一時的に売れたようだが、見える化だけでは企業の課題を解決できないわけで、BIベンダーの躍進もそこまでだった。

--では、BIのあるべき姿とはどのようなものなのか?--

吉田氏: 当社の顧客で、マネーロンダリングを防止するソリューションを利用している企業があるが、その企業は、特に"BIを使っている"という発想はないようだ。あくまでテロ資金供与の防止に有効なソリューションとして、BIを用いているにすぎないからだ。つまり、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための手段がBIだったというわけだ。BIツールを使いこなそうというのは、「木を見て森を見ない」と言えるのではないだろうか。本来はまず、経営課題があって、それを解決するための手段の一部を構成するのがBIだ。

--BIに対する企業の見解や取り組みの姿勢において、国内と国外で違いはあるか?--

吉田氏: 国外と国内ではBIに対する姿勢が異なる。国内の場合、BIに限らずIT業界全般のよくないところだと思うが、キャベツの千切りを職人芸のような仕事に依存するところがある。欧米では、キャベツの千切りならフードプロセッサーを作って誰にでもできるようにする。BIもこのたとえに似ている面があるような気がする。近年、ビジネスにおいて利用されるデータ量は増加の一途をたどっており、その勢いに見合うほど大勢の職人を短期間で育ててられるわけではない。日本企業もようやくこのことに気が付いたようだが、大事なのはその先だ。