【レポート】
リアル脱出ゲーム考案者の加藤さんは、フリーペーパーの編集長であるとともに、ロボピッチャーというバンドのリーダーでもある。なぜミュージシャン兼編集者が体験型ゲームの企画を、と尋ねると「自分でもわからない」とおどけてみせたが、「昔から『物語の世界に入ってみたいな』と考えていたところに、ネット上で脱出ゲームと出会い『これならリアルでできる』と思ったのがきっかけ」と説明する。
リアル脱出ゲームの開催は通算10回目を迎えるが、毎回頭をひねって新しいアイデアを採り入れており、謎の使い回しはしないのだという。また、今回は5日間にわたって延べ20回以上の公演を行っているが、より面白くなるよう参加者の反応を見ながら内容を調整しているので、初日と最終日を比べるだけでも少し謎が違っていることもあるとか。
都内でのイベント実施にあたっては、同名の音楽配信サイトを運営するレコミュニが主催企業となっており、音楽関連のイベントで加藤さんとつながりのあった同社の飯田仁一郎さんが現場を取り仕切る。音楽サイトがゲームイベントを開催というのも少し変わった取り合わせだが、「カルチャーの発信という意味では、音楽配信もこのイベントも同じ。リアルでも何かしたいとは前々から思っていたので」(飯田さん)と、そこに屈託はない。加えて「何かして遊ぼうと思ったとき、ただカラオケやボーリングに行くのもいいけど、そうじゃない別の面白い遊びというのがあると思っていて、僕らはそこを目指したい」(同)といった思いが、このゲームには込められているのだと話す。
また今回のリアル脱出ゲームでは、ファミコン音楽をテーマに活動を行っているパフォーマーの"サカモト教授"さんが作曲したテーマ曲「Time Limit」やBGMが使われている。サカモトさんは、頭に搭載したファミコンにゲームソフトのカセットを差し込み、そのゲームに関する音楽をキーボードで生演奏するというユニークなパフォーマンスを行っている。脱出ゲームが行われた教室のとなりではサカモトさんのライブも行われたが、脱出ゲームの参加者の多くはファミコン世代だったようで、大変な盛り上がりだった。
「Time Limit」の作曲にあたっては、サカモトさん自身がこれまでプレイしたゲームのBGMに学び、タイムリミットが迫る焦りが高まるようにリズムやコードを工夫したという。オーケストラアレンジのオリジナル版と、ファミコン風のサウンドにアレンジした「8bit remix」が、それぞれレコミュニで販売されている。
当初は取材という名目で観察者としてイベントに参加したものの、ゲームの構成や世界観が極めて緻密に練り込まれており、あまりにも楽しかったので、途中からは「これを心から楽しまないなんて野暮をするのはもったいない」という思いでいっぱいになり、完全に一参加者としてリアル脱出ゲームを楽しんでしまった。体験型のアトラクションは世に数あれど、知的な楽しさと、手足を動かして得る発見の喜びとを高いレベルで両立しているものは、そうは見かけないように思う。コンピューターゲームの面白さのエッセンスを、現実世界の楽しみに変換することに成功した一例と言うことができるだろう。
「大人が本気で遊ぶと、ものすごいことになる」ということをあらためて感じた1日だった。
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