【レポート】
今世紀最大の皆既日食ということで、仕事をサボって向かった中国・上海 - 当初、日食が見られなくても上海観光を楽しめばいいや、と軽く考えていた自分を今となっては激しく呪いたい……。以下、雨に泣かされた皆既日食負け組のどんよりとした遠吠えレポートをお届けしよう。
筆者が参加したツアーは上海市内に宿泊する日本人観光客320人をバスで1時間ほどの観測場所まで連れて行ってくれるというもの。集合場所のホテルには朝午前5時集合と連絡をもらっていたが、5分前に着いたときはすでに人の波、波、波…。ツアーを主催する旅行社はどうも、これだけの人数を一度にさばくのに慣れていないようで、ほとんど素人同然のガイドもちらほら見受けられた。なんとかチェックインしたものの、すでに出発時間は過ぎていて、ほんとにちゃんと着くのかな、と心配になる。前日まではなかった、鈍い色をした分厚い雲の塊が、さらに不安に追い打ちをかけるのであった。
6時半過ぎ、なんとかバスに乗り込み、観測場所まで向かう。動き出して30分後、バスの窓ガラスに水滴のようなものが! 「きっと現地に着けば晴れるはず」と必死に思いこもうとしたが、近づくにつれ、雨足は強くなるばかり。だが、食が開始する8時24分までまだ間がある。もしかしたら晴れてくれるかも……とほとんど神頼みに近い心境で観測場所に8時ごろ到着した。
小雨が降ったりやんだりする中、ビニールシートを拡げてカメラ機材を出す人びと、傘をさしながら、かすかな期待を込めて空を見上げる人びと…筆者も当然、カメラを普段ほとんど使うことのない三脚にセット、いままで使ったことがない太陽光フィルタまで準備した。晴れてさえくれれば、きっといい写真が撮れるはずだ! というど素人の浅薄な行動と願望をあざ笑うかのように、食開始直前の8時20分ごろから雨具ナシで外にいるのはつらくなるほどの雨、雨、雨…。持ち慣れない三脚を手に、よたよたと室内に戻る。もう食が始まっているんだよね……あきらめきれない気持ちいっぱいで、かなしく室内から外を見上げる。
だが、雨が降ろうがなんだろうが、今現在、皆既帯にいることは間違いない。一生に何度もないこの機会に、室内でぼんやりと過ごすのはあまりにもさびしい、さびしすぎる。多少、雨足が弱まったことも手伝って、三脚からカメラを外し、フィルタも取り去って、とりあえずカメラ片手に外に出た。9時過ぎ、こころなしかあたりが暗くなっていく。9時15分ごろから暗くなる速度がどんどん速くなっていく。太陽は見えないけれど、確実に月が太陽を覆い隠しているのが感じられる。それにしても、衛星が見かけ上、太陽と同じ大きさになり、昼間にすっぽりと重なってしまうなんて、銀河系の中でもかなりめずらしい現象ではないだろうか。
9時25分、皆既開始。本当に真っ暗である。なのに地平線上はほのかに薄明るい。すこし肌寒い感じすらある。きっと今ごろ、雲の上では、月に覆い隠された太陽からあふれるばかりのコロナが煌めいているはずである。見たかったよう。
気がついたら、ほとんど雨は上がっていた。ふと空を見上げると、なんと星が輝いている! 金星だろうか。昼間に星が見えるなんて、まさに皆既日食ならではの現象だ。ちょっとだけうれしくなる。
5、6分ほどしただろうか、空が少しずつ明るくなり始めた。太陽はあの辺にあるんだよな…と思いつつ、空を見つめていると、なんだか雲がすこしずつ動き始めたような気が? え、ひょっとして…と思うまもなく、太陽と月を隠していた雲にほんの少し隙間ができた。太陽が糸のように細い。全部は見えないけど、欠けていることははっきりわかる。フィルタも三脚も取りに戻るヒマがなく、手持ち状態でひたすらシャッターを押しまくった。ふつう、こんなことをしたら間違いなく目がやられるけど、厚い雲が自然のフィルタとなって、浅はかな素人を守ってくれたようである。
糸状から三日月状へ……月が少しずつ、太陽から離れていく。レンズ越しに2つの天体の動きがリアルに伝わってくる。シャッターを切りながら、妙な感動に包まれてしまった。宇宙はすごい。
太陽がわずかに姿を見せてくれたのはつかの間で、10時過ぎにはまた雲に隠れてしまい、やんでいた雨もまた降り出してきた。12時半、観測場所から上海市内に戻ろうとする我々を、最後にいたぶるかのように南国特有の特大スコール(雷付き)が降りしきる。バスに乗り込むこともできないほどの大雨に、皆既が見られなかったがっかり感も手伝って、全員、一気に疲労度がアップした。13時過ぎ、ようやくバスに乗り込み、上海市内へ。ほとんどの人が声もなく、ぐっすりと眠り込んでいた。15時近くに集合場所のホテルに到着し、解散。おつかれさまでした…。
行かなきゃよかったとは思わないが、満たされない気持ちでいっぱいの日食ツアーであった(帰りの上海→東京の飛行機、NHKニュースで流れた皆既日食が作り出す美しいダイヤモンドリングの映像に、おそらく搭乗者の半分は心にぐさぐさと穴を開けられたことだろう)。どんなに準備をしても、金をかけても、自然を操作することはできない。だからこそ観測できたときの喜びも大きいのだろう。ツアーの参加者の中には、「来年、イースターに期待だな」と話し出す人びともいた。2010年の皆既日食はイースター島で見られるのだ。なるほど、これが"エクリプスハンター"ってヤツですかい(エリカ様もそうらしい)。気持ちはわかるなあ。自分が生きているうちに、一度でいいからパーフェクトな皆既日食を見たいものである。イースター島は…どうしようかなあ(半分、本気で検討中)。
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