田中次郎プロジェクトマネージャ(PM)、石川裕PMが担当したIPA2008年度下期 未踏IT人材発掘・育成事業の成果報告会が開催された。

未踏IT人材発掘・育成事業とは、ソフトウェア関連分野でイノベーションを創出できる独創的なアイディアと技術を持ち、これらを活用する能力を持つ優れた個人(スーパークリエータ)を、優れた能力と実績を持つPMのもとに、発掘育成するというもの。さらに、スーパークリエータとして認定されると、新たなスーパークリエータの発掘を行うなどの人材育成に参画する環境を整備。あわせてビジネス化の能力を発揮できるように、産業化との連携を促進している。

報告会では、田中PMのもと、今村淳氏による「ウェブ連動新感覚コミュニケーションツールの開発」、米澤香子氏による「Human Pet Interaction Platformの構築」、久保田秀和氏による「動的コンテンツの開発を可能とするWebアプリケーション」、太田悠平氏による「音声認識併用による手書き文章処理アルゴリズム」、石川裕PMのもと、末田航氏/矢野慎一郎氏の「記憶発火装置:記憶拡張を支援する共有型ライフログプラットフォームの開発」、加藤淳氏による「matereal:小型ロボットの簡単な行動デザイン用ツールキット」の6種類のプロジェクトが紹介された。このうち、末田航氏/矢野慎一郎氏、加藤淳氏をメルコグループが支援している。

「記憶発火装置:記憶拡張を支援する共有型ライフログプラットフォームの開発」

「記憶発火装置:記憶拡張を支援する共有型ライフログプラットフォームの開発」は、暮らし(ライフ)を記録(ログ)するという、人生の履歴をソフトウェアを使って補完するというもの。意識してデジタルカメラなどで記録したものは記憶につながるとは限らない。でも、他人の指摘がきっかけで思い出した(記録主観の違い)、写真ではなくある音から思い出した(記録メディアの違い)と、記憶を思い出すきっかけはさまざま。原因は記録した情報の乏しさなのだ。そこで、ライフログを共有して解決しようというのが、記憶発火装置「Kioku Hacker」になる。

「記憶発火装置:記憶拡張を支援する共有型ライフログプラットフォームの開発」を紹介する末田航氏

記憶発火措置「Kioku Hacker」は、Web上にあるさまざまな画像、音声、タグなどを収集することで、記憶を補完する

必要なのは、写真や位置情報、タグ、そのときの感情など。ライフログを新規投稿する「postNewLifelog」、指定のユーザーから最新ライフログ一覧を取得する「getPhotoItems」、指定ライフログIDから距離的に近い順のライフログ一覧を取得する「getNearPhotoItems」といったWebAPIにより、データベースから情報を検索。送った情報に近い情報、写真、音声、文字などをXMLとして返してくれる。iPhoneで動作するでもアプリを紹介したが、喜怒哀楽の感情をアイコンにして、シャッターボタン代わりに使うことなどを考えている。

カメラで撮影した情報などからデータベースを検索し出力するという流れになっている

記憶を補完できるため、いろいろな場面での応用が可能。たとえば、ツアー旅行などでは、多くの人が同じ時間に同じ場所を共有するため、自分で撮影していない情報まで収集できる。そして、ツアー全体のアルバムが作れる。動物園などに応用すれば、ある動物園のある動物が生まれてから今までの生い立ちが分かる。さらに、たとえば、位置と深層心理から、実際の空間と認知空間の差を視覚化できる。渋谷と原宿の境目はどこかなどだ。観光や都市のマーケティング、屋外広告をどのように配置すれば効果的かなどに応用できるという。

撮影した写真を送信するところ。タグや感情を一緒に送ることで、その情報に近い情報を探し出せる

たとえばある場所で食べたカレー。ほかの人が食べたカレーや場所の情報を送り返してくれることで、情報を補完できる

「matereal:小型ロボットの簡単な行動デザイン用ツールキット」

「matereal:小型ロボットの簡単な行動デザイン用ツールキット」を説明する加藤淳氏

「matereal:小型ロボットの簡単な行動デザイン用ツールキット」は、家庭用の小型ロボットを簡単に動かせるサービスを提供するというもの。たとえば、PC画面上に実際の室内を映し出し、マウスでクリックするだけで、そこに移動したりするという感じだ。ロボットを絶対座標系で割り出し、それに対してPCが絶対座標系で行動を計算し、ロボットへ指示を出す。PC画面上に室内を映し出すためのWebカメラの普及、画像処理技術の高度化、その処理をスムーズに行うためのCPU速度の向上、PCからロボットに命令を伝える無線通信の標準化の4点がこのサービスを実現するポイントとなっている。

サービスを提供するために、ライブラリを用意。ロボットを操作するためのいままでのツールキットではロボットの開発に興味をあるユーザー向けだった。それに対して、できるだけ簡単にロボットを使えるようにして、ロボットで遊べる人を増やすことを目指している。対応ロボットは、ネットタンサー、Roomba、LEGO Mindstormなど。今後、β版(12月31日配布予定)に向け、ロボットのフォームファクタによる差を吸収する機能、OpenGLで3D CGをオーバーレイする機能、赤外線によりロボットをコントロールする機能をAPI化する予定だ。

動作環境。上部にあるWebカメラで部屋を俯瞰から撮影。PCで移動範囲、ロボットの位置などを確認し、画面上で動作を制御する

実際に会場でデモを実施。PC上でGUIを使って操作。マウスをクリックするだけなので簡単

デモの様子。ロボットはNoopyとして画面上に表示。マウスで指定した位置に移動していた