首都圏の高速道路では3つの環状道路が計画されており、このうち最も内側を走るのが首都高速道路で整備を進めている中央環状線。5号池袋線と3号渋谷線を結ぶ中央環状新宿線はほぼ全線を地下トンネル(山手トンネル)の走行とし、平成19年12月には5号池袋線と4号新宿線を結ぶ区間が開通した。現在4号新宿線と3号渋谷線を結ぶ区間を工事中で、3号渋谷線と高速湾岸線を結ぶ中央環状品川線の計画が平成25年度の完成を目指して進行中という。

この中央環状線と3号渋谷線が交差する目黒区大橋一丁目では、両路線を接続する「大橋ジャンクション」の建設工事が行われている。3号渋谷線の下を走る国道246号(玉川通り)と環状六号線(山手通り)の交差点付近だ。同ジャンクションの建設敷地は約2万5,000m2に及ぶが、環境に配慮した様々な仕組みを取り入れ「グリーンジャンクション」とも称されるという。今回、建設中の同ジャンクションを見学する機会があったので環境対策とともに紹介してみたい。

東急田園都市線の池尻大橋駅から徒歩5分程度の「大橋ジャンクション」の建設現場。住宅やビルが立ち並ぶ中、約35mの高さの外壁が出現する。中で高速ジャンクションの建設が行われているとは思えない外観

巨大な「大橋ジャンクション」は外から自動車が見えない"覆蓋"構造

3号渋谷線は高架で中央環状線は地下を走る。その高低差は約70mに達するため、同ジャンクションでは2回転のループを設けて両路線の接続を行っている。2車線を有し、道路延長は約1.2km。同施設の最深部は約36m、地上部分は約35m、ループ部は約175m×約130m、一周400mと巨大なもの。伊豆の川津方面へ向かう国道414号を自動車で走ると天城峠を越えた先で川津七滝ループ橋という二重ループ橋を通るが、このループ橋を2車線化して更に大きくしたものが同ジャンクションのイメージだ。ちなみに、川津七滝ループ橋は片側1車線で延長約1.1km、高さ約45m、直径は約80m。

「大橋ジャンクション」と3号渋谷線、中央環状線の接続イメージ。高架と地下を結ぶために二重ループ構造をとる。 提供:首都高速道路

予定経路図。3号渋谷線の上下線から中央環状線にアクセスできるように計画されている。 提供:首都高速道路

ジャンクション建設地は都市の住宅密集地域だが、渋滞が多い路線を結ぶ中央環状新宿線が接続することにより通行量の増加が予想される。周辺住民がさらに自動車の騒音や排気ガスに悩まされることは無いのだろうか。ほぼ全線をトンネル構造とした中央環状新宿線には、騒音や振動が沿道に伝わらず、排気ガス対策も効率よく行えるというメリットがあるという。また、地上の景観に与える影響も少ない。同ジャンクションも地下の部分にはこのメリットが適用されるので、問題は地上部分の対策となる。そこで、地上のループ部を構造物で覆う"覆蓋化"を施し、騒音や排気ガスを低減する方法を採用した。道路部分全体を覆うことにより騒音を遮断し、排気ガスはループ内に設置される換気所に集めて有害物質を除去する仕組みだ。

「大橋ジャンクション」の完成予想模型。ループ内の建物は換気所。緑の部分は、緑化予定の区域

ループ部はイタリア ローマのコロッセオ(約188m×約156m)に近い大きさ。地上部分の高さは10階建てのビルに相当する。巨大だ

ループの内側。コンクリートミキサー車と比べると、壁の高さがよくわかる

工事中のループ内部の道路。舗装工事や道路設備の取り付けはこれから

外壁に取り付けられた金属製の階段。今はこの階段を使ってループ部の屋上へ上ることができる。右は階段から出たところ。目の前に広大なループ部の屋上が広がる

ループ部の屋上の様子。予想していたよりも傾斜がきつい

屋上から見たループ内側の様子。写真中央の建物は工事関係のもので、工事が終わると取り壊される

排気ガス対策を行う換気所で有害物質を除去

ループ内には「大橋換気所」が建設され、排気ガス対策用の換気塔を設置。空気を入れ換えるとともに、最新の設備を導入して排気ガス中の有害物質を除去するという。換気所に集められた排気ガスは最初にSPM(浮遊粒子状物質)除去装置を通り、電気集塵によりSPMの80%以上が除去される。次に、低濃度脱硝装置でNO2(二酸化窒素)を90%以上除去するとのこと。また、換気所から発生する騒音を低減するための消音装置も設置。静かな公園程度まで騒音レベルを抑えるとしている。

「大橋換気所」の完成予想模型。建物の最上部に換気口が設置される。ループ部の断面に車線を確認できる

2本のクレーン塔が立っている部分が建設中の「大橋換気所」

ジャンクションの屋上は緑化して公園に

構造物で覆われたループ部には屋上ができる。同ジャンクションでは屋上部分の緑化を行い、公園として一般にも公開する予定だ。屋上の公園は7,000m2ほどの広さになる見込みで、1mほど盛り土をして植樹等を行うという。そのほか、換気所の屋上やジャンクションの周辺も緑化し、ループの内側にも3,000m2の広さの公園を設けるという。これらの緑化により、年間約40tのCO2を削減する効果があるとしている。

ループ部には傾斜が発生するため屋上も傾斜地となり、そのままでは潅水用の水がどんどん流れてしまう。これを防ぐため、屋上に水止め用の堰をいくつも造るとのこと。通常の屋上とは異なる苦労もあるようだ

沿道や環境に配慮したその他の取り組み

覆蓋化、換気所、緑化のほかにも、同ジャンクションでは沿道や環境に配慮した様々な取り組みが行われる。地域の生活の場に建つ建築物であることから、外壁には質を高める手法が取り入れられた。壁面に施された凹凸のデザインで光を乱反射させることにより、圧迫感を低減するという。また壁面には光触媒をコーティング。光触媒の持つ汚れを分解する機能と超親水性機能が降雨時に汚れを流し落とし、建てた時の外観を長期間保つとのこと。

遠くからはのっぺりとした印象の外壁だが、近くで見ると細かな処理が施されていることがわかる。右は拡大したもの

ループ部の壁面や換気所内の床面の塗装には、アレルギー症やシックハウス症候群の発生原因とされるVOC(揮発性有機化合物)の含有が少ない低VOC塗料を使用。照明などの機器は省エネタイプに、一部の標識板では電気による照明の必要がない超高輝度標識板を採用するとしている。

そのほか騒音対策としては、高架部の遮音壁、高架下面の裏面吸音材、低騒音舗装があげられる。遮音壁は高架部から周囲へ拡散する騒音を、裏面吸音材は高架の下面で反射する騒音を低減。低騒音舗装は一般の舗装よりも多数の隙間ができるように工夫されたもので、自動車のタイヤと路面の間で生ずる騒音を低くする効果があるという。

さらに、排出ガス対策型や低騒音・低振動型の建設機械を使用し、工事用車両のアイドリングストップも推進。地域清掃を実施するなど、工事の現場においても環境に配慮しているとのこと。

舗装工事と道路設備の取り付けを待つループ内部の道路。壁面には低VOC塗装が施される

「大橋ジャンクション」から3号渋谷線の東名高速方面へ合流するアプローチ。今後、舗装工事や遮音壁の取り付けが行なわれる

橋桁の取り付け工事が行なわれている「大橋ジャンクション」から3号渋谷線の都心方面へ合流するアプローチ。写真中央のクレーンは国内に10台程度しかないという800t吊りクローラークレーン

アプローチの道路部分。奥に見えるのがループへの入り口

橋桁の取り付け部分。3号渋谷線の上で工事は行なわれている。右は橋桁の取り付け部分を地上から見た様子

まちづくりと一体で進められるジャンクション建設

同ジャンクションの周辺では大規模な再開発事業が行なわれている。地域住民、目黒区、東京都、首都高速の4者が一体となってまちづくりに取り組むプロジェクトとして、事業を推進しているとのこと。再開発エリアは「O-Path(オーパス)目黒大橋」と名付けられ、地上42階建ての住宅・店舗・事務所棟および地上27階建ての住宅棟が建築される。目黒区のサービス事務所や大橋図書館などの公共施設も設けられ、地域イベント等にも利用できる多目的な広場の設置も予定されている。

平成2年に中央環状新宿線都市計画が決定した時点では地上部の"覆蓋化"の計画は無く、環境に対する意識の高まりの中で"覆蓋化"が提案され、事業計画の変更に至ったという。また、屋上部分やループ内側の公園化は、4者による話し合いの中で生まれたとのこと。地域の全ての住民が納得する事業は困難であろうが、時代や環境の変化に対応することの重要性をあらためて認識した見学であった。