NEC 執行役員 兼 中央研究所長の國尾武光氏

NECは6月29日、同社の研究開発に関する説明会を開催した。まず概要説明を行なった同社の執行役員兼中央研究所長の國尾武光氏は、同社の研究開発体制について「将来事業を創出する革新的なイノベーションと現事業を大きく発展させる継続的なイノベーション」の"2つのミッション"があるとした。予算割合では、各ビジネスユニットでの"今日の技術開発"に9割、中央研究所が担う"明日の研究開発"に1割が充てられているという。

中央研究所での研究開発は、おおよそ3~5年後に実用化されるくらいの研究が中心となっているそうだ。現在の中央研究所では「環境動向対応型R&Dマネジメント」の推進に取り組んでいるという。"環境動向対応"とは、いわゆる地球環境(エコロジー)という限定的な意味ではなく、経済環境を含む「事業環境の変化に応じてR&DのROIを最大化する」ことを目指したものだという。具体的には、「オープンイノベーションの活用」として、社外にある技術の取り込みによるR&Dのスピードと効率の向上と、「コンカレントR&D(R&D+Market型)への挑戦」の2点が挙げられている。

オープンイノベーションの活用では、社外の研究開発コミュニティとの連携に取り組んでおり、特に国立の研究組織との共同プロジェクトが急速に増加しているという。また、コンカレントR&Dは研究の初期段階から先端市場/顧客と共に価値を創造するという取り組みで、いわば"今日の開発"と"明日の研究"を直結する試みだと言えそうだ。

3つの具体的な研究成果

概要紹介に続いて、具体的な研究成果として「大規模データのストリーム処理技術」「音声認識技術」「プログラマブルフロー・スイッチ」の3つのテーマについて、デモを交えた紹介が行なわれた。

"大規模データのストリーム処理技術"は、多種多様なセンサなどから時々刻々と生成される膨大なデータをリアルタイムに収集・分析し、状況に応じてきめ細かく制御する技術だ。RFIDなどの処理にも必要となる技術だが、デモでは自動車をセンサと見立てた"プローブカー"の走行状況をリアルタイムに処理してより精緻な渋滞情報を可視化する例などが紹介された。

「大規模データのストリーム処理技術」の概要

従来は、データをまずデータベースに格納し、アプリケーションによる分析を実行していたが、"ストリーム処理技術"では、データベースを介さず、データを流れ作業的に解析するための「細分分析」処理を多段で構成することでリアルタイムで解析処理を進めていく。時系列データの処理の際には、前回の解析結果を使って差分解析を行なうことで処理負担を軽減する一方、細分解析済の生データを捨ててしまうことでデータ量も減らし、効率的な処理を行なうという。

"音声認識技術"は、同社の研究開発の長期的な取り組みの一例として紹介されたもの。1960年に京都大学と共同で単音認識を実現した「音声タイプライタ」を試作したところから始まり、50年近い歴史を誇る研究だ。最新の成果では、裁判員制度の施行に備え、裁判員による審議のための資料として直前の法定での発言を文章化するための音声認識システムを裁判所に納入しており、現在は最高裁判所と共に最終的な検証作業を行なっているところだという。

「音声認識技術」の概要

"プログラマブルフロー・スイッチ"は、ルータやスイッチといったネットワーク機器のデータ転送機能とネットワーク制御機能を分離し、制御機能を一カ所に集約することで柔軟なネットワーク制御を実現しようとする試みだ。デモでは、アプリケーションが要求する回線帯域幅に応じて伝送経路をユーザーが明示的に切り替えることが可能になる様子が紹介された。

「プログラマブルフロー・スイッチ」の概要

ルーティング・プロトコルの拡張やラベル・ベース・ルーティング、QoS制御など、既存の技術の組み合わせでも同様の機能は実現できるような気もするため、正直意義が分かりにくかったが、ネットワークの将来を見据えてインフラ部分から見直す取り組みを進めていることはよく分かった。

「プログラマブルフロー・スイッチ」のデモの様子

なお、NECの研究開発予算は昨今の経済環境の悪化を受けて総額ではやや減少しているが、事業予算に対する比率は維持されており、事業予算規模の縮小に比例して減少したものの、R&Dへの取り組みとしては特に変化はないという。