【レビュー】
『戦国無双』に『戦国BASARA』、『風林火山』に『天地人』――ここ数年、世間で空前の戦国ブームが起こっていることは皆さんもよくご存じの通りですが、そのブームにちょっと変わった角度から乗っかってきた映画が公開されました。
古波津陽監督が2005年に300万円という低予算で製作した短編映画を劇場公開版としてリメイクした、『築城せよ!』。
ひょんなことから現代に現れた3人の戦国武将たち。かつて、自分たちの城を完成させることができずに無念の死を遂げた彼らは、果たせなかった夢を叶えるために再び現世に舞い戻ってきたのだった。期限は3日間。素材は何と段ボール! 戦国武将・恩大寺の「築城せよ!」という号令のもと、過疎化する町・猿投(さなげ)の住民を巻き込んだ築城ドラマが幕を開けた――。
……いやー、びっくりした。現代にタイムスリップしてきた戦国武将が段ボールで城を建てる、というあらすじを見て、「こいつぁB級映画の匂いがぷんぷんするぜ!」とワクワクしながら試写会に出向いたら、良い意味で見事に裏切られてしまいました。まさかこんな良作だったとは。
舞台が戦国時代ではなく現代であることや、段ボールで築城するという奇抜なアイデアから、戦国物というよりも単なるネタ作品のように思われがちな本作。実は現代における"ものづくり"や、地方の過疎化問題などについて考えさせられる、なかなかに深い作品で、キャストも片岡愛之助、海老瀬はな、江守徹、阿藤快と豪華な顔触れがそろっています。
見所はなんといっても撮影のために本当に作ってしまった段ボールの城。映画の美術スタッフの他、愛知工業大学の学生たちや、このために呼び寄せられた京都の宮大工などの力を結集し、2カ月以上の期間と約12,000個の段ボールを用いて製作されたというお城は、ニンジャ好き外国人が本物の城だと勘違いしてもおかしくないクオリティに仕上がっており、もういっそのこと映画のセットだとかそういう細かいことは無視して、このまま観光用に現地に残しておいても良かったのではないか、とわりと真剣に思いました。そしたらほら、映画を見た人が聖地巡礼で訪れるかもしれませんし……。
それにしても"段ボールでお城を造る"という夏休みの自由研究レベルのアイデアを、大人が全力でやるとここまで芸術的な作品に仕上がるというのには本当に驚かされました。 全部CGでやるのかと思いきや、ちゃんと実際に造っているところも高ポイント。この手作り感はCGじゃなくて正解だったと思います。……いや、単に予算の都合かもしれませんけど。とにもかくにも、技術大国日本の本気を今さらながらに見た気が致しました。
――そして、段ボール城のクオリティに負けていないのが、主演を務める片岡愛之助の名演技。
役場に勤める頼りない青年・石崎祐一と、誇り高き戦国武将・恩大寺の両方を演じ切り、特に武将役がぴったりとハマっているのはさすが現役歌舞伎役者といったところ。彼が扇子を片手に謡いながら舞うシーンは鳥肌モノで、プロの実力をまざまざと見せつけられます。
最近の戦国ブームは女性が主導であり、それというのも現代の男性にはないカッコよさや力強さを戦国武将に見出しているからだという話をよく耳にしますが、恩大寺を見ていても、何となくそれがわかる気がします。だって「段ボールで城を造れ」とか無茶苦茶なこと言っているだけなのに、不思議なカリスマ性があるんですよ……。
羽織袴を着ただけで"遅れてきた七五三"みたいになる僕としては、なんとかして戦国武将のカッコよさを少しでも身につけるべく努力していこうと思います。
さらに、ヒロインのナツキを演じている海老瀬はなの魅力も、本作での見逃せない要素のひとつ。身体を霊に乗っ取られた父親に代わって築城の指揮を執り、大工のオッサン連中や手伝いにきた大学生をビシビシと仕切りながらも、たまにふと不安げな表情を見せるそのギャップが最高です。
なお、どう考えても海老瀬はなファンに向けて作られたとしか思えないシーンがちゃんと最後に用意されているので、ファンの方はそれもお楽しみに!
さて、本作の基本ストーリーは、突如現れた戦国武将と住民が手を取り合って城造りを進めていくというものですが、もちろんそれだけではなく、"敵役"として町役場の面々が登場し、執拗に築城の邪魔をしてきます。 しかも恩大寺の魂がこの世に存在できるのは次の満月まで。残された期間はわずか3日間。果たして本当に段ボール城は完成するのか……。
そのへんのハラハラ感と、悪役のボスである町長の馬場や、広報部長・二本松のどこか憎めないキャラクターも含め、テンポよく展開する"なんちゃって戦国コメディ"をぜひ楽しんでほしいと思います。
世の中には不況という言葉が蔓延していて、特に地方は深刻な状況が続いているわけですが、現代の日本を元気づけてくれるのは、小難しい理屈や机の上だけで展開される空論ではなく、笑って楽しんでちょっとだけ勉強にもなる、本作のような作品なのかもしれませんね。
『築城せよ!』は新宿ピカデリー他にてロードショー中。
(C)2009「築城せよ!」製作委員会
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