――脚本に少し目を通させていただいたのですが、かなり細かいところまでこだわって描写されているという印象を受けました。たとえば、真理の乗っているバイクに非常に細かな指定がなされている点などは、やはり監督のこだわりなのでしょか?

「バイクの指定は僕の趣味ですね(笑)。やっぱり自分の趣味を投影すると、そこに食いついてくれる視聴者の方っていらっしゃるじゃないですか。自分と同じ趣味を持っている人間が作っているとなると、作品の印象も変わってくると思うんですね。また、アニメの中に出てくるモノも、わけのわからない、用途もわからないような機械より、具体的なモノ、観る方が知っているモノが出てきた方が、世界観に広がりや奥行きができると思うんですよ。なので、そういうところはかなりこだわって作りこんでいます。バイクに関しては完全に趣味で、僕が欲しかったバイクです(笑)」

――モノに限らず、シチュエーションなどもかなりリアルさを感じさせるストーリーになっていると思うのですが、このあたりの取材はかなり綿密に行っているのですか?

「地震が起こったときに、建物がどうなるのか? そして実際に行政がどう動くのか? といったところは、プロデューサーの皆さんかなり細かく取材をしてくれています。ただ、今回の主人公は中学生の女の子なので、地震が起こったときに、国や政府が何をしてくれるかというところには、まず考えがいたらないじゃないですか。自分の目の届く範囲が自分の世界のすべてである中学生の女の子が、こういった状況で何を感じるのだろう、というところは一番みんなで話し合ったところですね」

――風景などの描写だけではなく、人の行動においてもリアリティを追求しているということですね

「そうですね。こういうことを言ったらお姉ちゃんはこうするんじゃないか、こういう風に言われたら傷つくんじゃないか、こんな言葉があれば気持ちが楽になって優しくなれるんじゃないか、そういった描写に非常に気を遣っています。舞台を用意して、そこに性格のできあがったキャラクターを投げ込むとどのような反応をするのか? そういったことをシミュレーションしながら、作業を進めています。脚本の打ち合わせの際も、言葉遣いやリアクションは一番注意しているポイントですね」

――そういった点では、実際に地震に遭遇したときの指針となるようなマニュアル的なつくりというのは意識なさっていますか?

「『地震のときにこうすれば助かる』といったことは実はあまりやっていないんですよ。物語上、危険を避けて安全なところにばかりいってしまうと、何もドラマが起こらないので(笑)。そういう意味では、あえて死中に飛び込むようなことをしているんですね。ただ実際に地震が起こった際、行政がどのように動いてくれるのかといったところはいろいろと調べて、できるかぎり反映させるようにしています」

――地震のときにコンビニへ行くと物資がもらえるという描写もありますね

「実際に地震が起こったら配っちゃうらしんですよ。コンビニの商品は賞味期限が非常に短いので、置いておいても仕方ないし、ガラスを割られて盗まれるくらいならドアを開けてどうぞって配ってしまうほうがいいということらしいんですね。そのほか、災害に対応している自動販売機は、電気が切れたらボタンを押すだけでジュースが出るようになっているとか、調べてみると面白い話がたくさんあるんですよ。こういった話も、すべてというわけではないですが、できるだけ盛り込んでいっています」

――あと、脚本を読んで感じたのが「大人が汚い」ということですね

「やはりそのあたりは、"中学生目線"なんですよ。中学生というと、"大人は汚い"だとか、いろいろと社会のルールに不満を持ち始める頃じゃないですか。そして、自分が実は守られている存在であるということを自覚できていない頃なんですよ。今まで何となく子どもだからといって許容されていた部分や、守られていた部分が、地震によってすべて壊れてしまう。そして、大人が知らず知らずのうちに手を差し伸べてくれていた部分が一切なくなったときに、自分がすごく小さな存在で、知らないところで守られていたんだということに気がつく……。そういったところを表現したくて、その対比として『悪い大人』、『汚い大人』に何人か出ていただいています。その分、いい大人も出していますよ(笑)」

――悪い大人が出てくることで、真理の存在がすごく活きてきている気がします

「そうなんですよね。生きるか死ぬかという状況になったとき、やはり一番大事なのは自分の命じゃないですか。そうなったときに、他人に対して手を差し伸べることができる人とできない人が出てくるわけで、そんな中で、ドンドン心細くなっていく主人公の未来は、そこに手を差し伸べてくれる人がいてはじめて、こういう人たちのおかげで自分は生きていられたんだということに気付く……。そういったところを表現していきたいと思っています」

――『東京マグニチュード8.0』をご覧になる方に、ここを注目してほしいというポイントはありますか?

「僕がこだわっているのは、主人公たちの心の機微や感情の変化ですね。また、地震が起こるのが東京ということもあって、皆さんがよく知っている風景が出てくるんですよ。ただ、そのまま出すといろいろと問題があったりするので、少しいじったりしていますが(笑)、そのあたりも注目してください。あと、アニメのキャラクターの場合、ときどきものすごく突飛な行動をとってしまうことがあるのですが、観ている方が『それはないな』と思うようなことは、できるだけなくそうと努力しています。そして、『そういうことってあるよね』とか、『そういうことを思わずしちゃうよね』といった感じで自己投影ができる形に近づけられたらなと思っています。あまりこういうことを言い過ぎると、ハードルが高くなって墓穴を掘るのですが(笑)、とにかくお姉ちゃんと同じ立場になったらどういう風になるだろうということを想像してもらえると、より作品を楽しめるのではないかと思います」

――ちなみに東京はどのくらい壊していますか?

「けっこう壊していますよ(笑)」

――キービジュアルでは東京タワーも倒れかけています

「この絵はポスター用の派手に描いたもので、実際のところ東京タワーは地震では崩れないといわれているんですよ。じゃあどうやったら壊れるのかといったあたりを、設計図をみたり、詳しい人に聞いたりして、これならいけるという壊し方をいろいろと試しています(笑)」

――壊し方もリアルを追求しているわけですね

「実のところ、『マグニチュード8.0の地震が来たらどうなるかなんてわからないよ』という方がほとんどなんですよ。神戸の地震の際も、最新のビルが意外ともろかったという話もありましたし。なので、壊れそうなところや古そうなものを壊したり、ここが壊れたらショックだろうなっていうところを壊したり、そういった感じで絵を作っています。建物の壊れ方は写真などを見て、できるだけリアルに描いていますよ」

(次ページへ続く)