岩根忍女流二段

――待望の第二子がお生まれになられましたが、お名前はなんと名づけられましたか?

岩根忍(いわね・しのぶ) : 1981年3月16日、大阪府出身。95年、6級で奨励会入会、2003年1級で退会。04年女流1級で女流棋士に。09年女流二段。04年から2年余り、村田智穂女流初段と「お気楽コンビ」を組み、普及活動を行った。手厚い四間飛車を好む振り飛車党で、惜しみなく時間を投入して読みを入れる本格派。盤外ではソフトな笑顔と柔らかい関西弁が人気の「しいちゃん」。

岩根女流二段 : 大夢(だいむ)と言います。長男の一文字と、主人が好きな「夢」という文字を組み合わせてつけました。男の子だということはかなり前から知っていたのですが、どういう名前をつけていいのか、出産の日まで決まらなかったんです。でも、生まれた日にその名前が浮かびました。

――出産後、生活の変化はありましたか?

岩根女流二段 : 新生児なので、夜中も2~3時間おきに起きてしまうので寝不足ですね。ミルク、授乳で1時間ぐらい起きて1~2時間で起きちゃうので、実際はもっと短いかも。最近やっとペースがつかめたかな、というくらいです。それに、やんちゃざかりの長男もいるので、体力を維持するのが大変で。将棋のこともいつも片隅にあるのですが、将棋の時間をなかなか作れないのが現状です。

――タイトル戦の前ですから、体調管理が大変ですね。そういう時はどうされていますか?

岩根女流二段 : できるだけ、睡眠を取るようにしています。大夢が寝ている時に一緒に寝たり。でも、主人も一緒に子育てをしてくれていますし、私の親兄弟や、主人のご両親も応援してくれていて、家族のサポートがないと将棋はできない、ということを改めて感じました。

――タイトル戦での妊娠・出産ということで、不安な部分はありましたか?

岩根女流二段 : 挑戦者として決まってからは、タイトル戦が無事終わるかどうかが一番心配でしたね。出産日はもともと、1週間ぐらい早まりそうだったんですが、お医者様から「2週間早まる」と聞いてもまだ、対局に行くつもりでした。「大丈夫なのかな」って。最終的には、お医者様の判断に従いましたが。

――産休が認められたことについては、どう思われますか?

岩根女流二段 : 若い女流棋士が結婚や出産について、不安だったところが少し緩和されたのであればよかったな、と思います。

――2人目ということで、楽な部分はありましたか。

最近ほしいものは「iPhone」という岩根女流二段。「音楽が聴けるのがいいですね!」

岩根女流二段 : 一人目は分からないことだらけで、泣いていても「なんで泣いているのかな」と思うこともありましたが、今は泣いていても「多少大丈夫」「泣くのも仕事だから」って思って、手が離せないときは少し放っておくこともあります。もちろん、手が空いているときは放っておくということはありませんよ。気持ち的には大分楽ですね。

――育児と仕事の両立で大変かと思うのですが、息抜きはどのようになさっていますか?

岩根女流二段 : それが最近は家事や育児に追われて、自分の時間はほとんどなくて。主人が休みのときに、子供を預かってもらって1~2時間程度近くの百貨店をぶらぶらするぐらいかな。買わなくても、見ているのが好きです。妊娠中はふわっとした服を着ていたので、そうじゃない服を着たいなって思います。

――前期2008年度の成績も7割1分4厘と好調ですよね。以前の記者会見では、ご長男のおかげとおっしゃっていましたが。

岩根女流二段 : 今、2歳8カ月になる長男が、半年前から「勝った?」って言うようになって、それから「勝つこと」への執念が芽生えました。それまでは諦めが早いというか 執着心が薄かったのかもしれません。取材を受けて気づきました(笑)。長男が喜ぶ顔が見たくて諦めなくなったと思います。対局の朝、いつも出先から家に電話をするのですが、電話越しに長男が「王手した?」とか聞いてきて! 誰かに教わったんだと思うのですけど。

――2歳8カ月で「王手」とは! 将来が楽しみですね。

岩根女流二段 : 長男は『激指』(岩根女流二段は、棋譜の読み上げに参加している)に出ている画面の中の"私"と将棋してます、「ママが出てる~」って。(マウスで)駒をすべて2段目に移動させたりして、全然分かっていないと思うのですけど。駒をとられたら「しまった」「間違えた」とか言ってます。でも、将来棋士にしたい、という思いはないですね。将棋は教えると思うんですが。元気に育ってほしい、そして大きくなったら自分の好きな仕事を見つけてほしいなって思います。それに、やんちゃでじっとしてられない子なので、スポーツをするんじゃないかな(笑)

――そんなに、「やんちゃ」なんですか?

岩根女流二段 : とにかく元気で、ずっと動いてます。2時間ぐらい散歩は平気で、困っちゃいます(笑)。駒を並べるのが好きなのですが、そのうち投げ出してしまうので、今は駒を隠しています。

――大夢君が生まれてから、お兄さんらしくなったのでは?

生まれたばかりの大夢君と、長男・浩大君と共に。

岩根女流二段 : たしかに、お兄ちゃんらしくなりましたね。自分が機嫌のいいときは、大夢にすごくかまいたくて、しょっちゅう、チュッチュチュッチュしてます(笑)。でも、長男がベビーベッドの上に乗り込むという事件が起きまして! まだまだ、目が離せません。

――今回のタイトル戦、岩根女流二段はどのようなお召し物でしょうか?

岩根女流二段 : 対局ではほとんど袴を着たことがありませんが、2局目は和服を着る予定です。これから袴を選びますが、ブルーが好きなので、マイナビカラーでもありますし、着てみたいなって思います。

――女流棋士のタイトル戦が初めて大阪で行われるということで、岩根さんにとってはご出身地での対局ということになりますが。

岩根女流二段 : 2局目が行われる料亭 芝苑は、タイトル戦を見に行ったり、ご飯を食べたりして、何度も通った場所ですから、とても楽しみにしています。関西なので、ほっとするというか精神的な部分は大きいですね。(当初第1局が予定されていた)倉敷も西日本だったので、ほっとする部分はありましたが、大阪ということでより強く感じます。

――矢内女王とは10代からのお知り合いですよね。

岩根女流二段 : 高校時代に友人と皆でご飯を食べて、その時矢内さんと一緒だったのが最初だったと思うのですが、第一印象は同世代なのに、落ち着いているというか大人な印象でした。 しっかりしているイメージです。同世代の矢内さんとタイトル戦で対局できるのは嬉しいことだと思っています。

――岩根さんにとって将棋の魅力は?

岩根女流二段 : 小学校3~4年生から本格的に将棋を始めたのですが、周りに同世代の男の子がいて自然と将棋をしていました。いろんな手が無限にあるのが将棋の魅力だと思います。

――お子さまの名前のように、今の夢を教えてください。

岩根女流二段 : まずは、マイナビ女子オープンの五番勝負で、普段どおりに将棋が指せて、かつ内容のよい将棋をして、タイトルをとれたらなぁと思います。プライベートでは、家族元気で仲良く、それに尽きます。

――最後に意気込みと読者へのメッセージを教えてください。

岩根女流二段 : 普段どおりに動いて、前の日だから何かということはないですね。タイトル戦も気負わず、普段どおりに指せればいいかなと思います。ネットで対局を見ていただけたらうれしいです。

(写真提供 : 週刊将棋 / 将棋世界)


マイナビ女子オープンは2007年、将棋界としては15年ぶり5つ目のタイトル戦として創設された女流戦。優勝者には「女王」の称号が与えられ、優勝賞金は女流棋戦では最高額の500万円が授与される。主催は、毎日コミュニケーションズ、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会の三者。対局中はネット中継も行われ、動画や写真が配信される。第2期マイナビ女子オープン女王決定五番勝負の詳細はマイナビ女子オープン公式サイトまで。

第2期マイナビ女子オープン女王決定五番勝負 日程

日程 場所
第1局 6月18日 東京都渋谷区・将棋会館
第2局 7月2日 大阪府・料亭 芝苑
第3局 7月15日 東京都渋谷区・将棋会館
第4局 7月22日 東京都渋谷区・将棋会館
第5局 8月6日 東京都渋谷区・将棋会館