日本でもライセンシーが増加

英ARMの日本法人であるアームは6月3日、ARMのCEOであるWarren East氏が来日するのにあわせ、都内で事業戦略記者説明会を開催した。

Photo01:アーム代表取締役社長の西嶋貴史氏

説明会ではまずアームの西嶋社長(Photo01)が簡単に日本の状況の説明をおこなった。同氏によれば、ライセンシーの数も次第に増加しており(Photo02)、またEmbedded MCU/MPU市場におけるPresenseも高まりつつある状況(Photo03)である。また最近の製品プロジェクトを見ても、ARMが使われているケースが次第に増えてきている、としている(Photo04)。昨今はNTTドコモのAndroid携帯を始め、色々なところでARMが前面に出てくるケースが増えてきており(Photo05)、今後もこうした傾向が加速されてゆくとした。

Photo02:Subsciptionはいわば包括ライセンスの様なもので、これをもっていると複数のARM製品をまとめて利用可能である。それにしても、Cortex全体のライセンシーがARM11に匹敵するほど大きくなっているのはちょっと驚き

Photo03:x86の数が100万個オーダーなのはちょっと少なく感じるが、少量多品種な用途向けが多いことを考えれば、こんなところかも。

Photo04:これはあくまでも開発プロジェクトの数であって、製品種類ではあっても出荷個数とはダイレクトには繋がらない。いわゆるDesign Winと称される数に近いもの。ITRON系でも次第にARMを使うケースが増えているのが興味深い

Photo05:ただおおっぴらに公表していないだけで、今までも多数使われてきてはいた。例えばNintendo DSやDL Lite、DSiにはARM9とARM7が搭載されており、今年3月末にこれらの出荷数合計は1億台を超えているから、これだけで2億個のARMが使われている計算になる。ちなみに任天堂は他にもGAMEBOY ADVANCEなどでもARM7を搭載している

200社に600以上のIPをライセンス供与

Photo06:Warren East氏。ちなみに2001年より現職。今回は6月1日にCOMPUTEX/TAIPEIで基調講演を行った帰りに日本に立ち寄った形

続いてはWarren East氏(Photo06)が登場し、まずはARM製品の全般的な説明を行った。ARMの場合、Processor IPとPhysical IP、それにS/W(Software)という3種類のソリューションを提供している(Photo07)。このうち一番重要なのがProcessor IPということになる(Photo08)。ARMの場合、すでに200社以上に600以上のProcessor IPをライセンス供与しており、これによるライセンス収入が同社の大きな柱となる。同社の場合まずCPUアーキテクチャを開発するのに2~3年、それを使ってクライアントが製品化を行うのに3~4年となるので、開発から実際に搭載製品が出るまで5~7年という長い期間が必要だが、その代わり一度製品化が済むと、長いものでは20年以上に渡って生産が行われ、この間ライセンス収入が得られる事になる。このあたりが同社のビジネスの大きな特徴と言える。

Photo07:ARMの製品が明確に「これ」と見えるケースは少ない。大抵の場合、SoCなどの形でメーカーが作るASICの中にARMのCPUコアが含まれているというパターンになる

Photo08:質疑応答の中で、こうしたライセンス供与にまつわる収入が同社の売り上げの半分以上を占めているとのことが明らかにされた

その同社のマーケットシェアを分析すると、ちょっと面白い。Photo09が2008年におけるシェア、Photo10が2013年の予測である。現時点で、やはり一番大きいのは携帯電話向けのマーケットであるが、出荷数量そのものを見ると約半分は携帯電話以外の用途向けとなっていることが分かる。これはどういうことか? を示したのがPhoto11だ。

Photo09:Computingというのは、例えばSnapDragonを搭載したNetbookなどのCPU向けという用途。ちなみに後述するSmartbookは、分類的にはこちらではなくSmartphoneに入る模様だ

Photo10:携帯電話は高機能化が進む事で、より多くのARMコアが内部に入ることを想定しているようだ

Photo11:例えばWi-Fiだと、Atheros Communications以外のベンダは内部にARMコアのコントローラを搭載しているから、これで1つ分のロイヤリティとなる。同様にBluetoothもCSR以外のベンダはARMを搭載しているし、3G WirelessモデムもほとんどがARMをコントローラとして利用している。そんな訳で、例えばSmartphoneを1台売ると、その中にはARMプロセッサが7つ分含まれているわけで、ロイヤリティは7つ分となるわけだ

機能が制限されている低価格の携帯電話は、電話機1台が売れてもARMプロセッサのロイヤリティは1つ分しか入ってこない。ところがSmartPhoneやLaptopでは平均7、Netbook/Smartbookでは12にもなる。したがって、当然ながらこうした多機能で、多くのARMプロセッサを利用するような製品に力を入れてゆくのが、出荷数量を増やしてゆくために有効という事になる。

もっともこうしたソリューションは、ARM単独で実現できるわけではない。特に昨今では垂直統合型のソリューションを提供するベンダはなくなっており、複数の企業のソリューションの連携で製品構築に向けてゆく必要がある(Photo12)。

Photo12:初期は極端に言えばSamsung ElectronicsとかTexas Instruments(TI)といった、自社でファウンドリを持つメーカーにだけ販売していればよかったわけだが、そうしたマーケットはほぼ一巡しており、またFablessベンダが出てくるようになってくると、さまざまなオプションを提供する必要が出てきた。また特に微細化が進むと、開発ツール類を含めて1ストップソリューションが非現実的になりつつある状況も、こうしたコラボレーションを必要とすることになる

こうしたソリューションはARMの得意とする部分であり、うまくビジネスとのパートナーシップを提携できているが故に、例えば売り上げの伸びを見ると半導体業界全体の伸びを上回る勢いとなっている(Photo13)。もっとも昨今の全世界的な景気後退に伴い、今年はおそらく30%以上の売り上げの低下になるだろうと予測しているそうだが、氏によれば「半導体業界全体よりも売り上げが落ちる時期は遅くなるし、また逆に景気回復期は半導体業界全体よりも先に立ち上がる」と説明した。

Photo13:これだけ見てると「儲け過ぎ」とも見えなくはないが、先のPhoto08に示すように、最初にCPUコアの開発が立ち上がってから、実際にロイヤリティが入るまでの期間は、実際に半導体のファウンドリなどに比べて長くなる事になる。こうした長い期間を持ちこたえるだけでなく、その間に研究開発を進めることで次の製品の開発を進めることが求められるわけで、そうしたリスクに対するゲインと考えるべきなのであろう

有望市場はSmartphone/Smartbook

そうしたARMが現在有望として考えている分野が、SmartphoneやSmartbookのマーケットである。半導体業界はここ20年ほどの間、驚くべきスピードで性能の強化を行ってきた。この結果、かつてはユーザーのニーズに対して性能が足りない状況だったのが、今はユーザーのニーズをはるかに上回る性能を提供できるようになってしまった。

もちろんある種のユーザーにはこうした性能は必要なのだろうが、Skypeやfacebookなどを使う「だけ」のユーザーには、いわばOverkill状態になっている(Photo14)。ここに対してARMが提案するのが、Smartbookである(Photo15)。

Photo14:性能が高くて何が困る? という反論は出るだろうが、それが結果としてバッテリ寿命の短さなどにつながるのが最大の問題である。まぁ、だからこそIntelもAtomを皮切りに低性能ながら低消費電力のプロセッサを導入した訳であるが

Photo15:まぁこの話はいいのだが、問題は「Smartbookはあくまでコンセプトなのであって、ARMを使うべき理由にはならないのでは?」という疑問が消せないところだろうか。別にIntelのMID+3Gモデムでもいいわけだからだ。このあたりで、ARMを使うべき動機付けがもう少しほしいところだ。

フォームファクタ的にはNetbookのポジションであるが、大きな特徴は携帯電話と同じく「常時接続」が可能な事だ。言ってみれば"Netbook+Smartphone"的なものであり、性能的にはNetbook程度でしかないが、常時接続を利用したアプリケーション(例えば常時メールが受信できるとか、いつでもtwitterが使えるなど)を使う事を想定した製品となる。今年のCOMPUTEXでも、例えばこちらの最後に出てきたSnapDragon+AndroidのEee PCなどがこうした可能性を秘めたものになるわけだ。

ちなみにこのSmartbookに絡んでIntelとの関係を問われた氏は「かつてはXScaleなどで協力し合う良いパートナーシップを築いてきた。ただし2007年からIntelは(AtomがARMに勝るといった)不正確な情報を宣伝しており、我々はそうした誤りを正してゆく必要があると考えている」と述べていた。