ガートナー ジャパンは5月27・28日、都内で「ビジネス・インテリジェンス&情報活用サミット 2009」を開催した。同カンファレンスでは、"企業がパフォーマンスを最大化するためには、いかにして情報を資源化して活用していくべきか"というテーマの下、さまざまな講演が行われた。ここでは、同カンファレンスで行われたソーシャルソフトウェア導入企業によるパネルディスカッションから、同ソフトが企業にもたらすメリットについて考えてみたい。

ガートナー リサーチ リサーチ ディレクター 志賀嘉津士氏

初めに、モデレーターを務めるガートナー リサーチ リサーチ ディレクターの志賀嘉津士氏が、同社のソーシャルソフトに関する定義は「メールやグループウェアよりも"少し"柔らかいコラボレーションソフトウェア」と説明した。具体的には、ブログ、SMS、共用ブックマークなどがソーシャルソフトに該当する。

同社では、wikiとSNSの利用が現状は5%であるのに対し、2010年は35%、2012年には80%に達すると予測を出しており、同氏は「正直なところ、現在の日本企業の状態を考えると驚いた」と述べた。

今回、実際にソーシャルソフトを導入している企業から3人の担当者がパネラーとして参加した。集まった企業はエクストラネット、イントラネット、ビジネス利用と、それぞれ利用シーンが異なる。

CSKホールディングス グループ情報企画部主査 三瓶登志江氏

エクストラネット向けのソーシャルソフトを導入したのはCSKホールディングスだ。グループ情報企画部主査を務める三瓶登志江氏によると、「社員一人一人のシナジーが引き出すこと」を目標として、昨年3月よりCSKグループ全体の40社においてコミュニケーション基盤としてSNSを利用しているという。

東京海上日動システムズでは、OpenPNEをベースとしたイントラネット向けSNSを導入している。経営企画部 ソリューションプロデューサを務める楠目祥平氏によると、利用者は約1,300人で、日記やコミュニティがよく利用されているという。

東京海上日動システムズ 経営企画部 ソリューションプロデューサ 楠目祥平氏

リコーでは、同社のデジタルカメラ「GR」専用のブログを展開。同ブログでは、ユーザーコミュニティの形成や販促を目的として、カタログを掲載しているほか、ブログとコンテストを実施している。志賀氏が、ある記事に対してコメントが殺到してブログの運営が不可能になる"炎上"のようなトラブルは発生していないのかと尋ねたところ、パーソナルマルチメディアカンパニー企画室 室長を務める野口智弘氏は、「個人のブログでの紹介による参加形態をとっているため、これまで大きなトラブルはない」と答えた。

3社とも、ソーシャルソフトによってメリットを得たと説明。CSKの三瓶氏は、SNSによってインターネットの情報と実態の差が明らかになったことがおもしろかったと語った。「社員がインターネットの情報について実際に"見た""使った"という実体験をSNSに書き込み、それが暗黙知として蓄積されつつある」と、同氏。同社でSNSの利用がうまくいっている要因としては、「ルールを極力作らず、自由に利用できる」ことだという。

リコー 、パーソナルマルチメディアカンパニー企画室 室長 野口智弘氏

東京海上日動システムズでは、SNSの活用により、社員同士のつながりが深まり、それが日常生活にも反映され始めたという。「SNSの記事を読むことで、これまで会ったことがない人の人格まで伝わるようになった」(楠目氏)

リコーの野口氏は、ブログによって得られたメリットとして、「認知度の向上」、「製品に対する理解の深まり」、「顧客との一体感の高まり」、「社内における理解のサポート」を挙げた。同氏も同社のブログがうまくいっている要因の1つに「ゆるやかなルール」があると述べた。企業においてSNSを浸透させるにあたって、締め付けすぎないことがポイントの1つと言えそうだ。加えて、利用者ができるだけ参加しやすいよう、運営側できっかけを作り、ハードルを下げることが必要だという意見があった。

企業でソーシャルソフトを利用する際にネックとなりがちなのが、ソフトの利用が業務外の行動と見なされないかどうかではないだろうか。一般に、ブログやSNSというと、個人的志向が強い。こうした傾向に対し、CSKでは、"公式"のコミュニティ基盤と位置づけることで、業務利用という姿勢を明確に打ち出したという。また、「立ち話や喫煙など、ソーシャルソフトの利用以外にも就業時間において業務外の時間の使い方もあるので、ソーシャルソフトだけ目くじらを立てなくてもよいのでは」という意見も出た。

3者の発言において印象深かったのが、「ソーシャルソフトは何らかの変化をもたらした」という点だ。CSKの三瓶氏は「当然、ソーシャルソフトにはリスクがあるけれど、恐れていては何も変わらない」と語った。企業では、ITの浸透によって社員間のコミュニケーションが乏しくなっているという現実もある。「能力を最大限に生かしつつ、楽しく働く」という、いわば労働の理想形を実現するための一手として、ソーシャルソフトを検討してみるのもよいのではないだろうか。