2008年3月期(2008年度)が終わり、新年度に入って、日本の半導体産業の再編が加速している。各社とも2008年度業績は過去最悪と言える業績であり、2009年度も厳しい状況が続くことは確実である。各社とも工場の統廃合、派遣社員を含む人員削減などの構造改革を行っており、1社単独での改革だけでは足らず、大手を含む企業統合が現実のものとなった。また、開発負担、設備負担を軽減するために、最先端プロセス製造から退くメーカーも多くなっている。

すでに2008年には、ソニーが先端プロセスの開発製造からの撤退、沖電気工業(OKI)も2008年10月に半導体事業を分社化しロームに売却している。2009年に入ると、東芝がシステムLSI事業の分離を示唆、さらにNECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの事業統合発表など、動きが激しさを増している。2009年は日本の半導体産業界が、マイコン、システムLSIといった高性能ロジックLSIを中心に、その構造を大きく変質させる年となりそうだ。

マイコン/システムLSI事業ではアセットライト化が鍵

NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジは2010年4月1日をメドに事業統合を予定していることを発表した。2008年度売上高合計は約1兆2500億円で、新会社の売上規模としては、Intel、Samsung Electronicsに次ぐ、世界第3位に躍り出ることとなる。

NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの2007年3月期と2008年3月期の決算概要(NECエレクトロニクスの連結決算は米国会計基準を採用しており、「経常利益」に該当する項目がないため記載を省略)

新会社はマイコン事業、SoC事業、アナログ・ディスクリート事業を柱として事業を展開する計画で、特にマイコン事業については、世界の第1位、第2位の企業が統合されることになり、2008年市場でみれば全マイコン市場の31%のシェアを占めることになる。特に自動車分野向けでは40%近い(37%)シェアを抑えることになる。「最大の競争相手であればこそ最高のパートーナーとなる」としており、それぞれの強みをさらに充実させる一方で、事業統合により重複する分野を整理、そのリソースを振り向けることで新規分野の開拓を進める。また、マイコン事業を通じて、顧客ニーズを把握、市場にあったASSP、システムLSIを投入していく。

次期社長に内定している同社取締役執行役員常務の山口純史氏

NECエレクトロニクスの山口次期社長は「単独でも事業を継続することはできるだろうが、それでは事業規模的に存在感を示すことは難しい。積極的に研究開発、投資を行い、半導体メーカーとしてあるべき姿を保っていくには、売上高1兆円、営業利益率105の規模は必要」として、今回の経営統合によって規模を拡大することは生き残りのために最適な戦略であったことを示した。

一方、成功のためには、大幅な固定費の削減、アセット・ライト化が前提としている。両社はそれぞれ外注費、業務委託費の削減、設備投資の抑制、人件費削減施策の展開、さらに前工程ラインの閉鎖・売却を進めており、前工程ラインについては150mm以下のラインを中心に両社合計で25ラインを16ラインに削減。これらの施策により、2009年度中に両社合計で2000億円の固定費削減を行う。

両社は研究開発分野ではこれまで別々のパートナーと展開してきた。NECエレクトロニクスは東芝、IBMと共同開発を進めており、ルネサスはパナソニックと共同開発を行い、IMECの先端プロセス開発プロジェクトに参加している。新会社に統合後も現在の共同開発プロジェクトはそれぞれ当面継続していく。

22nm以降の次世代プロセスの開発については、新会社として方向を定める。しかし、先端プロセスについては、NECエレクトロニクスの山形工場、ルネサスの那珂第2工場の300mmラインが担当、45nmの量産と32nmプロセスの実用化にはすでにめどがついている。しかし、両社とも以前から32nm以降の最先端プロセスを単独で行うことはない、としており、統合後の戦略がどうなるか注目される。アセット・ライト、ファブ・ライトという基本戦略、さらに主力であるマイコンの製品特性(安定した先端ラインでの製造が中心)からすれば、最先端プロセスを使用した大規模量産を行う可能性は低い。すでにルネサスにおいては、最先端プロセス分野において台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing)への製造委託を高めており、新会社でも外部の生産リソースを積極的に導入することになる。

アセット・ライト、ファブ・ライトという点では、富士通マイクロエレクトロニクス(FML)でも事業構造転換を進めている。岩手、会津若松地区での工場・ラインの統廃合を進める一方、40nm以降の最先端プロセスによる製造はTSMCに委託していくこととした。このため、FMLでは三重工場300mmウェハ対応第2棟の計画を中止、同等の建物、装置の減損措置を行うこととしている。

ファブ・ライトを進める一方で、NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの新会社、FMLとも、各種リソースを設計、開発、技術サポートなどに振り向けていく方針である。2000年代はじめにいたるまで日本の半導体企業は、最先端のプロセス技術と高い製造技術で世界をリードしてきた。しかし、業界構造の変化と肥大する開発、設備費負担に支えることが難しくなり、戦略転換を余儀なくされた。

FMLは、半導体の設計・開発企業として、生き残りを図るという戦略をはっきりと示している。一方、NECエレクトロニクス、ルネサス テクノロジは前述のように、統合による規模の拡大、注力分野の強化により生き残りを目指している。だが、2社の統合だけで十分なのか。欧州では、STMicroelctronicsとInfineon Technologyとの統合のうわさは常に流れており、再編の胎動は続いている。日本でも、次の動きが注目されている。