――メカデザインというのは、演出サイドで絵コンテが上がってきて、その中の、このメカをこうしてくれ、という注文が来るわけですか?

「そういうこともあるし、いろいろですね。企画段階の場合のプレゼンテーションていうのは、会社の方針、スポンサーの方針にしたがって、全部自分でメカデザインしますけど。あるいは、絵コンテやる前に、先にこのメカをデザインしてくれとか、いろんな発注がありますね」

――企画段階の場合は、どのようにデザインなさるんでしょう。

「メインのメカに関しては、誰が提案したとか、そういうのはナンセンスで、特に、マーチャンダイジングで製作費を補填しないといけないようなときは、いろんな人がアイデアを出すし、いいところは全部取り入れて、それをまとめるのがメカデザイナーの仕事ですから。まあ、サンライズの企画からの発注っていうのは、ほとんどパズルみたいなもんでしたからね。そういう要求に応えるっていうのも、おもしろいことで。パズルが解けたような達成感みたいなものはありますね」

――各方面からいろいろ与えられた制約の中で、それらを同時に満たす解答を見つける……。

「それが、おもしろいですよね」

――メカデザインというと、とかく、ロケットだの戦車など、いかにもメカメカしい兵器のたぐいを思い浮かべがちですけれども、毎週放送されるエピソードをこなしていく場合に、実際にカバーする範囲は、もっとずっと広いわけですね。

「美術との境目も分かんないくらいですから。指令室とか、メカっぽい部屋ですと発注が来たり、あるいは小物、ネジ1本まで。それがアニメーションで動く、演技の中にからんでくるっていうと、そこまで全部。人物、動物以外は、ほとんど、っていう感じですね」

――そうやってデザインなさったものがオンエアされたのをご覧になって、どのように感じられましたか?

「初めはやっぱり、すごく感激しましたね。自分がデザインしたものが、こういうお話で、こういうアクションをしている。すごく、ワクワクしましたね。ただ、何十年もやってると、第1話だけはワクワクして観るんですけど、それでほぼ、これはどうかな、これはヒットするかな。そのへんが分かるようになってきた気がします」

――メカデザイナーの役割というのは、スポンサーサイドからの制約の範囲内で、演出家のイメージを具体化して、アニメーターに伝える……。

「はい。アニメーターって、のべにしたら何百人もいるわけですよ。その方たちに、なるべく同じ形を伝えるっていう、それがメカデザイナーの本来の仕事ですね。100%に近い人が、頭の中に同じものを把握できる。そこがテクニックだと思うんですね」

――その中で、大河原さんは、メカデザイナーとして、どのような方向を目指してこられたんでしょう?

「メカっていうのは作品を表現するために必要なアイテムなんで、最終的に責任とるのは監督だし、監督の意図でその作品はできていくわけだから、私はその監督が求めてるものを出すっていう職人になりたいというのが、初めからあったんで。アーティストの感性が強すぎると、職業としては成立しないんですよね。特にアニメーションの場合、チームプレーですから。そのへんでやり合ってたら、制作のスケジュールとして成り立っていかないですね」

――ちなみに、以前、中村光毅さんにお話をうかがったんですが、中村さんは、大河原さんのことを"理論派"などとおっしゃっておられましたが、大河原さんは中村さんのメカデザインをどのようにご覧になっておられますか?

「日本人にしては、デザインが洗練されすぎてるんですよね。すばらしいデザインで、日本人離れしてる。いつまで経っても、あのセンスには追いつけないですね。一生懸命追いつこうとしてやってるんですよ、これでも(笑)。でも、なかなかそうはいかない。あれはやっぱり、生まれつき持っているセンスでしょうね」