ワコムのプロ用ペンタブレット「Intuos4」。創作の領域で"描く"必要があるクリエイターには、かなり気になるこのツールは、どのように開発されたのだろうか。ワコムを訪ね、開発者に話を訊いた。

今回、「Intuos4」開発に関するエピソードを訊かせてくれたワコム開発陣。左がワコム プロダクト統括 製品設計部 製品設計4Gr.マネージャーの金田剛典氏。Intuos4の製品設計からデザインまですべてを統括。中央がワコム プロダクト統括 製品設計部 製品設計4Gr.の保坂公義氏。ペンやマウスといったデバイスの開発を担当。右がワコム プロダクト統括 製品設計部 製品設計4Gr.神崎浩成氏。タブレット本体の基板や電気系の設計を担当

――まず「Intuos3」からIntuos4への大きな改良点を教えてください。

金田剛典(以下、金田)「これまでIntuosは3モデルあったのですが、ほぼペンと同じようにそのまま描ける入力デバイスを目指して開発・進化させてきました。3からは、ショートカットキーの割り当てができるようになり、作業効率も上がりました。また、左利きユーザー、右利きユーザーのどちらにとっても、使用感に問題ないデザインとなりました。4の開発にあたっては、これまでの製品では、『作画中、意図していないのにショートカットキーを押してしまう』という声が多くあったので、デザイン的に片側にキーを収束しました。その上で、左利き、右利き、どちらのユーザーにもストレスが無い様、タブレットの天地をひっくりかえせば使えるというデザインにしました。USBケーブルもどちらからでも、接続出来ます。描き心地も、さらになるべく紙とペンに近いものを再現しました。キーが多すぎるという意見もあったので、ファンクションキーの横の有機ELディスプレイにアイコンの設定内容を表示させ、一目でわかるようにしました」

片側にショートカットキーを収束させ、より使い易くなったという

神崎浩成(以下、神崎)「電気的な部分としては、これまでの製品では、ペンをタブレットに置いた状態で画面カーソルが震えるという現象があります。これは(座標)ジッターと呼ばれるもので、タブレット内の回路や、他からの電波の影響により起こります。ペンとタブレットの通信周波数に影響を受けて、ジッターが発生してしまっていたのですが、今回は特に、内部回路で発生するノイズによるジッター対策として、新にタブレット側のICを開発し、アナログ・デジタル変換をしている部分で発生するジッターを少なくしました。タブレットの一部領域を拡大して描くというスタイルのユーザーには、この改善は大きいと思います。今回の製品では、2048レベルの筆圧を実現できました。タブレットとペンのICも新規に開発しています。ペンの消費電力もかなり抑えています」

保坂公義(以下、保坂)「当社のペンは電池を使わずに、タブレットからエネルギーを貰い作動しています。でも、このペンは様々な作業をしてタブレットにデータを返すので、それなりに電気を消費してしまいます。タブレットからの送信パワーを上げればよいのですが、タブレット側のパワーを上げ過ぎると、ペンからの正確な情報を読み取れなくなってしまいます。タブレットの送信パワーを落としても、信号が大きければ読み取る精度は上がるので、極力ペンの消費電力を落とす努力をしました」

神崎「3よりもペンとタブレットを多くの情報をやり取りしているのですが、少ない電力消費で稼動しているのです」

筆圧のスペックが大幅に良くなっているが、消費電力は10分の1に。見えない部分に物凄い進化がある

――ペンの消費電力をどのように抑えたのでしょうか?

保坂「3ではペンの中にマイコンを入れて、ファームウェアを組み様々な計算をさせていました。これはとても有効なのですが、必然的に消費電力も多くなり、タブレットから送るパワーも多くなってしまいます。これに対し、4では専用のICを開発しました。これにより、ペンの消費電力がこれまでの10分の1となり、筆圧も1024から2048というスペックを実現しました。以前から、ペンの互換性に対する希望もあるのですが、消費電力が違う事により、ペンの回路構造が変わるので難しくなります。2と3、、3と4でそれぞれ消費電力が違うのでペンを共有しようとすると、誤動作の原因とにもなります。また、ペンの筆圧も倍なのでタブレットとの情報のやりとりが異なるという点でも、ペンに互換性を持たせる事は難しいのです」