介護や支援が必要な人が、介護保険によるサービスを受ける際に必要となる介護の必要度を表す「要介護認定」。その判定基準がこの4月に改定された。新制度が始まり、混乱に窮する現場の声が日に日に高まる中で、8日、福祉関係の市民団体である市民福祉情報オフィス・ハスカップによるセミナー「要介護認定はどう変わったのか?」が開催された。

「要介護認定」の判断は、訪問調査による聞き取り調査をもとにコンピュータによる一次判定を経て、主治医の意見書をもとにして最終的には「介護認定審査会」と呼ばれる二次判定の場で決定される。この流れは2009年度以降も原則変わらないが、調査項目が82項目から74項目に削減された他、訪問調査員の判断基準やコンピュータの判定基準が大きく変わったという。こうした変更の結果、調査員からは「以前より要介護度が軽度に判定されるのではないか?」という疑念の声が相次ぎ、厚生労働省が介護保険費用の抑制のために意図的に認定基準を厳しくしたのではないかという批判がささやかれるようになったのが昨今の現状である。

結城康博氏

今回開かれたセミナーには、こうした要介護認定基準の改定の流れを見守る、淑徳大学准教授の結城康博氏が出席。厚生労働省の「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」の委員を務めるだけでなく、自らケアマネジャーとして現場に携わった経験を持つ立場から、要介護認定の課題を語り、参加者と意見交換を行った。

新制度について、結城氏は「一次判定だけだと軽度に判定されるのではないかという疑念はある。しかし、データが出ていない現段階では何とも言えない」と述べ、評価には慎重姿勢だ。また、新制度の移行にあたり、要介護認定の更新の前後で認定結果が異なる場合、希望すれば更新前の認定区分が選択できる「経過措置」については「経過措置が設けられている制度自体にそもそも疑問が残る」と糾弾。また、実際にセミナーに参加した現場担当者からも「経過措置によって現場の調査員のモチベーションは著しく低下させられている」と不満の声も挙がった。

要介護認定の調査では、"買い物"、"簡単な調理"といった日常生活の自立度や行動が「要 / 不要」「ある / なし」といったチェック形式の問診のほか、「特記事項」の記載が行われる。新システムの評価については明言を避けた結城氏だが「特記事項の記載は徹底してほしい。そうでなければ一次判定で軽度に判定されてしまった場合に、二次で覆すことができなくなる」と呼びかけた。しかし、調査員や審査委員として要介護認定に携わる参加者からは「特記事項の書き方について指導の場が設けられていない」、「特記事項がたくさん書いてあったとしても審査会の場でそれをどう読んでいいのかわからない。書けばいいというわけではない」といった反論の声も聞かれ、制度そのものが現場の実態と離れて運用されていることが改めて浮き彫りとなった。

仮に、現在のシステムに欠陥があることが今後立証されてしまった場合の対処法について結城氏は「システムの変更には10万人あたり最大でも5,000万円は必要になる。コンピュータのコストに加え、人的コストなど社会的コストを考えると、損害は計り知れない。仮にシステムを凍結しても現場は混乱するばかり。本当は失敗してはならないのだが、システムが公正でないという結論となった場合でも、運用面でカバーすることが得策だ」とし、コストを意識した議論の必要性を強調した。