最新作『グラン・トリノ』で、オスカー受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)以来、4年ぶりに監督・主演を果たしたクリント・イーストウッド。アメリカでは2008年12月12日に公開され、『ザ・シークレット・サービス』(1993)を抜き、クリント・イーストウッド作品中No.1の興行収入を獲得している。この度、クリントの長男で、本作の音楽を手掛けたジャズ・ミュージシャン、カイル・イーストウッドが来日。お話を伺うことが出来た。

爽やかで物腰柔らかなカイル・イーストウッド

音楽活動の原点は自宅の"音"

――来日は何度目ですか?

カイル・イーストウッド(以下:カイル)「7~8回は来ていると思う。前回はBlueNoteのツアーで来日したんだ」

――日本の好きなところは?

カイル「僕は和食が大好き。特にお寿司はおいしいね。1998年にはプライベートで数週間滞在して、富士山の近くにまで行ったよ。東京はとても賑やかな都市だけど、少し離れると自然の美しさが残っていて、素晴らしい景色だったね」

――ジャズ・ミュージシャンを志したきっかけを教えて下さい。6歳の頃にモントレー・ジャズ・フェスティバルのバックステージで大物ミュージシャンに会ったから、『センチメンタル・アドベンチャー』(1982)でギブソンのギターを貰ったから、という2説が有力だと言われていますが、真相は?

カイル「僕の家ではいつも音楽が流れていた。特にジャズが多くて、幼い頃から慣れ親しんだよ。でもジャズ・ミュージシャンを志した直接のきっかけは、1976年か77年に両親と訪れたモントレー・ジャズ・フェスティバルだ。僕は父親とステージ脇から演奏を見ていた。生前のカウント・ベイシーがビッグバンドを従えている姿を目の当たりにして、心から感動したよ。僕がビッグバンドを見たのはその時が初めてだったから、音のパワーに圧倒されたんだ」

――お父様の出演作のサウンドトラックを聞いて、ファンになった音楽家はいますか?

カイル「僕は子供の頃から映画が大好きだった。父が出演していない映画もたくさん観たよ。エンニオ・モリコーネ、ラロ・シフリンやジェリー・ゴールドスミスのサウンドトラックは気に入ってよく聴いていた。特にエンニオ・モリコーネが手掛けたサウンドトラックはどれも大好きだけど、敢えて選ぶなら『ミッション』(1986)と『バグジー』(1991)かな」

1986年、南カリフォルニア大学2年生のとき、音楽活動に専念するため休学を決意。一年だけのつもりが、今に至っているとか

『グラン・トリノ』、あの名曲が生まれた秘密

――映画の内容はもちろんですが、エンディング・テーマも素晴らしいと評判ですね。あの曲をお父様に歌わせようと思ったアイデアはどこから?

カイル「『グラン・トリノ』は、僕とマイケル・スティーブンスが曲を、ジェイミー・カラムが詩を書いた。マイケルのアイデアで、デモ・ヴァージョンは父に歌ってもらったんだ。せっかくだからどこかで使おうと思い、デモの最後のフレーズを冒頭に持ってきて、続きをジェイミー・カラムがヴォーカルのヴァージョンにつなげた。映画を締め括るに相応しい、素晴らしいコラボレーションになったと思うよ」