SEの悲喜こもごもを書かせたら右に出る者なし!のきたみ氏の新刊は、文庫本で再登場した『新卒はツラいよ!』 - やさしいイラストとやや毒のある切り口で、読み手をぐいぐい引き込みます!

あっという間に4月も終わり、ゴールデンウィークに突入した。4月1日に晴れて新社会人となった方たちも、そろそろあたらしい環境に慣れてきたころではないだろうか。新人のころというのは、どう考えても"理不尽"とも思えるような仕事を上司に押し付けられてもなかなか口に出せず、口を出した日には「口答え」するなと言われ……きっと今ごろはストレスを抱え始めるなど、いろいろ感じやすい時期にさしかかっているだろう。本稿では、そんなガンバる新卒社会人から可愛い部下のいる上司まで、幅広い年代の方にエール(?)を贈る『新卒はツラいよ!』を紹介しよう。

本書は著者であるきたみりゅうじ氏の実話体験をもとに、不況のさなかの就活からはじまり、いわゆる"IT土方"として働くサラリーマンの悲哀をコミカルなマンガで綴ったものだ。2005年に単行本が出版され話題となった本作が、このたび文庫本となった。目次は次のとおり。

  • はじめに
  • 気がつけば不況だった
  • 小さな小さな第一歩
  • 考えればコトは易し
  • 配属と落胆と現実を
  • 社長室付けになる
  • イベント企画室との攻防
  • とべ! 片道二時間半通勤
  • 偽りの経歴と他社の名刺
  • 自社に戻るは地獄のはじまり
  • プロジェクトリーダとなる
  • 限界への挑戦
  • 年長者たちの現実
  • 営業部への強制辞令
  • 覚えはじめたサボること
  • おわりのはじまり
  • 転職活動
  • クビ!
  • おわりに
  • 文庫本あとがき

上記以外にも章と章の間にコラムがいくつか挟まれている。

そこの新卒クン! こんな顔の上司に悩まされているのはキミだけじゃない!! - ということがよくわかります

目次をざっと見渡すだけでも、就活から就職、そして見事なまでのアップダウンの軌跡が描かれていることがわかる。いまでは良い悪いを別として流行言葉にもなってしまっている「ブラック企業」「偽装請負」「デスマーチ」といった用語を連想させる内容もちらほら。なお、本書の内容のほとんどはマンガで構成されている。そのため、目次を紹介しておいてなんだが、本書は肩の力を抜いて読んだほうがぜったい面白いと筆者は思う。今だったらゴールデンウィークを使った移動中の電車や飛行機の中でさくっと読む1冊としておススメだ。

ストーリーは同氏の就職活動からはじまり、これまでまったく縁のなかったIT系企業へ就職し、入社して1年目から4年目の出来事、そして転職するまでの内容となっている。現在サラリーマンの方々のほとんどが経験してきた就職活動からはじまり、入社してからの右も左もわからないような状態、信頼できる先輩たちとの呑みをはじめとした交流、葛藤、そして会社への不審感を募らせていく……と、こんな具合で進行していく。

全体を通してコミカルな絵がテンポよく話を進めていくが、そのほんわかした絵柄とは裏腹に、内容はどう良く解釈しようとしてもブラックそのもの。常務はつねにふんぞり返った顔をして適当なことを言い、開発部長はいつもキバむき出しで必要以上の圧力をかけてくる、その上に無茶案件。似たような環境に巻き込まれたことがあるなら「ああ、あるある…(笑)」「そうそう…(ため息)」と共感できること必至だ。大中小企業問わず、あるところにはありがちな内容。その中で描かれる人間関係 -- 主にきたみ氏が先輩たちを巻き込んで呑みにいくシーンが数回登場するのだが、これがなかなか見ていて面白い。ああ、やっぱり酒に走るんだなぁ……と。

ぶ、ブラックすぎる……ってこんな恐ろしげなイラストばかりじゃありません、念のため

そう、イヤなことがあれば、お酒を飲むのが一番だ。慣れてしまうと気づきにくくなるが、一緒にお酒を飲んでくれる人がいることもまた幸せなことだろう。

呑みシーンといくつか関連するが、マンガとマンガの間に挟まれているコラムも興味深い内容となっている。本書のほとんどを構成するマンガとは違って文章だけだが、表現が硬くない、というより柔らかい内容で、一気に読める。ここで語られている裏事情や、当時の同氏による心のあり方がおもしろい。筆者はとくにコラム4「一朝一夕に役立つモノはない」とコラム15「会社じゃなくて人なのよ」に印象が残った。

うん、実際美談に作り替えようと思えば、なんぼだってそうできますよ。言い訳は自分の中でいくらでも作れます。でもね、だからこそ、そうしちゃいけないと思うのです。だってそうしないと、失敗が失敗として見えなくなっちゃうでしょ? (P.57 コラム4「一朝一夕に役立つモノはない」より一部を引用)

バタオさんとの会話の中で、「あ、これ覚えとこっと」なんて思う教訓めいた話は多々あるわけですが、その中でもベスト3に入るうちのひとつに、「結局は一緒に仕事するメンツ次第なんだよ」というものがあります。 (P.200 コラム15「会社じゃなくて人なのよ」より一部を引用)

誰でも一度は考えたことがあるであろう、「仕事のありかた」「職場に求めるもの」「仕事をする理由」 - これらの捉え方や考え方は人それぞれだ。働きはじめてふっと考えたときに変わることだってあるし、ずっと変わらずにいる方だっているだろう。就活生のときに読んだのであれば、働きはじめてから。いま働きはじめたのなら、転職の前に一考するときに。もう一度読みなおすとき、「そういえばあのときはこんなコト考えながら読んだんだよなー」と浸れる(かもしれない)マンガもそうはないだろう。このストーリーは、読んだタイミングで感想が変わりえるのだ。

IT関連の会社に勤めていなくとも共感&一考必至のこの一冊。この連休中にぜひチェックしておきたいところだ。

新卒はツラいよ!

きたみりゅうじ 著
幻冬舎
2009年4月10日 発行
文庫本 256ページ
ISBN978-4-344-41287-3
定価 495円 + 税

出版社から: 朝から晩までコキ使われて、何度思ったことだろう……こんな会社、辞めてやる! 新米社員のトホホな現実をコミカルに描いた共感必至のコミックエッセイ。働くとは、かくも厳しきものなり!