2008年は『東南角部屋二階の女』『休暇』『真木栗の穴』など5本の映画に出演した西島秀俊。決して早くはない23歳でのデビューから15年。映画を心から愛する男は、日本を代表する映画俳優になった。

今回は『東南角部屋二階の女』『休暇』の2作品について話を聞いた。前者では父の借金を肩代わりすることになった元会社員を、後者では刑執行の日が近づきつつある死刑囚をそれぞれ演じ、ひとつのイメージでは語れない役者・西島秀俊の姿を私たちは見ることができる。

この日は袖口にちょっとした装飾が施されている無地のシャツを着ていた西島秀俊。彼の雰囲気に合った大人の装いだった。インタビュアーの目を見てどんな質問にも真摯に答えてくれたのが印象的

普通じゃない! メチャクチャな男を演じた『東南角部屋二階の女』

――『東南角部屋二階の女』について、完成した作品を見てどんな印象をもちましたか

西島秀俊(以下:西島) 自分の中に不思議な感覚がブワーッと起きてきて、一緒に見ていたマネージャーに思わず『この作品すごいですよね』と言ってしまいました。彼も『これすごいね、これすごいんだよね』と。自分の中で生まれてきている何か……何なのかはわからないんですが、この作品がすごい力をもっているということだけがわかる印象でした。時間が経つにつれて(この作品が)どんどん自分の中で大きくなっていくだろうなという予感がしています」

――この作品の野上という主人公は、西島さんそのものなんじゃないかと錯覚するくらい自然な感じでしたが……

西島「最初に台本を読んだときはメチャクチャな人だなと思いました。だから、それをどう自然に見せようかと(笑)。インタビューで『普通の人をやるのは難しくないですか?』と言われると、『良かった! 普通に見えた!』と思います。

『東南角部屋二階の女』は韓国で開かれる第10回全州国際映画祭(4月30日~5月8日)のインターナショナル・コンペティション部門で上映される。作中での後輩役・加瀬亮とのやりとりも見所のひとつ

この人全然普通じゃない。もうメチャクチャ。いろんなことをどうでもいいと思っている、辻褄のまったく合わない人なんです。

だから、あんまりかぶっている部分はないです。そうだと思います。僕もめちゃくちゃかもしれないけど(笑)」

ひとりぼっちだった死刑囚役

――『休暇』は死刑囚役でしたが、役に臨んだときの心境は

西島「この作品は一切バックグラウンドが書かれていない台本でした。それを設定することは可能だったんですけれども、"全くわからない"ことがその役に触れられる理由のような気がして。

自分とかぶる部分、共感を覚える部分があるなんて口が裂けても言えないような役に、どうアプローチしていくか、どう関わっていくのかということに挑戦できた役でしたね。

死刑囚であるという感覚は当然ですが全くわかりません。死刑を待って過ごすというのはどういうこと? そんなことは想像したってわかりっこないだろう、でも、じゃあどうやって向かっていくの? ということを考えながら挑戦できたと思っています」

――いちばん印象に残っているシーンはどこですか

『休暇』では元刑務官に話を聞いて撮影に臨んだという。ベールに包まれている日本の死刑の実態も描かれている作品だ

西島「刑を執行されるシーンですね。僕の撮影は1週間弱と短かったんですが、きつかったですね。きつかったなぁ……(独り言のように当時を振り返りながら)。いつかこの緊張感がブツッて切れちゃうんじゃないかという怖さがずっとあって、これが切れたらアウトだなと思いながらやっていました」

――現場の雰囲気はいかがでしたか

西島「僕はひとりぼっちです(笑)。刑務官のみんなはけっこう楽しくやっていました。そういう日常の役だからなんですが。僕の役は他の人(刑務官)と細い線でつながっているかどうかもわからないくらいじゃないですか。一瞬触れ合っても、何を考えているかわからないような状態で断絶する。だから実際現場もそうでしたね」

西島秀俊にとって「映画」とは

――映画を見ることも大好きだとお聞きしましたが、西島秀俊が選ぶ"映画のベスト3"を挙げるとしたら何ですか

西島「そりゃ無理だって(笑)。そりゃ無理だなぁ。何カ月か前に森崎東監督特集があって、幸せなひと月でしたね。楽しかったなぁ。最近の楽しかったことベストワンです、森崎東監督特集。楽しかったなぁ……(しみじみと繰り返す)」

――映画って西島さんにとって何なんでしょう?

西島「また質問が大きいなぁ(笑)。難しい質問ですけど、映画で考え方がガラッと変わることがたくさんあったし、映画に助けられたこともたくさんありました。たぶん映画が好きな人はそういう経験を持っていると思う。あの映画で助けられたとか、あの映画でこんな視点があるんだ、と生まれ変わるような体験をしたとか。

そういう体験がずっとある。まだある、まだある、まだあるかってくらい。いつも衝撃を受けていますね。

僕は映画館で映画を見るのが好きですけど、やっぱり知らない人と一緒に見る、知らない人と一緒に体験するということが好きなんだと思います。全然知らない人たちとワーッて笑ったり、泣いたりして、「人生変わったな」と思う。周りの知らない人たちもきっとそう思ってる。そういう体験ができるのが映画館ならではです。けど、ま、DVDも……(笑)」

今年は夏に『蟹工船』(SABU監督)、秋には『ゼロの焦点』(犬童一心監督)と2本の映画が公開を控えている。どんな演技を見せてくれるか、今から待ち遠しい

PROFILE

にしじま・ひでとし

1971年生まれ 38歳 東京都出身

'94年『居酒屋ゆうれい』で映画デビュー。黒沢清監督の『ニンゲン合格』、北野武監督の『Dolls ドールズ』、犬童一心監督の『メゾン・ド・ヒミコ』など数々の映画に出演し、日本映画を代表する俳優の一人となる。また、宮崎あおいと共演した朝の連ドラ『純情きらり』やドラマ『ジャッジ 島の裁判官奮闘記』(NHK)などテレビでの活躍も記憶に新しい。


『東南角部屋二階の女』

死んだ父親の莫大な借金を背負い、祖父の土地を売ることを考える元会社員の野上(西島秀俊)。野上の後輩で、彼と共に突発的に会社を辞めた三崎(加瀬亮)。野上の見合い相手で、結婚で人生の安定を手に入れようとするフードコーディネーターの涼子(竹花梓)。この3人が古アパートに住むこととなり、開かずの間となっている"東南角部屋二階"の秘密が明らかになっていく。

5月2日、トランスフォーマーよりDVDリリース。セル版(プレミアム・エディション)には貴重なメイキング映像や未公開シーン、インタビュー、初日舞台挨拶の模様なども収録

(C)2008Transformer,Inc.

『休暇』

死刑囚を収容する拘置所に勤務する刑務官たち。彼らは常に死と隣り合わせの生活を余儀なくされる。ベテラン刑務官、平井(小林薫)もそのひとり。心の平穏を乱すことには背を向け、決まりきった日常を淡々とやり過ごす。そんな平井がシングルマザーの美香(大塚寧々)と結婚することになった。なかなか打ち解けない連れ子との関係を築く間もないまま挙式を控えたある日、死刑囚・金田(西島秀俊)の執行命令が下る。執行の際、支え役を務めれば1週間の休暇を与えられると知った平井は、新しい家族と共に生きるため、究極の決断をするのだった……。

5月20日、ポニーキャニオンよりDVDリリース。

(C)2007「休暇」製作委員会

撮影:石井健