日本科学未来館(略称: 未来館)は、同館3階の常設展示である「技術革新と未来」を全面的にリニューアル。4月8日に一般公開を前に、報道関係者に展示内容を公開した。

日本科学未来館

3階のフロア構成図

リニューアルした展示フロアの様子

「技術革新と未来」の常設展示は、「~ 想像から創造へ、そして技術革新がもたらす新しい社会へ ~」をコンセプトに、豊田工業大学副学長であり、東京大学名誉教授である榊裕之博士が監修。「むすびつける」「くみあわせる」「ひらめく」「みならう」「きりかえる」という5つの観点から創造力を紹介。過去の科学技術例と、先端科学技術例を体験型展示として構成している。

そのなかの「きりかえる」の展示として、セイコーエプソンのインクジェット技術である「マイクロピエゾテクノロジー」を活用した展示が行われている。マイクロピエゾテクノロジーは、同社のインクジェットプリンタに採用されている技術で、インク状のさまざまな材料を、必要な量だけ必要な場所に、正確に塗布できるエプソン独自の印刷技術。環境配慮・コスト削減にも優れ、また幅広い分野で応用可能なため、次世代製造技術として高く注目されているものだ。

展示では、工業分野への応用事例として、「液晶テレビ製造への応用」「20層フレキシブル多層配線基板」を展示しているほか、「インクジェット技術で、触らないでつくる」と題し、柔らかいクリーム状の粘土にテキストを印刷するといった展示が行われている。

やわらかい粘土にテキストを印字

セイコーエプソンでは、「日本科学未来館は、先端の科学技術と人とをつなぐサイエンスミュージアム。科学技術を文化として捉え、私たちの社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場、という日本科学未来館の設立理念に共感し、展示協力をした」としている。

液晶テレビ製造への応用展示では、液晶テレビをカラー表示させるために必要なカラーフィルタの製造において赤・緑・青の3原色素子をガラス基板上に塗布。ここにマイクロピエゾテクノロジー方式を採用しており、この仕組みについて、サンプル展示。また、20層フレキシブル多層配線基板では、インクジェット技術を用いて試作した世界初の薄さ200μm、20層フレキシブル多層配線基板を展示し、金属インクと絶縁体インクを用い、マイクロピエゾテクノロジーでパターニング・積層している様子をみせている。この多層化技術は、製品の小型軽量化に寄与する技術として期待されているという。

一方、「触らないでつくる」の展示では、インクジェット印刷が非接触であり、印刷対象を選ばないというる特徴を生かしたものだ。でこぼこの粘土の上にも、きれいに文字が印刷されている様子を見ることができる。

日本科学未来館では、「プリンタに代表される印刷技術は、インクを正確に転写する技術である。インクを材料とみなすと、印刷は必要な材料を正確な位置に、正確な量、配置できる技術であるといえる。この視点のきりかえによって、印刷は平面のみならず、立体物や生体など、さまざまな分野へと応用され、生産システムを大きく変える可能性を秘めている。今回の展示では、この印刷技術を『きりかえる(Alternative)』展示として導入した」と マイクロピエゾテクノロジーの展示コンセプトを説明している。

20層フレキシブル多層配線基板

マイクロピエゾテクノロジーを使用したカラーフィルタ

日本科学未来館 展示企画担当 潮田陽子氏

「きりかえる」の展示では、ひとつの価値観にとらわれずに、これまでとは違う発想・手法でものごとに取り組む技術事例を紹介。過去の例として、ル・コルビジェの壁に頼らない建築を紹介。先端技術例として、エプソンのマイクロピエゾテクノロジーのほかに、信州大学のセルフリサイクル、ブラザー工業の網膜走査型ディスプレイ、JR東日本などの圧電素子を使った発電床を紹介している。

また、「むすびつける」では、一見ことなるもの同士の間に関連性を見いだし、結びつけることで新たなものを生み出すものとして、量子コンピュータを展示。「くみあわせる」では異なる地域領域が集まり、有機的に統合されて新しいものが生み出されるものとして、ひとつのチップの上で研究所の機能が搭載されるLab-on-a-Chipを展示した。「ひらめく」では予期せぬきっかけや失敗、偶然から生まれたものとして、導電性ポリマーを、「みならう」では、すでにあるものの機能や形を観察し、それに近づけることでこれまで不可能だったことを成し遂げるものとして人工光合成を展示した。「これらの展示は、川をイメージした形で展示し、願いの泉、創造力の川、豊饒の海という形としている」(日本科学未来館 展示企画担当 潮田陽子氏)という。

日本科学未来館 科学コミュニケーターの風間邦彦氏は、「人間は、古代から想像(イマジネーション)と創造(クリエーション)のサイクルによって歩み続けてきた。こんなことがあればいいといった夢や希望といった観点での想像力をもとに、それを実現するために技術やモノを創造力で作りだし、それが社会や生活を豊かにした。さらに、人間はもっといいモノを作りたいと新たな想像力を発揮する。そのサイクルを展示のなかに組み入れた。この展示を見て、来館者を刺激、触発し、創造力と想像力を発揮してもらえたらうれしい」とする。

一方、監修した榊裕之博士は、「人間は、生き延びるために、そこから道具を作り、暖をとりという知恵を働かせてきた。生きるため、という動機から、周辺環境を理解し、よりよいものを生み出す。最先端の技術を生み出すには、知恵や意欲が決め手となる場合が多い。どうやって技術を生み出すのかに目を向けてほしい」と、展示の狙いを語った。

日本科学未来館 科学コミュニケーター 風間邦彦氏

東京大学名誉教授 榊裕之博士