CASIO Europeでマーケティングを統括するGeneral ManagerのHarald Schroeder氏

「G-SHOCK」で世界を席巻したカシオはヨーロッパでも幅広い認知を得ているが、日本の電子機器メーカーとしてだけではなく、時計ブランドとしての価値も高めるべく、マーケティング展開を行っている。「BASELWORLD 2009」会場で、カシオ欧州法人のCASIO Europeでマーケティングを統括するHarald Schroeder氏に、ヨーロッパ市場におけるカシオのポジションと戦略について聞いた。

――ヨーロッパ市場におけるカシオの体制についてご紹介いただけますか。

最初の欧州現地法人は1972年にハンブルグに設立されましたので、ドイツにおける事業が最も長いことになります。ドイツとイギリスでは現地法人が直接事業を行っており、それ以外の国では販売代理店を通じて販売活動をしています。ただ、代理店は他社の製品も扱われていますので、カシオとしてのマーケティング方針を特に強く伝えられるのはドイツおよびイギリス市場ということになります。最近ではフランスとスペインにも現地法人を設立しました。

――欧州市場においてカシオはどのようなイメージのブランドとして認識されているのでしょうか。

一口にヨーロッパと言っても多くの国から構成されている地域ですので、国によってカシオのブランドイメージは異なっています。ただ、元々カシオの時計事業はデジタル時計が中心でしたので、「カシオ=デジタル時計」というイメージは今でも持たれているのではないかと思います。他社に対する私たちの強みは、高度な機能を可能な限り小型化し、時計の中に搭載するという技術です。1970年代から1980年代にかけてのヨーロッパ市場では、カシオは電卓付き腕時計で非常に有名になりました。

そして1990年代に入って、革命とも言えるG-SHOCKブームが起こり、さらにその拡大に成功したことでカシオのイメージが大きく変わったのです。当時、ヨーロッパでファッションブランドとして認められる時計がスウォッチやエスプリくらいしかなかった中で、G-SHOCKは新たなファッションブランドとして受けいれられました。特にドイツを中心に、ヨーロッパ全体でカシオのイメージが上がりました。

――ヨーロッパは伝統的な時計の本場であるスイスを含む市場ですが、カシオの時計はスイス時計と同じカテゴリの商品として受け入れられているのでしょうか。それとも違うカテゴリの商品と見られているのでしょうか。

我々は、スイスの時計業界とは全く異なる商品を作っていると言えます。スイス時計のブランドは、一生涯使えるような機械時計を作っていますが、我々は機能性や消費者が実際に得られるベネフィットを追求しています。ですので、スイスブランドと同じようなものを作って対抗していこうというつもりはありません。

現在のカシオ製品では、アナログ時計においても機能性を追求しており、そういった点でもスイス時計とは異なります。全時計市場において80%以上の商品はアナログ時計です。カシオはデジタル時計から始まりましたが、当然、アナログ時計でもシェアを伸ばしたいと考えています。市場に対して正しい商品を用意し、正しいマーケティング活動を行えば、アナログ時計も売れるはずです。また、カシオはデジタルカメラや電子楽器なども手がけていますが、アナログ時計の販売を伸ばすことで、カシオは時計メーカーであるということも強調していきたいと考えています。

――その、アナログ時計における中心的なブランドが、日本でも展開の始まった「EDIFICE」ということですね。

EDIFICEはアナログ時計の売上を伸ばすための戦略的なブランドです。ただ、単なるアナログ時計ではなく、カシオのデジタル技術をアナログ時計に搭載していくということがポイントになっています。消費者の年代でいうと、特に35歳以上の方にとって時計はアナログという志向は強いですが、EDIFICEは他のアナログ時計に対しても十分対抗できる商品になっていると考えています。

――ゆくゆくはEDIFICEをG-SHOCKと並ぶブランドにしていきたいという考えなのでしょうか。

G-SHOCKはやはり最優先のブランドです。1990年代にヒットしたときとは商品も市場の状況も違いますので、引き続き(マーケティング活動に)力を入れていく必要があります。ですので、カシオの時計事業にとって最も重要なブランドであることには変わりありません。そしてEDIFICEは、立ち上げてからまだ日の浅いブランドですが、非常に大きな可能性を持っており、G-SHOCKに次いで注力するブランドに位置付けています。特に今、経済状況が非常に悪い中で伝統的なスイス時計が苦戦しています。価格に対して消費者に提供できる価値を考えると、逆にカシオとしてはこの状況はチャンスでもあります。

――ヨーロッパと日本を比べた場合、何か市場の性質の違いはあるのでしょうか。

これはあくまで私の感覚的な見方ですが、日本人は機能やディテールにこだわるのに対し、欧州では細かな部分よりもブランドそのものの価値を重視するように思います。そのブランドが "authentic" か、つまり信頼できる本物なのか、ウソをついていないかといったことを非常に気にします。ヨーロッパ人は、作られたストーリー、作られたマーケティング方法に対しては批判的で、その裏にあるものが本当なのかというところにこだわります。ある意味ではシニカルな、厳しい目を持っており、またその商品やブランドが自分にとってどんな意味を持つか、ということをとても重視しています。

ただ、最初に申し上げたようにヨーロッパには多くの国があり、国によって言葉も文化もメンタリティも違いますので、地域ごとの調整が必要になります。日本で行われてきたマーケティング手法をそのまま持ってきても通じませんので、それを地域に応じて調整するのが我々ヨーロッパ法人の役割と考えています。

――最近のマーケティング活動で何か特徴的な動きがあれば教えてください。

これはヨーロッパに限らず世界的な取り組みですが、G-SHOCKの25周年を記念するワールドツアーを企画しており、ヨーロッパではロンドン・パリ・バルセロナでイベントを開催する予定です。グローバルでこのような催しを企画することで、メディアや音楽やファッションを引き込み、若者にとってよりauthenticなブランドとして認知されるようにしていきたいと考えています。

1990年代のヨーロッパでは、G-SHOCKはファッションブランドとして受け入れられ大ブームになりました。しかし現在我々は、単にG-SHOCKのファッション性だけを訴求するようなことはしていません。元々技術から始まったブランドですので、それをアピールし続けることを忘れてはいけないと考えています。ファッションは時代が変わると色あせてしまうことがありますが、技術は残ります。ブランドの成功を長く継続させるには、G-SHOCKのメッセージとして技術を伝えていくことが重要だと考えています。