新型プリウスをスクープ試乗する機会を得た。もちろん日本国内向けの右ハンドル仕様だから世界初試乗。試乗動画も用意しているので存分に新型プリウスの走りを楽しんでもらいたい。

新型プリウスのプロトタイプ試乗会は、富士スピードウェイの中にある交通安全施設モビリタをベースにして行われた

試乗したのは3月中旬。新型プリウスは5月18日ごろの発表を予定しているはずなので、約2か月前の試乗となるわけだ。そのためプロトタイプの試乗だが、その内容はほぼ市販車と思ってもらっていいだろう。フィール面やディスプレイ表示などこれから市販までに煮詰めなければならない点はあるだろうが、詳細なスペック以外はほぼすべて見ることができた。

エコカーであるプリウスだが、ショートサーキットを走れるほどの動力性能とハンドリングを身に付けている。パワーモードなら爽快なドライビングが楽しめる

サーキット走行車はすべて215/45R17サイズのタイヤを装着していた。ブランドはミシュランのプライマシーHPやブリヂストンのトランザER33、トーヨーのプロクセスR30などを採用するようだ

走りは軽快だがステアリングの操舵感は少々軽めだ。できればパワーモード選択時には電動パワステの操舵感を重くし、S-VSCの制御もスポーツになればさらに楽しめるはずだ

富士スピードウェイの外周路を一般路に見立てて走行。アクセルオフでコーナーに進入する場面は、回生を行うと同時にエンジンも停止させている

サーキットにもずらりと新型プリウスのプロトタイプがそろえられた。トヨタのプリウスにかける期待がうかがえる

さすがに最終コーナーのように速度が高く、Gが掛かる場面ではS-VSCが頻繁に作動する。エコカーとして考えれば十分な速さを獲得しているといえる

このストレートは下り坂のため1コーナーの進入速度が高いが、きっちりとブレーキングできる。全開走行ではないが、ブレーキフィールの変化も起こらなかった

素晴らしい天候に恵まれて、サーキット走行が楽しめた

新型プリウスはついにソーラーパネルを装備した!!

すでにエクステリアデザインは海外のモーターショーなどで発表済みだが、試乗車は仕様違いが何台か用意されていた。右ハンドル仕様を見るのは初めてだったが、写真で見た印象以上に実車はスポーティに見える。5ドアハッチバックという形式は現行20型プリウスと変わらないが、レクサスを思わせるアローデザインのLEDヘッドライトやボディサイドに走るウェッジシェイプのラインによってとてもスマート。ボンネットとフロントスクリーンが滑らかにつながるのは、フロント(A)ピラーを25mm前方出したためだ。これによってフロントスクリーンの傾斜角がより強くなり、空力特性の面でも有利になった。

新型はスポーティさが確実に増したが、ディメンションは現行型とほぼ同じだ。全長は4460mmで現行型よりも15mmだけ長くなっている。この15mmの増加分は、すべてフロントオーバーハングに使われていて、フロントバンパーのデザインをより立体的にするためのものだ。全幅は1745mmと現行型より20mm幅広くなったが、このサイズなら駐車スペースで困ることはないだろう。それよりも前後のトレッドが増加しているのは見逃せない。フロントトレッドは何と40mmも増加し、リヤも20mm広くなっている。これは後述するがエコカーとしては異例なほどワイドなタイヤを装着しているグレードがあるからだ。ディメンションを追ってみても新型はトレッドを広げ、走りの面を重視していることがわかる。

新型は現行型に似ているが、プラットフォームは一新されている。オーリスのプラットフォームを基本としてプリウス用に手直ししているわけだ。そのためフロント・ストラット、リヤ・トーションビームというサスペンション形式も同じ。全高は現行型と同じ1490mmだがルーフ形状が異なっている。現行型は空力特性を考え前から見るとセンター部分を凹ませる独特の形状を採用していたが、新型はノーマルな形状に戻されている。

これはルーフにソーラーパネルを採用するための処置だ。新型はメーカーオプションでムーンルーフ(濃色ガラス製のサンルーフ)とセットオプション(予想では15万円位)になるようだ。写真を見てもらうとよくわかるが、ルーフが黒くなっている車両はすべてソーラーパネル付き。トヨタではこれを「ソーラーベンチレーションシステム」と呼んでいる。ネーミングからもわかるが、直射日光が当たる場所に駐車していて車内温度が高くなると、エアコンのファンを回して外気を取り入れるというシステム。車載バッテリーの電気を使うことなく、あらかじめ車内温度を下げておくことができるので、乗車したときにエアコンの効きがよくなるわけだ。

だが、せっかくソーラーパネルを装備したのに残念な面もある。現行の20型プリウスは駐車時に車内温度が上がると駆動用のニッケル水素バッテリーも温度が上昇するため、電池保護のためモーターのみで走行できるEVモードを受け付けないことがある。例えば箱根の山の上などに行き駐車しておいて、下るときはエンジンをかけずにEVモードで走り出したくてもダメだった。新型のソーラーベンチレーションシステムはエアコンのファンを回すが、ニッケル水素バッテリーの冷却ファンは回さないという。車内温度が下がればバッテリーが熱くならない可能性もあるので、現行型よりEVモードを受け付ける機会は多くなるだろうが、できればバッテリー用のファンも同時に駆動してほしかった。

ソーラーパネルをなぜバッテリーの充電用に使わないのか疑問に思っている方もいるだろうが、発電量が小さいため充電用に使ってもあまり意味がないのだ。ルーフ全体が黒く見えるが、ソーラーパネルはムーンルーフの後ろからアンテナ手前までの小さな面積しかない。将来はソーラーパネルの面積をもっと大きくし、リチウムイオン電池との組み合わせを考えているというが、それはまだ先のことのようだ。以前マツダがサンルーフにソーラーパネルを組み込んだことがあるが、プリウスはルーフに取り付けている。じつは開発過程では様々な課題があったという。

まずボディに取り付けるため夏場の暑い時期にボディの膨張とソーラーパネルの膨張率が違うため苦労したという。これはパネルのマウント方法で解決したが、電気を多用するクルマならではの問題点もあったという。それは電気ノイズ。ソーラーパネル自体からやパネルがアンテナの役目をしてノイズが電気系統に影響することがあった。もちろんノイズ対策をしているが、これ以上大きなパネルを使うときにはこうした点も問題になるようだ。またパネルの色も1台ごとに合わせているという。ソーラーセルのサプライヤーは京セラで、家庭用のセルをプリウスに流用している。セルを集めてパネルにするわけだが、セルは1つ1つ微妙に色が違うらしい。見えにくいルーフに使うとはいうものの色がバラバラではまずいということで、似た色のセルだけを集めて1枚のパネルに仕上げている。トヨタならではの気遣いが感じられる点だ。

新型のセールスポイントはいくつもあるが、世界初採用なのが「リモートエアコンシステム」。駐車中でも車外からスマートキーを使ってエアコンを作動させることができる。もちろん夏場など車内をクールダウンさせるときに有効(ヒーターはエンジンの熱が必要)で、バッテリーの容量があれば電動コンプレッサーを作動させて、乗車前に快適な車内にしてくれるわけだ。

このシステムを採用できたのは電動インバーターエアコンの高効率化のおかげだ。現行型も電動エアコンを使っているが、新型は冷媒を効率よく利用するエジェクターサイクルシステムを使っている。これはトヨタグループのデンソーが開発したもので、すでに家庭用ヒートポンプ式エコキュートなどに採用されている。従来のエアコンシステムの膨張弁に替えて、エジェクターを使うことで従来の3分の2のエネルギーですむ高効率エアコン。これから自動車に限らず家庭用のエアコンに採用される期待の最新システムなのだ。こうしたグループ企業の力を集結させることができるのがトヨタの強みと言える。

3月中旬に試乗会が行われた。スポーティなエクステリアデザインが新型プリウスの特徴だ

ヘッドライトの切り返しがあるデザインは、レクサスのデザインによく似ている

ヘッドライトはなんと節電効果が高いLEDを新採用。ロービームのみLED化されているが、これはレクサスに続く採用だ

ターンランプはフォグランプと一体化されている。上に見える突起はポップアップ式のヘッドライトウオッシャー

エンブレムにはブルーの縁取りが付いている。これからもわかるようにミリ波レーダーを使ったブレーキ制御付きクルーズコントロールとプリクラッシュセーフティシステムが採用されている

17インチのホイールは5本スポークタイプで、樹脂カバーは装着されない

新型は1.5Lから1.8Lに排気量を拡大し、大幅に動力性能が向上

プリウスは1997年に登場した初代から1.5Lという排気量だったが、新型プリウスは1.8Lに拡大した。理由は動力性能と燃費性能の両立。排気量を拡大するというのは燃費には不利にみえるが、高速域での燃費性能を考えると1.8Lがベストだったようだ。これは北米や欧州での燃費性能を考慮したもので、日本より平均スピードが高い地域でもコンスタントに燃費を稼げる。もちろんこれは進化したハイブリッドシステムのおかげでもある。新型はリダクション機構付きのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)IIに進化したことと排気量を拡大して動力性能を一気に高め、相反する燃費性能も高めているのだ。試乗時には燃費の数値などは公開されなかったが、現行型の10・15モード燃費35.5km/Lを上回るはずだ。ウワサでは38km/Lをマークしていると言われているから、ライバルのインサイト(30km/L)と比べても燃費性能は大きく上回る。

試乗コースには何とショートサーキットも用意されていた。トヨタは新型プリウスの走りと動力性能に相当自信を持っていることがわかる。実際にサーキットを走るとスポーティな走りがこなせる。コーナーでステアリングを切るとノーズがスムーズに向きを変え、ボディのロールがゆっくりと進む。現行型はこうした場面ではロールが意外と早く進むため不安感があるが、新型はシャシー性能が高められているためスポーティな走りができる。

コーナーを攻めるような走りでは、ステアリング協調車両安定性制御システムのS-VSCが介入するが、そこそこのレベルで走りが楽しめる。インサイトもハンドリングは軽快だが、パワーという点ではプリウスの独壇場だ。それはコーナーからの立ち上がりではっきりわかる。リダクション機構付きのTHS IIはモーター出力が従来の50Kwから60kWに高められ、システム出力は従来の82kW(113馬力)から一気に100kW(136馬力)まで高められている。このパワーを利用してコーナーから引っ張り出されるように立ち上がることができるわけだ。ステアリングを早く直進状態に戻せばS-VSCの介入も少ないため爽快なドライブフィール。サーキットを走った車両はすべて215/45R17サイズのタイヤを装着。現行型はツーリング系で195/55R16が最大だから、新型はかなり太いタイヤも装着してグリップ性能を上げると同時にトレッドも拡大して操縦性も高めている。試乗時にはグレード展開などは発表されていないが、現行型のツーリング系と同様にスポーティグレードが設定されるのは確実だろう。

後編につづく

動画

動画

動画

ヘッドライトからリヤコンビランプまで一直線で走るサイドラインが特徴。全長はフロントオーバーハングがわずかに伸ばされたが、これはバンパーのデザイン処理のためだ

リヤコンビランプはもちろん省エネのLEDタイプを採用。後方視界を確保するためのスポイラー下のウインド―も20型から受け継いだ

リヤスポイラーは全グレードともブラックのままで、ボディカラー同色とはならない。これはルーフにソーラーパネルを載せたモデルの外観が、フロントウインドーからリヤスポイラーまでつながる感じを演出するためだ

リヤコンビランプのアローデザインもレクサスを連想させる

バンパーも空力処理を考えたスポイラー形状になっている。この角度からだとエキゾーストパイプはまったく見えない

バンパー奥にエキゾーストエンドがある。排気熱を回収する「排気熱再循環システム」はもっと前側におかれている

注目の新装備がこのソーラーベンチレーションシステム。ムーンルーフとセットで装着されるソーラーセルの電気でエアコンのファンを駆動して外気を導入する

ソーラーパネルはムーンルーフの後ろからアンテナの前まで。換気に使うためだけのため、面積はこれで十分だという

京セラ製のソーラーセルは家庭用と同じだという。外板に使うため同じ色のセルだけを集めてパネルにしているというのが、クオリティにこだわるトヨタらしい

ソーラーセルは製造段階で微妙に色が異なるという。似た色を集めているため違和感は全くない

見る角度を変えると一面ブラックのルーフで、ソーラーセルがあることはほとんどわからない。ちなみに写真右側がリヤでここにセルがある

インパネは先代と同じくハード樹脂タイプだが質感は大幅に向上している。フライングバットのセンターコンソールのため、サイドウオークスルーができなくなってしまったのは残念

シフトパターンは20型プリウスと同じで、ブルーのノブが美しい。夜間はルーフからのダウンライトでここが光るようになっているらしいが、晴天だったため確認できなかった

丸く黒いステアリングスイッチは柔らかいゴムのような感触で、タッチするとメーター内にこのスイッチのディスプレイが表示される。これを「タッチトレーサーディスプレイ」と呼ぶ

右側ステアリングスイッチを拡大

左側ステアリングスイッチを拡大

ステアリングスイッチに触れると、このようにメーター内にスイッチが浮き上がるためブラインドタッチが簡単にできる

ノーマル時のメーターはこのように見える。左側は瞬間燃費計

20型と同じくセンターメーターを踏襲。新型は左側をマルチインフォメーションとして使い、ステアリングスイッチでエネルギーモニター画面や新採用のハイブリッドシステムインジケーター(写真の表示)などに切り替えられる

走行時はバーグラフが左右に走り、エコ運転かそうでないかを一目で確認できる

ナビはもちろん高性能なHDDタイプ。20型と同じくIPA(アイパ=インテリジェント・パーキング・アシスト)もセットオプションになるのかもしれない

IPAはレクサスなどと同じく、フロントバンパーに付けられた超音波ソナーで駐車空間を認知する機能が付けられた。そのため画面での駐車位置設定はほとんど必要ない

ナビを装備した車両ではエコドライブ画面が見られる。アクセル開度に応じてエコメーターが動き、毎分の燃費がバーグラフで表示される。20型ナビを装備しなくてもディスプレイが付いていたので、エネルギーメーターや燃費のグラフが見られたが、新型はナビを装着しないとこうした画面は見られない

アドバイスの表示にタッチするとこのような「寸評」が表示される

20型でもおなじみの燃費のパーグラフ表示。下のエネルギーボタンはプロトタイプのためで、実際にはエネルギーメーターは表示されない可能性が高い

新しいのは過去の燃費も表示される点。ちなみに最高燃費が19.5km/Lと表示されているのは、IPAのデモ用車両のため。ちょっとしか動かさないため燃費が悪い表示になってしまっている

後編につづく