Timothy Self
アメリカ・カリフォルニア州のシリコンバレーでMac用シーケンスソフト「Vision」を開発するOpcode社、オーディオインタフェースメーカーのUniversal Audio社のプロダクトマネジャー、「BeOS」のBe社の副社長などを歴任してきた人物。現在はPropellerheadのセールス&マーケティング担当副社長を務める

Windows/Mac上で動作するラック型の音楽制作ソフトとして著名な「Reason」。そのReasonの開発元がスウェーデンにあるソフトハウスPropellerhead Software社(以下Propellerhead)だ。同社はDAWとソフトシンセなどを同期させる標準規格「ReWire」を開発・提唱した企業としても知られているほか、PCを用いたサンプリングやループ素材作成のための必須ツール、「ReCycle!」の開発元でもある。同社製品は国内ではエムアイセブンジャパンが扱っている。そのPropellerheadのセールス&マーケティング担当副社長、Timothy Self氏に、最近の会社の動向や、「ReFill」と呼ばれる同社の高品位音源集には、どのような技術で作られているのかを伺った。

――PropellerheadがReasonの現行バージョン、「Reason4」をリリースして、1年半が経過しようとしています。ユーザーは、そろそろ新しい動きを期待していると思いますが。

Timothy Self氏(以下Tim)「確かにReason本体はリリースしてから1年半になりますが、その後も数多くの製品を出しています。具体的には8種類のエレキベースを収録したReFill『Reason Electric Bass』や、複数のReFillを組み合わせた『Studio Combo』などです。それらのReFill作成に多く力を費やしてきました」

国内でも人気の高いラック型の音楽制作ソフト「Reason 4」

「Reason 4」専用のベース音源データ集でReFillという形式で収録されている「Reason Electric Bass」

――確かにReFillはこれまでいろいろ出されていますね。これは、一般のサンプリング音源集とはどう違うのですか?

Tim「まずReFillはReason用に作られた音色データ集です。しかし、これは単なるサンプリングデータではなく、Reason用のコンポーネントパッケージとなっており、『パッチ』、『サンプル』、『REXファイル』、『ソングファイル』なども含み、より生楽器に近い音を実現させています。その手段のひとつとして、高品位に生の楽器の音が出せるReFillをPropellerheadに提供しています。また、これまでにない高品位な音にするために『ハイパーサンプリング』という我々独自の技術を投入しているのです」

――ハイパーサンプリングとはどういった技術なのですか?

Tim「『Reason Electric Bass』というベースのReFillを例に説明しましょう。通常ベースの音をサンプリングする際、音程を変えてサンプリングしたり、ベロシティーを変えてサンプリングする『マルチサンプリング』という手法が用いられます。それは当然のことなのですが、ハイパーサンプリングでは、それに加え、数多くのマイクを使って、同じベースの音を同時に収録するのです。具体的には12本程度のマイクを、さまざまな位置に設置するとともに、マイクもいろいろな種類を用意してサンプリングを行っています」

――マイクをミックスし、いいサウンドに仕立てた上で、サンプリングデータにするということですか?

Tim「いいえ、すべて別々のトラックに独立した状態で収録し、そのままReFillとしてデータ化されてます。それにより、ユーザーはベースの音を打ち込んで鳴らす際、12種類の音を自分で自由にミックスさせて再生でき、音作りの自由度が格段に増すのです。実際、ベースアンプに近接したマイクで録音した音と、数メートル離れた位置で録った音では、まったくニュアンスが違いますし、それをミックスさせることで、空間的な響きを得ることもできます。つまり、わざわざリバーブなどのエフェクトをかけることなく、広がりのあるサウンドを作ることができるわけです」

Reason 4に組み込んだReason Electric Bass。見た目はひとつのシンセサイザのようにも見えるが、Combinatorという形で複数のモジュールがひとつにまとめられている

Reason Electric Bassを展開すると数多くのサンプリングシンセサイザ「NN-XT」が含まれていることがわかる

――このハイパーサンプリングには独自のツールを使っているのですか?

Tim「最終的なデータ化には独自のツールも使っていますが、レコーディング自体には『Apogee』や『ProTools』などを利用しています。ただ、そのセッティングやレコーディングには、これまで構築してきたノウハウを元に、かなり時間をかけて行っています」

――確かにサンプリングデータ集で、そうしたものはほとんど見たことがないですね。

Tim「このハイパーサンプリングはベースだけでなく、ドラムキットである『Reason Drum Kits 2』、ピアノ音源の『Reason Pianos』、さらにアビーロードスタジオのキーボードを収録した『Abbey Road Keyboards』も同様の手法で作られています。これらを利用することで、音楽制作のあり方を大きく変えることが可能です。たとえば、アコースティックのグランドピアノのレコーディングにコンデンサマイクを使い、フタの内側を狙って行ったとします。でもミックスの際、『やはりマイクをダイナミックマイクにすべきだった』とか『少し離れた場所から録ればよかった』と思うこともあるでしょう。その場合、よほど時間とお金に余裕があれば、録り直すという方法もありますが、通常は諦めるしかありません。しかし、このハイパーサンプリングを利用したReFillであれば、自由にマイクの種類やセッティング位置などを変更でき、それを組み合わせることが可能です。そのため、音作りの自由度は飛躍的に向上するわけです」

Reason Electric Bassのサンプリング風景。さまざまなマイクが同時に使われている

Reason Electric Bassのサンプリング時のシステム構成図。ベースを弾くと2つのアンプが鳴るとともに、数多くのマイクで収録される

――なるほど。ReFill制作には、色々手が込んでいるんですね。最後に、ユーザーとして特に気になっている、Reasonの次期バージョンや新たなアプリケーションについて教えていただけませんか?

Tim「残念ながら、そこだけはお話できません。でも、水面下でいろいろな開発が進んでいることは事実です。今年は、かなりエキサイティングな年になると思いますので、ぜひご期待ください」

――ありがとうございました。

Timothy Self氏によると、今年中には、何らかの新展開があるかもしれないとのこと