昭和生まれなら親指シフトの隆盛を覚えているはず。そして今でも親指シフトの愛好者は存在する。富士通「親指シフトキーボード(USB)」(FMV-KB232)はそんな親指シフト愛好者にとって定番となるキーボードだ。どっしりとした安定感、軽くて静かなキータッチ。アルファベットはJIS配列と互換性があるため、ブログやメール、SNS、メッセンジャ、Twitterなどなど、格段にテキストベースのコミュニケーション手段が増えた今、親指回帰派や親指初体験派をも取り込む可能性を秘めている。

主な仕様 [キー数] 親指シフト(NICOLA)配列110キー(Windowsキー、アプリケーションキー搭載)   [キー仕様] 3.8mmストローク、押下圧(入力荷重)35g、キーピッチ19.03mm   [接続インタフェース] USB 1.1   [サイズ/重量] W456×D170×H39.5mm/520g   [対応環境] Windows、日本語入力ユーティリティ「Japanist 2003」(別売)   [店頭予想価格] 29,400円

親指シフトの本家が作ったキーボード

折しも2009年1月4日の報道によると、参議院では手書きの速記を廃止し、テープ再生とワープロによる議事録作成に移行するとのことだ。プロの現場で、親指シフト方式が再び注目されるのではないかと期待したい。親指シフト方式こそ、もっとも日本語入力に優れ、ハイスピードなタイピングを実現するキーボードだと思う。速記に匹敵するパフォーマンスを見せてくれるに違いない。

親指シフト方式は1980年に富士通のワープロ専用機「OASYS」に採用され、ワープロ市場を席捲した日本語入力システムだ。後にライバル企業の市場参入によりシェアを下げたとはいえ、「OASYS」シリーズは常に一定のポジションを保ち続けた。筆者は中学生の頃に祖父の会社にあった「My OASYS」と出会い、「悪筆な自分でも他人に見せられる文章を書ける」というワープロの魅力に目覚めた。その後、JIS配列のPCを買い、PC上の日本語ワープロを使い始めたために親指シフトと別れてしまった。

しかし一方、熱心な親指シフトファンは「OASYS」を手放さなかった。それはただの愛着ではなく、親指シフトが高速な日本語入力方式だからだ。ワープロ早打ちコンテストの上位はいつも親指シフトユーザーだったし、現在も商業高校生徒のコンクールなどでは親指シフトの参加者が多いという。PCユーザー全体の中での使用率は少ないだろうけれど、熱烈な親指シフトユーザーは存在する。そんな親指シフト派の要望に応えて、いくつかのサードパーティはPCで親指シフトを実現するキーボードやエミュレータをリリースしている。

親指シフト派は常に不安に苛まれている。「親指シフトキーボードが市場から消えたらどうしよう」と。親指シフト派は仕事でもプライベートでもタイプ量が多い。したがって、キーボードの買い換え頻度も高い。故に、親指シフトキーボードの市中の在庫に敏感だ。選択肢が少ないだけに、人気モデルはすぐに売り切れてしまうのだ。そんな状況の中、親指シフトの本家、富士通が数年ぶりに新型親指シフトキーボードを発売した。それがこの、2008年に発売された最新モデルFMV-KB232なのである。

FMV-KB232は、テンキー、カーソルキーなどを備えたフルサイズのキーボードだ。第1の特徴である親指シフト配列については後述するとして、他社のフルサイズキーボードと比較すると「どっしりとした重さ」が印象的だ。この重量感は安定感と静粛性に効果があるようだ。ホームポジションに掌底を押しつけても微動だにしない。また、タイプ時の微細な振動をしっかりと受け止めてくれる。キーの機構はメンブレン型であることも静粛性に効果がある。キー押下時の加重も小さく、撫でるようなタイプで文字を入力できる。反応も敏感だ。これなら長時間のタイピングでも疲れにくいだろう。

そのままでも傾いているが、背面のスタンドを立てるとさらにチルトアップする

LEDはキーボードの中央。タッチタイプ時に認識しやすい

欲をいえば、もっと軽くてレスポンスの良い静電容量型で作れなかったのだろうか。なぜなら、FMV-KB232の店頭予想価格29,400円はかなり高価だと思うからだ。日本語JISキーボードなら約20,000円で静電容量式が買える。親指シフトのシェアを考えると、少数生産品ゆえに高価になることはしかたのないことかもしれない。しかし、打鍵にこだわる親指シフトユーザー向けなら、もう少し高価になっても静電容量式というニーズもありそうに思う。