FMV-KB232の最大の特徴は親指シフト方式である。親指シフトを知らない人のために簡単に説明すると、キートップに2つ、あるいは3つのかな文字がある。キーボードの下の段には、左右の親指に対応する「親指シフトキー」がある。下側のかなを打つ時はそのままでいい。上側のかなを打つ時は、そのキーのある側の親指シフトキーと同時に押す。濁音や半濁音を打つ場合はそのキーの左右逆側の親指キーを押す。説明するとややこしいし、実際に操作してもやっぱりややこしい(笑)。しかし、この操作に習熟すると、すべてのかな文字は1回の打鍵で入力できる。ローマ字は母音以上は2~3回の打鍵が必要だし、かな入力も濁音や半濁音で2回の打鍵が必要だ。親指シフトなら1回で済む。また、かなキーがキーボードの下3段にすべて収まり確実に手が届くため、タッチタイプに適している。むしろタッチタイプしなければメリットはないといってもいい。

かなキーが三段にまとまる親指シフト

中段の[後退]キー、[取消]キーが特徴

FMV-KB232は、富士通がOASYSで採用してきた親指シフトキーボードとはちょっと違う。元祖親指シフトキーボードは、スペースキーの下に親指シフトキーが独立していた。しかしFMV-KB232は日本語Windowsキーボードとの互換性を考慮して、[変換]キーと[無変換]キーを大きくして親指シフトキーとして使い、スペースキーと[変換]キーを入れ替えている。共有PCで親指シフトとローマ字入力のユーザーがいる場合は共存できる。ローマ字入力を使っている人は、[変換]キーやその他いくつかのキーの位置を留意するだけで、本キーボードがそのまま使える。留意すべきキーとしては、[Backspace]キーが右上ではなく下から2段目にあり、その影響で[:]キーが上の段に移動しているなどである。使用頻度が高いだけに戸惑うが、慣れると小指ですぐに[Backspace]キーを扱えるので便利だ。

もっとも、こうしたキー配列の注意点は親指シフトユーザーには承前のことで問題はない。むしろ、かつて親指シフトを使い、現在はローマ字入力に慣れてしまった人が親指シフトに戻りやすい配列だといる。あるいは、今までローマ字入力を使っていて、新たに親指シフトを練習したい人にとっても、ローマ字と親指入力の両方に対応しているので扱いやすいと思う。富士通は親指シフト派の維持だけではなく、新たにな親指シフトユーザーの獲得を目指しているのではないか。前述の商業高校生のコンテストに出場する生徒は、中学時代に教わったローマ字から親指シフトに矯正する必要がある。職業柄、打鍵数が多い仕事をしている人が、さらなる効率化を目指して親指シフトに移行する可能性もある。

FMV-KB232はドライバが添付されない。USB接続のため、PCに繋ぐと英語キーボードとして認識され、すぐに使える。ただし注意すべきは、接続しただけの状態では、まだ日本語入力はできない。親指シフトで日本語入力を行うには、別売の富士通製日本語入力システム「Japanist 2003」が必要だ。「Japanist 2003」は単体(価格6,090円)で販売されている他、富士通のWindows版ワープロソフト「OASYS V10」(価格23,100円)に同梱されている。キーボードだけではなく、これらのソフトウェアへの投資も必要になる。

……という説明は、富士通のカタログ上のお話。実は、入力ソフトに追加投資をしなくても、フリーウェアの親指シフトエミュレーションユーティリティが利用できる。今回、筆者の元にはレビュー用に拝借したFMV-KB232だけでJapanist 2003は添付されていなかった。そこで、親指シフトを推進する団体「NICOLA(日本語入力コンソーシアム)」のWebサイトを探し当てたところ、106キーを親指シフトキーのように使うエミュレーションソフト「親指ひゅんQ」を見つけた。これとFMV-KB232を組み合わせたら、全く問題なく親指シフトが使えた。FMV-KB232が、106キーと互換性があるからこそできるワザである。

「親指ひゅんQ」で親指シフト可能

富士通のサイトには親指シフト練習ソフトもある(無償)

また、筆者は日本語入力システムとしてATOKを愛用しているのだが、登録した辞書や変換学習をそのまま使えることを確認した。「Japanist 2003」も魅力的な日本語入力システムだ。とくに携帯電話にあるような予測変換機能が強力そうで気になる。しかし、それに切り替えてユーザー辞書を構築し直すくらいなら、使い慣れた日本語入力システムのままで移行したほうがいい。逆方向から考えると、まずは手持ちのキーボードとエミュレーションソフトを使って親指シフトの使い心地を試し、その可能性を見いだしたら、親指シフトをパワーアップする専用キーボードとしてFMV-KB232を購入する、という順序もアリだと思う。

筆者は今回、久しぶりに親指シフトキーボードを触った。20年以上前の感覚が戻るにはかなり時間を要したが、私の指先は「うしてけせ はときいん」のホームポジションを覚えていた。使い心地の良いFMV-KB232は、もう1度親指シフトに戻ってもいいかな、と思わせるキーボードであった。

■仕様
製品名 親指シフトキーボード(USB)
型番 FMV-KB232
キー数 親指シフト配列110キー(Windowsキー、アプリケーションキー搭載)
キー仕様 3.8mmストローク、押下圧(入力荷重)35g、キーピッチ19.03mm
インタフェース USB 1.1
サイズ/重量 W456×D170×H39.5mm/520g
対応環境 Windows、日本語入力ユーティリティ「Japanist 2003」(別売)
店頭予想価格 29,400円