パナソニックの大坪文雄社長(左)と、三洋電機の佐野精一郎社長

既報の通り、パナソニックは三洋電機を傘下におさめることを正式に発表した。三洋の保有する電池事業での技術力を活かし、両者の統合による相乗効果の実現を図り、エネルギー事業での新たな成長と、経営体質の強化を目指し、2012年度には、今回の事業統合で、営業利益を800億円増加させることを目標とする。両社は「コラボレーション委員会」を発足し、今後の協業成果の早期実現に向け、さまざまな施策について検討していく方針で、パナソニックは相乗効果発揮に向け、1,000億円規模の投資も考えている。

パナソニックの大坪文雄社長は「電機業界を取り巻く事業環境は、グローバル競争の激化と、世界的な金融不安のなか、厳しさの一途をたどっている。両社は、これまでの戦略を加速させるだけでなく、いっそうの成長を目指す"抜本的なアクション"が必要であるとの課題認識を共有している。技術や製造力を結集させ、シナジーの発揮により、企業価値を最大化させていきたい。大きな変化を迎えた時期だからこそ、パナソニックは、成長への果敢なアクションを積み重ね、グローバルな競争力を強化する」と話した。

三洋電機の佐野精一郎社長は「百年に一度といわれる厳しい環境の下で、事業を発展させていける道が開けた。パナソニックから、物心両面での支援を受けられる提案が出され、勝ち残りのための大きなアドバンテージを得た。この提携を通じ、パナソニックのノウハウを取り入れ、両社の単なる合算を超えたシナジーが期待できる。株式の上場やブランドも維持され、総合的に判断し、当社の企業価値を向上させるには、パナソニックが最大のパートナーであると考えている」と述べた。

今回、パナソニックは、三洋の二次電池、太陽電池についての技術力、電子部品、業務用冷凍空調、デジタルイメージング分野での商品開発力などを高く評価、これらを活用し、まず、家やビルなど建物をまるごと見据えたエネルギー管理のソリューションの実現を図り、「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」の3つの切り口から、エネルギー関連事業の強化を狙う。

「創エネ」は、パナソニックが推進している、いわゆる「オール電化事業」をより強化させることを目指し、同社の家電製品、住宅設備と、設置面積あたりの発電量が世界最高の水準とされる三洋の太陽電池デバイスや、燃料電池を組み合わせ、パナソニックグループの巨大な販売プラットフォームに載せ、世界市場に向け展開していくもので、三洋の太陽電池分野への設備投資を加速させる。

「蓄エネ」は、リチウムイオン・ニッケル水素二次電池の領域で、両社の技術力を融合させ、商品力開発につなげる。パナソニックは大阪市住之江区にリチウムイオン電池の新工場を建設、2009年10月から生産を開始する予定で、5年間に1,230億円投資する意向だ。また、三洋側では2009年に、ハイブリッド電気自動車向けのリチウムイオン電池の量産が開始され、2015年までに800億円投資する。両社は、事業統合の相乗効果の目標としている、2012年度の800億円の営業増益のうち、半分の400億円は、これらエネルギー事業が稼ぎ出すと見込んでいる。

このほか、空調事業では、パナソニックの家庭用エアコン、換気扇、三洋の業務向け空調という、それぞれの得意とする要素をあわせ、家庭向け、ビル向けを包括した空調ソリューションや、医療関連分野でも、両社の強い商品を組み合わせた展開を図る。

さらに、三洋がパナソニックグループに入ることで、三洋は資材購買などの全社調達コストの削減やロジスティクス関連コストの削減が見込まれるとともに、「イタコナ」や「コストバスターズ」といった、パナソニック独自のコスト削減手法を三洋に導入することで、経営体質をさらに強化できるという。営業増益800億円の残りの半分は「医療関連、経営体質強化、ロジスティック、調達のスケールメリット」(大坪社長)の効果によるものと想定している。また、今回の投資は「6-7年で回収できる」(同)とみている。

経営制度、技術開発、調達、ロジスティクス、品質管理、ITインフラなどをはじめ、統合に向けてのさまざまさ施策の詳細は、「コラボレーション委員会」で検討される運びだが、まず、白物家電など、いまのところ両社双方が手がけている「重複事業」が課題として浮上している。これについてパナソニックの大坪社長は「統合による負の効果のようにみえるものであっても、知恵を出せば、相乗効果に変えられるものもある」と語った。三洋の佐野社長は「現在、両社が競合している事業があるが、地域、あるいは流通の区分などで対応していけるのではないか」としている。

三洋の株式上場、ブランドは維持されるが、今回の買収により、パナソニックグループは売上高が11兆円に達し、国内最大の電機メーカーとなる。しかし、米国のサブプライムローン問題を火種とした金融不安は世界中に影響を及ぼし、国内でも消費意欲は低迷している。さらには、13年ぶりに90円を割り込むなど、円相場の急騰により、電機メーカーは暴風雨のなかにあるといえる。パナソニックも例外ではなく、今期の最終利益を従来予想の3,100億円から300億円に下方修正している。

こうした状況下で、三洋を統合したことについて大坪社長は「当社は、"いま"だけをみて経営しているのではなく、将来の成長を考えている。現状についても処方箋がないとは思っていない。損益分岐点の比率を下げる施策を実施したり、薄型テレビでも、抑えるべき設備投資は抑える。詳細は来年話すが、足元を固め、2009、2010年に向け、成長のエンジンとして、三洋との提携を考えた」と指摘、今回の事業統合が、新たな成長への一歩となるとの認識を示した。