日産自動車 総合研究所燃料電池研究所では、日産自動車における最新の燃料電池自動車の開発状況について発表した。

新型X-TRAIL FCV、2010年代には北米、日本に投入へ

日産自動車 総合研究所燃料電池研究所 主管研究員 井之口岩根氏

日産自動車 総合研究所燃料電池研究所 主管研究員 井之口岩根氏は、2050年時点で新車のCO2排出量を2000年比70%削減という長期目標を示し、改めて「ハイブリッド車などで、ある程度までは下げられるが、後はCO2の発生しない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)が必要になってくる」と主張。同社では2001年度よりFCVの車両開発を本格化させており、現在は自社開発の燃料電池スタックを搭載した2005年モデルを運用している。今後の予定については「今後は普及へ向けて新型FCVを2010年代の早い時期に北米、日本へ投入したい」と話した。

X-TRAIL FCV2005年モデルは、2001年度ではXTERRA FCVが航続距離160km、動力性能25秒だったのに対し、航続距離が70Mpa の水素タンクで500km、35Mpaで370kmに伸び、加速性能は0-100km/hで14秒と、ガソリンエンジンに近い性能を発揮する。「航続距離はガソリン車の下限に位置しながらも、実用的な走行距離が確保できるようになり加速感も良い」という。ドイツで世界最難関と言われる1周20.8kmのサーキットのコースでは、曲がりくねってアップダウンがある中、最高速度158km/hを記録。「色々な道で走ることができる"普通の車"だということが証明できた」と評価した。

2007年2月からは神奈川都市交通のハイヤーとして運用しており、2008年12月からは栃木県日光市でのリース車の運用も開始され、環境対応車しか入れないラムサール条約登録湿地「小田代ヶ原」などを走行している。井之口氏は「環境対応車しか走行できない自然豊かな場所を回るツアーも企画したい。一般にはFCVは環境に良いとは分かっていても、全体の車のイメージができない人が多い。"普通の車"であることを実感してもらうことが一番普及に役立つので、今後もグローバルから地域密着まで環境イベントや小・中学校の授業などに多数参加していく」と語った。

ルノーとのFCV共同開発では意外な発見があったと報告。ルノーの車にX-TRAIL FCVのFCシステムを搭載したところ、「同じ大きさの車は用意したもののうまくいくか懸念があった。しかし、配管はもちろん新設したが大きなコンポーネントは未改造のままで、意外とすんなり搭載できた」。最高速度160km/h、航続距離350km、最高出力90kWと似た性能を発揮し、何よりシステムの自由なレイアウトが可能だということが分かったという。

カリフォルニアでの実証実験では8台が延べ走行距離30万km以上を走行し、国内および北米の耐久走行の結果、「スタック性能は単純に距離に比例して劣化しているわけではなく、走行パターンによることも分かった」。その後、2004年度に自社開発したスタックを2005年モデルに使用してきたが、2008年8月には新型スタックを発表。2005年モデルに対し、薄型金属セパレーターの採用によりコンパクト化、電解質膜の発電性向上により高出力化を実現した。「2005年モデルは第一世代、新型は第二世代の燃料電池スタック。大きさを小さくした結果、全体的に約2倍の出力密度になった」と話した。

今後は、やはりコスト低減が課題となるよう。「EVと部品を共有化しながら使っていければ良いが、近距離向けのEVと長距離も含めたFCVとは狙いが微妙に違うので難しい部分もある」とし、FCV自体の発電や冷却などのシステムが複雑な点について、簡素化・小型化する取り組みを始めている。2005年モデルのシステムはスタックの機能を助けるために複雑になっていたが、第二世代の新型スタックはそれ自体が進化した。そのほか、白金などの材料コストを低減し、水素貯蔵部品や高圧水素容器の低コスト化を図るなど、「メカニズムを解析して基盤技術構築にさかのぼって改良をしなくてはいけない」と技術革新の必要性を語った。