SaaS World実行委員会は10日、11日の2日間にわたり、SaaS型のサービスプラットフォームを紹介するイベント「SaaS World/Tokyo 2008」を開催している。今回は同イベントにおいて、SOABEX研究会 代表幹事 ビジネスオンライン 代表取締役の藤井博之氏が「日本版SaaSの戦略とは -日本のIT業界に未来はあるか-」と題して行ったゼネラルセッションの様子をレポートしよう。

 SOABEX研究会の取り組み

SOABEX研究会 代表幹事 ビジネスオンライン 代表取締役の藤井博之氏

SOABEX研究会 代表幹事 ビジネスオンライン 代表取締役の藤井博之氏はまず、SOABEX研究会の取り組みについて紹介した。SOABEX研究会は、SOAを実践する各ベンダーが提供サービスの連携を目指して2007年7月に発足、現在ではSaaS/ASP事業者に関するサービス連携の中核を担う団体となっている。これまでも数々のセミナーや勉強会で、各SaaSベンダーが行っている話題の取り組みなどを紹介。また、懇親会を開催することでビジネスアライアンスのコーディネートも行っている。最近では各ベンダーのSaaSサービスに加えて、政府が実施するSaaS関連のプロジェクト紹介や提案も好評だという。

実際に藤井氏が代表取締役を務めるビジネスオンラインでも約10年ほどSaaSビジネスを手掛けており、今までの流れから方向性が見えてきたという。「約10年前に数々のASPが登場した際、ASPやSaaSはソフトウェアの流通方式を変化させるものだという認識が広がりました。しかし、私たちはSaaSをさらに大きなカテゴリで捉えています。各アプリケーション単位の小規模なモデルではなく、サービス連携や総合的なサービス手法をSaaSがビジネスモデルとして結成する、こう考えているのです」(藤井氏)

SaaSビジネスモデルの特徴

藤井氏はSaaSビジネスモデルの特徴について、大きく「サービス連携」「ロングテール」「プラットフォーム化」の3つを挙げた。まずサービス連携は、SaaSサービス間のインタフェース開発が容易なため、企業間の情報共有やデータ交換に有効なソリューション分野であることを意味している。藤井氏は「最近ではさまざまな連携が図れるAPIなどを積極的に用意しているサービスベンダーがありますが、こうした取り組みはさらに企業間のデータ連携やサービス連携を加速する材料となります」と語る。従来のソフトウェア開発はあくまでも企業に対するソリューションとして提供されてきたが、連携強化により提供先が一企業から関連企業へと拡大、共同体などをターゲットとしたモデルへと変わってきたというのだ。

2番目のロングテールは、Webを主体としたマスマーケティングによる販売手法が成立することを示している。従来のパッケージやソリューションは一定以上の規模を持つ企業に対して提供されており、中小企業にはあまりフォーカスしていなかった。しかしSaaSモデルでは流通や運用のコストが大幅に削減できるため、コンシューマや中小企業など比較的に収益単価が小さいセグメントにも事業が展開できるのである。

3番目のプラットフォーム化は、販売手法としてのプラットフォームサービスが進化するというもの。最近は大手のSaaSベンダーが他のSaaSベンダーを一つのポータルに集め、連携・共通して使える機能をプラットフォームサイトの中に構築する手法を採用。藤井氏はこの結果として、ブランディングやAPI標準化などによる囲い込みが激化すると見ている。

日本政府の危惧

一方で日本政府は、海外製SaaSプラットフォームの動きに対して危惧している。これは、サービスがすべて海外製品のプラットフォームに乗ると、国内IT産業の競争力が低下するのではないかという懸念からだ。そこでSaaSについて取り組みの必要性を感じ、2007年頃より政策を具体化してきた。

例えば制度面では、経済産業省が1月21日に「SaaS向けSLAガイドライン」を制定し、ユーザーにサービスを提供する際のレベルを決めて、安心・安全に利用できる基盤作りを実施。同様に総務省でも「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」および「ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度」を制定している。

また、推進施策としては経済産業省が50万社以上の小規模企業にSaaS導入を図る「中小企業向けSaaS活用基盤整備事業」をはじめ「IT経営実践促進事業(SaaS活用基盤利用促進研修事業)」や「"地域力連携拠点事業"におけるIT経営支援」を実施。総務省が「ASP・SaaS普及促進協議会」「地方公共団体ASP・SaaS活用推進会議」「ユビキタス特区事業」などを行っている。

日本政府が取り組んでいるASP/SaaS関連事業

中小企業向けSaaS活用基盤整備事業の概要

ASP・SaaS普及促進協議会の構成と役割