自画像 フランスに帰化し、カトリック改宗後はフランス人レオナール・フジタとして生涯を終えた

日本人として生まれ、フランスに帰化し、フランス人として生涯を終えたレオナール・フジタ。上野の森美術館で開催中の「没後40年 レオナール・フジタ展」では、フジタの没後40年を記念し、日本初公開作品を含む約230点に及ぶ作品が展示される。

なかでも、「幻の連作」といわれる縦横3メートルの4作品「ライオンのいる構図」「犬のいる構図」と「争闘I」「争闘II」は、長い間行方不明になっていた作品で、1992年にフランス・オルリー空港近くの倉庫で発見された後、6年の歳月をかけて修復、今回が日本における最初で最後の出品となる。本展覧会では、渡仏直後から、最晩年まで、レオナール・フジタの作品を四章に分けて展示する。会期は1月18日まで。

第一章「乳白色」の裸婦

1913年、新しい世紀を迎えたばかりの華やかなパリの地を踏んだ藤田嗣治(以下、レオナール・フジタ)は、陶器のような「乳白色」で描いた裸婦像で人々を魅了し、世界に名が知られるようになった。第一章では、パリ到着直後の模索の日々に描いた風景画や交友関係のあったモディリアーニから影響を受けた人物画、そして「乳白色」による独自のスタイルの確立と、その後描かれる連作につながる裸婦像を展示。フジタにしか描けないといわれる「乳白色」の世界に浸ることができる。

第二章 幻の連作と世界初公開の作品群

フジタは当初3年間の予定でフランスに留学したが、留学期間を延長し、パリのそのまま滞在。渡仏6年目にはサロン・ドートンヌに6点の作品が入選、注文は殺到し、フランスやベルギーから勲章を受章するまでの栄光を手に入れた。そんな華々しい日々の中、1928年、フジタはさらなる挑戦を自らに課した。「構図」「争闘」シリーズの制作である。

今回が最初で最後の展示となる大作。今展覧会終了後は、フランスにて、この作品が常設展示される美術館の建設が計画されている

この「構図」「争闘」シリーズは、今回の展覧会の最大の目玉となる作品で、ライオンのいる構図」「犬のいる構図」と「争闘I」「争闘II」の2枚1組の作品が対になった大作。画面いっぱいに無数の男女が思い思いの姿勢で動と静、愛と憎の動きを見せ、盛り上がった筋肉が、息をのむほどの迫力を作り出している。フジタのこのシリーズへの思い入れは強く、当時注文の大半を断って制作に没頭、完成後には、本人が「生涯でもっとも重要な作品」と位置付けている。1931年、フジタはこの作品を当時の妻ユキに託して帰国。ユキは戦争の混乱の中で作品を守ったが、その後1992年に発見されるまで、倉庫で丸まった状態のまま眠り続けた。劣悪な状態で発見された「幻の大作」は、フランスの最高の専門家たちからなる大規模な修復プロジェクトによってよみがえり、その過程もパネルによって説明されている。

そのほか、第二章では、「構図」「争闘」シリーズと一緒に発見された「馬とライオン」も出品、これは修復を終えたばかりで今回が世界初公開となる。また、屏風に水彩と墨で描かれた「猫」は東京展のみで出品される作品で、「争闘」シリーズの人間が猫に置き換えたかのように、二十数匹の猫がさまざまな動きを見せている。

第三章 アトリエを再現

1931年に帰国後、フジタは従軍画家として戦争画を制作。日本を愛したフジタが描いた作品は決して戦争を美化させるものではなかったが、終戦後、ほかの画家たちの生贄になる形で戦争責任を問われ、非難された。フジタは「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」と言葉を残して、渡仏。フランスに帰化し、その後、カトリックに改宗、レオナール・フジタという名に改名した。

フジタは晩年、パリ郊外のエソンヌ県の小さな村にアトリエを構え、夫人とともに穏やかな日々を過ごした。フジタの死後、このアトリエは、現在はエソンヌ県によって保存され、「メゾン=アトリエ・フジタ」として公開されている。第三章では、「メゾン=アトリエ・フジタ」で保存されている家具や小物、食器などを公開し、アトリエを再現、この時期に描かれた作品とともに展示される。

フレスコ画の習作が壁に描かれたアトリエ・フジタの室内

若い頃に描かれた、官能的な裸婦や激しい感情をあらわにした人物像とは全く異なり、このアトリエで生まれた作品は、穏やかなやさしさに包まれている。フジタは家の周辺に住む子どもたちとも交流し、「自分には子どもがいないが、絵の中の子どもが、私にとっては本物の子どものようなものだ」と子どもたちを描いた作品を多く残している。

第四章 ランスの聖堂「シャペル・フジタ」

フジタが最晩年、最後の作品として命を削るように制作した「平和の聖母礼拝堂」。シャンパーニュ地方の中心都市ランスの街の喧騒から離れた静かな土地に作られたこの聖堂は「シャペル・フジタ」の別名を持ち、カトリックに改宗したフジタによる礼拝堂の建設の夢を実現させたもので、壁画、ステンドグラスなど細かい部分までフジタが手掛けている。第四章では、壁画やステンドグラスの下絵、聖堂の模型のほか、聖堂の内部やステンドグラスの制作風景を説明する映像が展示され、「シャペル・フジタ」の全貌に迫る。

ランス「平和の聖母礼拝堂」外観

聖堂の建築家との間の詳細な手紙のやりとりも展示される

カトリックに改宗したフジタが描いた宗教画も多数展示される

「シャペル・フジタ」のステンドグラスの下絵

フジタが実際に使っていた小物も展示。フジタは自分が使う道具に美しい装飾を施していた

(c)Kimiyo Foujita & SPDA, Tokyo, 2008

■没後40年 レオナール・フジタ展
会場 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
鑑賞料 一般 1400円(当日) 1200円(前売り)
大学生 1200円(当日) 1000円(前売り)
中高生 700円(当日) 500円(前売り)
会期 2008年11月15日(土)~2009年1月18日(日) ※第2、第4金曜日 午後6時からギャラリートークあり
開館時間 10:00~18:00(金曜日は~20:00、入館は閉館の30分前まで、会期中無休)
アクセス JR上野駅・公園口より徒歩3分、地下鉄銀座線・日比谷線上野駅、京成上野駅より徒歩5分
主催 産経新聞社、フジテレビジョン、日本美術協会・上野の森美術館