【レポート】
アナログ放送を止めて地上デジタル放送に完全移行する予定の2011年7月まで、あと1,000日を切った。しかし地上デジタル対応受信機(ケーブルテレビ・チューナー・PCを含む)は、11月末で4,369万台(デジタル放送推進協会調べ)と、全国に1億3,000万台あると推定されるテレビの3分の1だ。
これまでの販売実績は年間1,200万台程度だから、駆け込み需要を見込んで、あと2年10カ月で地デジ対応テレビが4,000万台売れるとしても、2011年7月の段階で約8,400万台で、4,000万台以上残る。
この状態で、アナログ放送を"強制終了"できるのだろうか。アナログ免許を暫定的に延長して2011年以降も放送をしばらく続ける案が浮上しているが、これだと放送局はアナログ・デジタル両方の放送を続けなければならない。
12月1日に鳩山邦夫総務相は地デジ推進全国会議の式典で「完全移行が延期となった場合は、国が責任をとって地方局の経営を支援するしかない」と語った。
しかし実は、民放が恐れているのは予定どおり停波することだ。2011年に残る4,000万台以上のテレビが全て放送を受信できなくなると、30%以上のテレビが映らなくなる。これによって広告単価が3割以上下がると、ただでさえ経営危機に直面している地方民放の中には、経営が立ち行かなくなる局が当然出てくるだろう。一足先に2006年にアナログ停波を決めていた米国は、デジタル放送の普及が進まないため、2009年まで延長した。
米国では、残る600万世帯を全てデジタルに移行させるため、FCC(連邦通信委員会)のウェブサイトでコンバーター(変換器)を買う80ドルのクーポンを配布している。4億8,000万ドル(約430億円)にのぼる経費は、すべて周波数オークションによってまかなう。
しかし日本ではオークションを行なわないので、経費はすべて税金から支出しなければならない。これは最終的には、携帯電話利用者の払う電波利用料から支出される予定だ。
総務省は来年度以降3年間で2,000億円の「地デジ移行対策費」を要求しているが、ここでデジタルチューナーを配る対象にしているのは、生活保護を受けている120万世帯だけだ。それをNHKの受信料を免除されている世帯に拡大することも検討されているが、それでもたかだか200万世帯。残る3,800万台が粗大ゴミになる。
最後に残るのは、高齢者や年金生活者などの「社会的弱者」で、テレビが災害情報などを得るライフラインになっている。その人々のテレビを、政府が無理やり映らないようにする政策が支持されるだろうか。国会で野党に「地デジは格差を拡大する」と追及されたら、とても政治的にもたないのではないか。
今年7月に行なった情報通信政策フォーラム(ICPF)のシンポジウムで、総務省 地上放送課長の吉田博史氏は「現在2,000の中継局で93%の世帯をカバーできているが、全国カバーするにはあと9,500局建てる必要がある」と語った。
テレビの中継局は、1基数千万円から1億円する。わずか7%の世帯のために9,500局も建てるという計画は、およそ費用対効果を考えないものだ。しかもそのコストの一部は、税金で補助される。
それでも「最後は30~40万世帯が残るので通信衛星(CS)でカバーする」という。それなら最初から、残りの7%も全てCSでやってはどうなのか。CSのカバー率は全国100%なので、ユニバーサル・サービスの問題も解消する。どうせCSで同時放送のチャンネルを借りるなら、40万世帯のために放送するより7%(350万世帯)に放送したほうが効率がいい。
しかし、それはできない。そんなことを言い出したら、地デジそのものが否定されてしまうからだ。「デジタル化は地上波ではなく衛星でやれば200億円ですむ」という意見は、旧郵政省にも強かった。
しかし在京キー局から全国に放送されると、それを中継するだけでもうけてきた地方民放の経営が成り立たなくなるから、わざわざ1兆円以上かけて地上波でデジタル化を行なったのだ。
地デジは、既存のテレビ局がアナログと同じ番組を流すだけで、内容は変わらない。「デジタルハイビジョン」も、ほとんどの視聴者には画質の違いがわからない。多くの視聴者が「何のために地デジにするのか」と疑問をもつのは当然だ。要するに、地デジというのは地方民放の電波利権を守るための放送なのである。
最大の被害者は民放だ。地デジの放送内容はアナログと同じなので、広告収入は全く増えない(減っている)。収入増がゼロで、経費が1兆円かかる赤字プロジェクトなので、銀行も融資しない。
おかげで民放連127社のうち、今年3月期決算で30社が赤字になり、9月中間期では日本テレビとテレビ東京も赤字になった。これからますます赤字が拡大して、テレビ局の没落が始まるだろう。自業自得である。
これは日本だけではない。どこの国でも放送局は政治家との結びつきが強いため、電波利権を守って新規参入を妨害するためにロビー活動を行ない、彼らの利権を守ろうとする政治家が電波行政に介入して、非効率な電波利用が続けられてきた。その行き詰まりが、今回の危機となって表面化したのである。
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