【レポート】
11月20日に発売が予定されているトヨタの新型車「iQ」。特長は、全長2,985mmという短いボディに大人3人と子ども1人が乗れる高効率なパッケージだ。このプレミアムコンパクトカーは、大きさやパワフルさを追求して進化してきたクルマとは逆に、小ささと高い安全性能や走行性能をコンセプトとして誕生した。そのため、業界では今後の自動車市場の行方を占う重要なモデルと位置づけられている。そんなiQの開発において、クルマとしてのクオリティを高める重要な要素として、初期段階から目標値を決められていたのが環境性能だ。ここでは、燃費21km/L(10・15モードでは23km/L)を達成するために、小さなボディに込められた工夫の数々を紹介する。
そもそもiQ発表の背景には、導入が間近に迫った欧州のCO2排出規制がある。この規制をクリアするには、自動車メーカーは、販売したクルマが1km走行あたりで排出するCO2を、平均140g以下に抑えなければならない。そこで、販売台数に占めるコンパクトカーの比率を上げる必要が生じたのだ。
トヨタはすでに、iQと同等の環境性能を持つコンパクトカーであるヴィッツを「ヤリス」の欧州名で販売している。従って、コンパクトカーの出荷台数を純増させるための新型車は、ヤリスや同等クラスの「アイゴ」の主要顧客であるファミリー層以外に売れるものでなければならない。このような事情を満たすため、トヨタが目をつけたのが、ファッションや持ち物で自己表現するこだわり層だった。iQは、厳しい選択眼を持つ顧客に受け入れられるべく、タイヤ最小回転半径3.9mという小回りや、左右シート間の近すぎないクリアランス、9つのエアバッグを搭載した安全性など、あらゆる面で高級さを感じられるクルマへ目指したという。そのこだわりは、乗員数4人、全長3m以下、タイヤ最小回転半径4m以下、燃費23キロ(10・15モード)という明確な数値目標に表れていた。もちろん、"見た目"も例外ではなく、「既存のどのクルマにも似ていないデザイン」を追及して開発が進められたという。
そうして、自然界の動植物にインスピレーションを受けたという個性的なボディデザインが完成したわけだが、そこには、空気抵抗を下げるための工夫も施されている。iQとパッソ、ヴィッツのエンジンは、ともにダイハツ製。このうちヴィッツは、アイドリング時にエンジンを切る「エコラン」機能を備え、10・15モードで24km/Lという燃費を実現している。一方、iQはコスト増などを嫌って割愛したようで、エコランを搭載していない。にもかかわらず、iQの燃費は10・15モードで23キロ。この数値を実現するために、ボディのエアロダイナミクスにはかなり力を入れたようだ。
車体の短いクルマは、空気が沿って流れる距離が短いため、車体後部で空気が乱れやすい。この乱れを整えているのがリヤピラーに装着したフィンだ。また、車体内部で乱れる空気を減らすため、フロントグリルをタイトにしている。さらに、床下をフラットにするアンダーカバーを備え、タイヤハウスには空気を横ではなく上に流す形状を採用。また、転がり抵抗を低減しつつ、グリップの良いタイヤとして、ブリヂストンの「エコピア」が採用されている。iQ用にチューニングされたモデル(EP25)だ。「メーカーさんにもかなり頑張ってもらいました」という言葉の奥に、燃費目標に向かって積み上げられた努力が透けて見えた。
さて、JC08モードは10・15モードと比較し、実走行に近い計測方法だとされているが、ドライバーが急発進/急ブレーキを繰り返せば看板どおりの燃費で走ることはできない。そこで、ドライバーの運転をエコドライブに導くエコモードスイッチが用意されており、ONにすると空調とアクセル操作による駆動力を最適に制御し、ゆるやかな加速を行う。このほか、インパネにはエコドライブインジケーターが用意され、エコ運転の範囲と現状のアクセル開度を表示。エコ運転の範囲内に収まっている間はエコマークが点灯し、能動的なエコドライブもサポートする。
また、トヨタは、Eco-VASという独自の環境評価システムを、2005年開発スタート車種から本格的に導入している。これは、クルマの車両開発責任者が、企画段階でLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方を踏まえた環境目標値を設定、全開発プロセスを通じて目標達成状況をフォローするマネジメントシステムだ。Eco-VASに則った開発により、iQ のLCAでは、CO2排出量が従来車種よりも少ないという結果が出ている。原材料の生産から製品の廃棄・リサイクルにいたるまでの、自社が関わる生産・消費行動が地球環境に与える負荷をトータルに評価し、公表するあたりにも、トヨタの環境問題に向き合う真摯な姿勢が表れている。LCAは、「少しでも環境負荷の少ないクルマが欲しい」と考える消費者にとって重要な指標と言えそうだ。
ところで、890kgという軽さや高効率なパッケージが象徴するiQのアイデンティティは、燃費向上に寄与するだけでなく、省資源性も高くエコ的だ。そうなってくると、iQをベースにしたハイブリッドやEVなどの代替エネルギー車の登場を期待してしまう。この点についてトヨタ自動車 トヨタ第2乗用車センター 製品企画 主幹の池本浩之氏は、筆者の気の早い問いに大きくうなずきながら、「5年ほど前に『パッケージ効率を上げる』というテーマで検討が始まり、今回iQとして世に出すことができた。具体的なことはまだ何も決まっていないが、この性能を生かした開発を進めていく」と展望を語ってくれた。業界でも大きな注目を集めるiQ。売れ行きや購買層はもちろんのこと、高い環境性能を持つクルマとしてどんな進化を遂げていくのか、楽しみなところだ。
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