英Symbianが10月21日と22日、英ロンドンで開催した展示会「Smartphone Show 2008」では「開発」に大きなスポットがあたった。2日目の基調講演では、フィンランドNokiaのQt Software部門でCTOを務めるBenoit Schillings氏が、Symbianとクロスプラットフォーム開発フレームワーク「Qt」の組み合わせがもたらすメリットについて説明した。

Benoit Schillings氏

Qt Softwareは、Nokiaが今年6月に買収完了したノルウェーTrolltechの事業部だ。Nokiaは10月20日、QtをS60向けにポーティングしたフレームワーク「Qt for S60」を発表している。

Schillings氏はまず、Qtについて紹介する。QtはC++アプリケーション開発フレームワークで、90年代にスタートした。開発者は1度開発したアプリケーションをWindows、Windows CE、Windows Mobile、Mac、Linux、組み込みLinuxなどで動かすことができる。「携帯電話、カーナビゲーション、Google Earthなどで利用されており、大きなコミュニティを持つオープンソースプロジェクトだ」、とSchillings氏は言う。S60のポーティングにより、S60が加わることになる。Nokiaは発表時、S60プラットフォームに直感的なC++開発ツールを提供し、Qt開発者は8,000万台のS60端末にアクセスできる、と述べている。

「Qtはプログラミングという観点から共通の特徴を見出し、組み込み端末、携帯電話、PCなどさまざまな端末で一貫性のあるアプリケーションを開発できる。開発作業、開発工期を効果的に経済的にするものだ」とSchillings氏はまとめる。そして、Qtの将来性をゆるぎないものと述べる。

Qt on Symbian OS - Qt開発者は膨大な数のS60端末にアクセスできる

では、QtとSymbianが合体するとどのようなメリットがあるのだろうか?

最初に挙げたのは、ソフトウェアのスケールだ。端末ごとに開発作業を繰り返す手間が省略できる。「良いツールは開発者を助ける」とSchillings氏。

次にSchillings氏は、ハードウェアの活用を挙げる。ハードウェアが提供する機能を活用するアプローチがソフトウェアには必要だ。これがないとリソースを無駄にすることになる。その一例といえるのが、マルチプロセッサだ。Symbianは対称型マルチプロセッササポート「SMP」を発表しており、プロセッサをオンザフライでスイッチングするなどのことを実現する。マルチプロセッサは重要なハードウェア側の進化であり、この技術を活用できなければ、イノベーションの連鎖をとめてしまう、とSchillings氏は言う。

ハードウェアではまた、バッテリ持続時間にも触れた。携帯電話にとっては、古く大きな課題だ。「効率よく電源管理を行うカーネルがあり、最適化されたフレームがあり、C++を利用すれば、改善は可能」とSchillings氏は述べた。

次に挙げたのが、インプットデバイスだ。アプリケーションのエクスペリエンスを活用するインプットは急速に進化している。Symbianはインプットデバイスでも開発を進めていおり、タッチ、キー入力と活用するアプリケーションを開発する必要がある。Qtでは、画面、センサー、インプットデバイスを抽象化するフレームワークを提供できるとSchillings氏。

Schillings氏は最後に、柔軟性のあるユーザーエクスペリエンスの作成を持ち出す。デバイスで何ができるのかをユーザーに伝えることは、あたりまえだがなかなか難しい課題だ。「ユニバーサルツールは存在しない」とSchillings氏。JavaとFlashなどの異なるツールを統合する補完的ツールが必要で、Symbianはツールを統合できるという。

「コンテンツ、機能、アプリケーション、オンライン、オフラインの境があいまいになってきた」とSchillings氏。Symbianはセキュリティ、アプリケーションライフサイクルなどの課題に取り組んでおり、Qtが組み合わさることで、アプリケーションの利用という観点からユーザーエクスペリエンスの課題を解決できるとした。

最後にSchillings氏は、Qtが持つオープンソース分野のノウハウを強調する。「2人の創業者はオープンソースコミュニティと作業することでは先駆者的存在。品質を組み合わせるのに最適な分野を見抜くことができる」。オープンソースの大きなメリットが開発者のフィードバックだ。毎日リリースしているというQtは、品質を常に改善できるとSchillings氏は説明する。「1社ですべてはできない」とSchillings氏。

Symbianは来年前半にもSymbian Foundationとなり、最終的にオープンソースとしてソースコードを公開する計画を発表している。「QtとSymbianの組み合わせで、単なるC++ではない包括的な言語セット、Java、Python、Cライブラリなどさまざまな技術を利用できる」と開発者にアピールした。

「Qt for S60」の技術プレビュー版は、Qt SoftwareのWebサイトよりダウンロードできる。