パソコンディスプレーに表示されている色彩を、そのままスクリーンに再現できるプロジェクターを作りたい。カシオ開発者のそんな熱き思いが、スーパースリムプロジェクターの最新モデル「アクトビジョンSS」として結晶した。"世界最薄"と銘打たれた小さなボディーで、パソコン画面と色の違いがわからないほどリアルな画像を投影できる。この素晴らしいプロジェクターは、いかにして誕生したのか。カシオの頭脳部ともいうべき羽村技術センターを訪ね、開発者の方々からアクトビジョンSSの誕生秘話を聞いた。

スーパースリムを実現した3つの基幹技術

会議室に通されると、プロジェクター開発を指揮する開発本部 PJ部 第2開発室の西浦房夫室長と、最終的な色合いを決定した"色彩のスペシャリスト"である同開発室、尾田潔氏に迎えられた。デスク上には、同社のスーパースリムプロジェクターが2台、すでにセッティング済みだ。見たところまったく同じ外観の2台だが、一台がパソコン画面の色彩をナチュラルに投影するアクトビジョンSSらしい。その一台で資料を投影しながら、お二人の説明が始まった。

──一見したところ、外観はこれまでのスーパースリムプロジェクターとまったく同じで区別がつきませんね。

プロジェクター開発を指揮する西浦室長

西浦房夫(以下、西浦)「カシオでは2006年に、高輝度でありながら薄型を実現したスーパースリムプロジェクターを立ち上げました。その時の基幹技術が3つあります。第一に、『光学系の薄型化』。その秘密は、ひとつの筒の中でレンズが前後する『リードスクリュー方式』にあります。しかも、データプロジェクターとしては最高倍率の2倍ズームレンズとなっています。

二番目が『光源の薄型化』です。ランプの光を反射するリフレクターの上下をカットして薄くしました。薄くした分、光が暗くなるので、円環レンズで光を収斂して光源の明るさが落ちないようにしています。そして三番目が『冷却構造』です。従来は5個の軸流ファンを使っていましたが、大きなシロッコファン一個で給排気してランプを冷す構造に変え、さらにファンの配置を従来の縦置きから横置きに変えることで、薄型化を実現しました。この3つの技術で実現した薄さに、他社は追随できないと思っています」

──技術が高度になれば、構造が複雑になって、その分大きくなると思いますが。

西浦「2006年に初めて発売したスーパースリムプロジェクターの輝度は、2,000ルーメンでした。さらに明るい2,500ルーメンモデルを2007年に追加し、今年の新製品では輝度2,300/2,700/3,000ルーメンから選べるようにしました。このラインアップとは別に、新たに高演色モデルとして開発したのが『アクトビジョンSS』で、『XJ-SC210』とその上位モデルでUSBホスト搭載の『XJ-SC215』という2,500ルーメンの2モデルを用意しました。

スーパースリムプロジェクターとしての基幹技術は基本的に同じですが、その中でランプの輝度アップや輝度が上がることで上昇する熱の冷却などの技術をさらに進歩させることで、同じ大きさでパソコンディスプレーと同等のクオリティを持つ画像を投影できるようにしたのです」

「XJ-SC215」。本体サイズは270(W)×43(H/最薄部32)×199(D)mm(突起部除く)で、重さは1.8kg

──スーパースリムプロジェクターにはこれまでにない拡張性があり、さまざまな可能性がありますね。

西浦「まず、"PCレスプレゼン"ができます。これは、プレゼンテーションソフト・表計算ソフト・PDFなどのデータを、プロジェクターに付属するソフトでJPEGに変換してUSBメモリーの中に入れておけば、そのUSBメモリーをプロジェクターに挿すだけでデータを投影できるというものです。USBメモリーにAVI形式の動画ファイル(MPEG-4準拠/Motion JPEG)などを入れておけば、動画も投影できます。つまりパソコンがなくても、プロジェクターとUSBメモリーだけを持っていけばプレゼンが可能です。"ワイヤレスPCプレゼン"も実現しました。USBスロットに無線アダプターを挿すと、パソコン画面をプロジェクターに投影できます。ワイヤレス接続で、プロジェクターとパソコンをケーブルでつないだり片付けたりする手間を省きました。最大で4台のパソコンをマルチ接続できます。

その他にも、カシオの書画カメラ『YC-430』をつなげば、データ化されていない書類や立体物をダイレクトに投影することができます。こうした性能はそのままに、さらにパソコンと同じ色で投影することを目標に開発を進めたのが、アクトビジョンSS なのです」……続きを読む