「コンテンツ大国」を目指し、デジタルコンテンツ流通促進のための法制度の議論が進む中、ネットでの流通に限り著作権者の権利を制限する「ネット法」が大きな関心を呼んでいる。だがこれに対しては、総務省の中間答申で情報通信審議会が反対の姿勢を示すなど、異論も多い。日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏に、権利者側の意見をうかがった。

「ネット法推進者らは新たなビジョンを示していない」と語る日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏

「ネットで稼げるビジョン」の提示必要


――ネット法が議論になっていますが、デジタルコンテンツの流通促進のためには何が必要とお考えですか?

ネット法では、著作権者の権利を制限するとしていますが、人の権利を制限することでデジタルコンテンツの流通が促進できるというのは違うと思います。

コンテンツホルダーはこれまで、テレビ、DVD、CS放送などの各ウィンドウで利益を得てきたわけですが、ネットが利益を得られるウィンドウであるとコンテンツホルダーが思わない限り、ネットでのコンテンツ流通は進みません。

通信キャリアなどがデジタルコンテンツを流したいのに流れないのは、ネットで利益が得られるビジョンを示していないからです。

現在の状況では、ネット配信は単価が安く、既存のメディアに比べて利益は大きくありません。まず、ネットでも稼げるというビジョンを示すべきではないでしょうか?

――確かに、ネット配信で利益を得るためのビジョンはまだ示されているとは言えない状態です。

デジタルコンテンツの流通でもう一つ考えなくてはならないのが、「コンテンツホルダーは何をしているのか」ということです。

ご存知のようにJASRACでは、著作権者から管理を委託された楽曲の使用を許諾し、それによって使用料を得ています。いわゆる「権利ビジネス」を行っています。

しかし、映像の世界ではどうでしょうか? コンテンツホルダーが直接権利を握っていて、権利を集中的に管理している団体はありません。

音楽も映像もそうですが、一部の売れ筋のブランドコンテンツ以外は、ライセンスによって地道に収入を得るしかありません。"動かしてナンボ"の世界です。

もし「映像版のJASRAC」のような団体があれば、ブランドコンテンツ以外でも収入を得ることが可能になります。

実は、ネット法を提唱する団体のメンバーでいらっしゃる、角川ホールディングス会長の角川歴彦氏も、以前「映像の権利の管理事業者をつくればいいのではないか」とおっしゃっていました。

これには高いハードルが存在していますが、文芸、シナリオ、実演家、レコードなどの管理事業者と連携する形で、映像の管理事業者ができれば状況は全く違ってきます。

さらに、こうした事業者間でガイドラインなどを作ることで、管理事業者が映像のライセンスを出していくことができるのではないでしょうか?

――著作権処理をしやすくするための映像管理事業者や、管理事業者間のガイドラインをつくってはどうかということですね。

「デジタルコンテンツの流通がうまくいかないのは権利者が邪魔をするからだ」という考えがネット法の前提のようですが、その根拠が具体的に示されたことはありません。

コンテンツホルダーはビジネスを行っているわけですから、ネットでのコンテンツ価格が現在のように"タダ"のような状況では、ネット配信することが既存のウィンドウ・市場に悪影響を及ぼすことを懸念してしまうのです。

実際、韓国では軍事上の理由でネットの整備が早くから行われてきましたが、そのことにより、無料で漫画のネット配信が行われるようになりました。その結果、漫画や劇画などが壊滅的な打撃を受けたと聞いています(※)。

※編集部注 韓国ではインターネットの普及に伴い、違法・合法問わず動画や音楽などのネット配信が進み、DVDやCDの売れ行きが減少する傾向が強まっている。漫画も同様で、有料コンテンツの配信ビジネスが進む一方、違法にスキャンされた漫画もネット上で出回り、漫画の製作現場に打撃を与えるという現象が起きている。

こうした韓国の実態を先例として考える必要があるのではないでしょうか。