なをき「里中満智子先生がお書きになった『マンガ入門』、これ、私がマンガの仕事をし始めたころ読んで、メチャクチャ感動した本なんですよ」

よしこ「石ノ森先生の本のような爆発的ヒットはしていないと思うので、知らない人も多いかもしれませんが、すごくいい本!」

里中満智子先生の『マンガ入門』

なをき「これ、単なる"マンガ入門"じゃなくてですね、"マンガ家として、どう生きるべきか"みたいなところまで突っ込んだ、かなり深い本なんですね」

よしこ「"マンガの描き方"なんで、当然、"インクやペンは、こういうモノを使いましょう"という定番のお道具指南から入ってますけどね」

なをき「"アシスタントの使い方"、"新人賞に応募するのなら、賞金よりも自分の好みの雑誌を選ぼう"、"いいテーマを大事にとっておいては、チャンスはつかめない"ですとか、そういう、心構えの問題まで教えてくれるという」

――ずいぶんと立派な教訓が並んでますね。

なをき「これは、姿勢を正しますね。ここまでちゃんと"マンガ家としてやっていこう"と思わなければ続けられないんだ、そういうシビアな世界なんだ、というのがひしひしと分かって」

よしこ「里中先生ご自身がデビューするまではどうだったかというお話も書かれていて、高校を中退して"マンガ一本で"と決意されたあたりとか、投稿作品を描いたときの話とかにも感動するんですよ」

なをき「"担当編集者を説得できなければ、読者は説得できない"とか、"顔がかわいい娘はホントにデビューしやすいのか"とか(笑)。そういう皆さんのなかなか人に聞けない疑問にまでちゃんと答えているのよ。"原稿料はどのくらいが相場であるか"とか、"印税収入は、新人もベテランも差がない"とか(笑)」

よしこ「"単行本が売れれば、印税はたくさん入ってきます。でも、それは後から税金で取られちゃいますから、使っちゃダメですよ。2/3は貯金しておかなければいけません。後から税務署が来ます"と。そんなアドバイスまで(笑)」

なをき「税金の話までしてくれているマンガのハウツー本って、知ってる限りほかにないですからね(笑)。ありそうでなかった貴重な本だと思います。さすがは里中先生だ」

――マンガ家という職業を成立させるための心得なんですね。

なをき「あと、里中先生が"スランプで苦しんだとき、どういうふうに克服したか"とか、そういうところまで突っ込んで書かれているんだよ。もう、本当に感心した。もっと多くの人に読んでもらいたいですね、この本」

よしこ「プロになってからも読み返して、"ああ、こういう姿勢でマンガを描こう"と思い直す一冊ですね」

――もう、身の引き締まるものがあると。

よしこ「すばらしい本だと思います。あと、女性ならではの視点というか、結婚しちゃうとやっぱりマンガが描きにくくなったりするけれど、そういうときは"女性は男性より強いのだから、マンガと家事が両立できるのだと考えて、マンガを描き続けましょう"なんてお言葉があって、すごく励まされますよ」

――もはや、『マンガ入門』というより、職業婦人として生き残るすべ、みたいな域にまで達してますね。

よしこ「時代的には、レディスコミックがすごく売れ始めたころに出された本らしいです。少女マンガ描いてた人がレディスコミックを描くようになって、"主婦になった人でも描ける"とエールを送りたかったのかも」