Atta texana leafcutting ant colony: a view underground~アリの巣に一人称視点で潜ろう

人間に身近な昆虫「アリ」。アリの巣を見たことがある人は多いと思うが、それはアリの巣の出入り口を見ただけに過ぎない。アリの巣の中を見たことがある人はあまりいない。昆虫学者でさえ、アリの一人称視点でアリの巣に入ったことのある人はまずいないはずだ。

Texas A&M大学の研究グループは、このアリの巣の3Dグラフィックスレンダリングを行い、これに一人称視点で入り込むバーチャルリアリティシステムを開発した。

このシステムで再現されるアリの巣は実在するもの。

地球物理屋地質学の研究で用いられる、放射した電磁波の反射特性を分析することで、地中の構造を破壊せずに計測する「地下貫通型レーダー」(GPR:Ground Penetrating Radar)と呼ばれるシステムを用い、実在のアリの巣の構造をデータ化している。

ただし、そのデータは地中の密度分布を示した値なので、可視化はボリュームレンダリングのメソッドを用いるのが一般的だ。ボリュームレンダリングは不連続なデータなので、このシステムでは、これをポリゴン化し、さらにテクスチャマップを適用して3Dゲームのダンジョンマップのような見た目に再構築する。

映像は赤青メガネで立体視も可能

Wiiリモコンで、アリになってアリの巣を探検できる

展示システムではWiiリモコンを用い、この可視化したアリの巣にバーチャルリアリティ、というかゲーム感覚で潜ることが出来るようになっていた。なお、Wiiリモコンを使っているが、Wii本体を使っているのではなく、システムはPCベースで動作している。WiiリモコンはBluetoothベースなので、有志で作られたPC用ドライバを用いて入力デバイスとして利用しているだけだ。

映像は前方一面、左右の側面を2面で被験者を取り囲むように表示され、トータル5画面のサラウンドビューシステムになっていた。ちなみに、この映像表示システムは、同研究グループが開発した低コストな大画面サラウンドビューシステムで、実は仕組みはシンプル。プロジェクタを一度、鏡で反射させて投射距離を稼ぎ、大画面にして投射する普通のリアプロジェクションシステムだ。

5面のサラウンドビューシステムを採用

この5面サラウンドビューシステムは、備え付けられた5台のプロジェクタをミラーに反射させてリア投影することで実現されている

この研究は、アリの巣の研究だけでなく、MRIデータなども同様のアプローチで可視化すれば医療においても有効だと担当者は主張する。たとえば、人体内部の疾患を一人称視点で見ることで、患部の構造や位置関係を通常のボリュームレンダリングよりも立体的に把握できるし、あるいは切開しないで器具を挿入して行う手術などのシミュレーションにも役に立つだろう。