Origami Optics~光を折り曲げて作る高解像平面レンズ

凸レンズや凹レンズを組み合わせて作るレンズは光を透過させるために経路分の厚みが必要になる。だからズームレンズはニョキニョキっと伸びて最大ズーム時はタケノコのように長くなる。また、レンズを透過する際に光路が歪んだり、色収差(光が波長ごとに分光して色が分かれてしまう現象)も発生するため、最終的に得られる映像には光学的なロスやノイズが乗ることになる。

この問題に対してユニークなアプローチの新しい撮影レンズを提唱したのがカリフォルニア大学とDistant Focus社の共同研究で生まれた「Origami Optics」だ。

Origami Opticsはガラス円盤の裏表に同心円状に鏡を配置した構造をしており、同心円状の開口部から光を取り入れてその光を表裏の鏡に反射させて集光していく。最終的に集光した光はCCDやCMOSなどのイメージセンサーに集められ、撮影が成されるという仕組み。Origami OpticsのOrigamiとはこの「光を折り込んで小さくまとめる」というメカニズムから来たネーミングだ。

通常のレンズ光学系と比較して劇的に厚みを薄くできるのが第一の利点。ブースで展示されていたデモ機のOrigami Opticsの試作機の厚みはわずか約5mmという薄さ。

Origami Opticsの動作概念図

Origami Opticsのプロトタイプ群。ブースでの実演は右下のものを使用していた

そして凹凸レンズを組み合わせて作るレンズよりも焦点距離を短くできるのも利点だ。試作機の焦点距離はわずかに19mmだ。

そして最大の利点は映像の解像力がとても高いと言うこと。レンズに光を透過させずに反射させる光学系であるために光量損失が少なく色収差がほとんど起きない。つまり明るい高拡大率のレンズが形成できることになる。

試作機の画角は17°、35mm換算だと135mm程度の焦点距離に相当し、F値は1.15と非常に明るい。

ブースではこの試作機を用いて3メートルほど離れたテストパターンを撮影し、その映像の画質の違いを見せるデモを披露。比較対象として用意されたのは厚み9.4mmの焦点距離6mm、F値2.8のロープロファイルレンズと、厚み24.3mm、焦点距離16mm、F値1.2の長焦点の高解像レンズの2つ。本稿の写真だとなかなかその違いを実感してもらうのは難しいが、Origami Optics試作機は高解像レンズと同等以上の解像力と明るい映像を得られていた。

ブースでのデモの様子

左が安価なロープロファイルレンズ、真ん中が高解像レンズ、右がOrigami Optics試作機

高拡大率にしても高解像度の映像が明るく得られ、なおかつボディを薄くできるために監視カメラなどの用途が向いているとされるが、ターゲット製品としてはコンパクトデジカメ、携帯電話などへの組み込みも視野に入れて開発しているとのこと。Origami Opticsはコンピュータのレイトレーシングシミュレーションによって設計されるため、焦点距離や画角、そして映像の導き先である撮像素子のサイズは任意のものが設定可能だ。

現状での弱点は、焦点距離と画角が固定となってしまうため、いわゆるズームレンズを構成できないというところ。ただし、担当者によれば、「高精度に稼動させるアクチュエータを組み合わせることができれば、原理的にはズームレンズを構成することは可能だ」とのことで、次なる開発テーマはそちらに向いているようだ。

とはいえ、高倍率映像を明るく捉えられるという絶対的な特徴はあるので、固定焦点タイプでもニーズは高いはず。実際のカメラ製品への採用に期待が掛かるところだ。

安価なロープロファイルレンズの映像

高解像レンズの映像

Origami Optics試作機の映像