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【レポート】SIGGRAPH 2008 - NEW TECH DEMO展示セクションレポート(前編)

Two-Dimensional Communication~マイクロ波で非接触通信! マイクロ波を非接触電源に!

有線通信は信号が線上をいったり来たりするので一次元通信。電波の通信は信号が立体的に伝搬するので三次元通信。この一次元と三次元の間……すなわち平面に伝搬する二次元通信を開発したのが東京大学 大学院情報理工学系研究科 篠田研究室だ。その名もズバリ「Two-Dimensional Communication」(2DC)という。

二次元的に信号を送るとなると配線を格子状に……と想像した人はちょっと惜しい。

2DCで用いるのは2.4GHz帯のマイクロ波。2.4GHzのマイクロ波といえば電子レンジと同じでちょっと怖い気もするが、まぁ、無線LANの電波も同じといえば同じ。

さて、この2.4GHzマイクロ波をどうするのかといえば、東大篠田研が開発したマイクロ波を平面に閉じこめることが出来る特殊な「2DCシート」を用いて、このシート内全域にマイクロ波を伝搬することで通信を行うというのだ。

2DCシートは3層からなっており、下から金属層、発砲体の絶縁層、最上部が金属の網目のメッシュ層という内訳になっている。この構造によりマイクロ波はメッシュを伝わるが直上には消散してしまう効果が得られ、2DCシートを触っても別に害はない。そして、2DCシートを伝搬しているマイクロ波を信号として獲得するためには、その消散するマイクロ波をプローブから拾って電気に変換する。

マイクロ波を平面に閉じこめられる2DCシート。最上面は上層の金属メッシュが見える

布状の2DCシート。ランチョンマットみたいに簡単におり曲がる

2DCシートは堅い板状にも出来るし、布状にも出来るため、堅い板状の2DCシートならば机やテーブルの天板のように使うことも出来るし、布状の2DCシートならば曲面に貼り付けることも出来る。服のようにしてウェラブルコンピュータ的な用途にも使えることだろう。

伝送に用いるプロトコルは2.4GHz帯のBluetoothでも無線LANでも何でも構わない。ブースでは大きな横長の2DCシートの上に載せた2台のPCから、無線LAN信号をマイクロ波にして2DCシートへと伝搬し、これを送受する様を披露。2台のPCのうち一台から動画を送信し、もう片方のPCでそれを受信するデモを行っていた。

そう、PCにコードを接続するわけでもなく、2DCシートの上にPCを置くだけでデータ通信が出来るわけだ。無線LANと違い、電波が方々に飛ぶわけではないので電波を傍受されることがないし、混信もあり得ない。つまり通信のセキュリティや確実性は無線LANよりは圧倒的に高い。2DCシートを敷いた範囲内ではどこに端末を置いても通信できる自由度があるわけで、これは点と点を線で結ぶ有線通信よりも通信自由度が高いということでもある。

なお、2DCシートには10Wのマイクロ波を伝搬させており、これを電気信号に変換すると数百mWになる。この数百mWの電気信号はそのまま電流……すなわち電源として利用することも可能だ。ブースでは、この特性を活かして2DCシートから電流を取り出し、LEDを発光させたり、小型モーターファンを回すデモも行っていた。

マイクロ波発信器

マイクロ波から変換した電気信号を電力にも利用可能。デモでは電動ファンやLEDを駆動。何かに差し込むのではなく、テーブルに置くだけで電源が取れるという仕組みだ。すごい!

2台のPCで動画の送受信をデモンストレーション。左のPCからの映像データを無線LANプロトコルで2DCシートにマイクロ波伝搬させ、これを右側のPCで受信して再生

マイクロ波に乗せた音楽信号を受信して再生

基礎技術ができあがりつつあり、今後は実用化に向けての技術の洗練を行っていくことになる。マイクロ波を取り出して電気信号に変換するときの変換効率を向上させることが出来れば、出力の低いマイクロ波発信器でも通信が出来るようになるし、またマイクロ波を電流に変換する際の出力効率も向上できる。究極的にはノートPCを置くだけで充電も通信も出来るシステムに仕上がれば強力なソリューションとなりそうだ。