8月27日、インターネット先進ユーザーの会(MiAU)が主催する公開シンポジウム「Googleストリートビュー"問題"を考える」が開催された。「Googleストリートビュー」(以下、GSV)については、公開直後からインターネットを中心に「問題」の言葉が絡むようになっているが、本当にそれが問題なのか、なぜ問題になっているのかを考えてみる必要があるのではないか、ということがこのシンポジウムの背景となっている。

シンポジウムの会場となった建物を表示

登壇者は主婦連合会常任委員の河村真紀子氏、弁護士の壇俊光氏、専修大学准教授の山田健太氏、OpenTechPress主筆の八田真行氏、進行役として多摩大学情報社会学研究所RA中川譲氏の5名。

河村真紀子氏

壇俊光氏

山田健太氏

八田真行氏

中川譲氏

何が問題か? 今の日本と他国におけるGSV

まず議論の前提として、現在GSVにおいて"問題"とされていることについて、概要が述べられた。ひとつは肖像権・プライバシーについて。「公道から撮影している=違法ではない」というのがGoogle側の見解だが、公道から見えることが即ち肖像権・プライバシーの放棄ではないという意見がある。また、画像の削除に関するGoogle対応・体制、撮影する場所/しない場所の基準が明らかになっていない件、カメラの高さの件、犯罪幇助に使われる懸念などが挙げられた。

現在、GSVについて「問題」と言われていることとは

一方、諸外国での状況を見ると、最初にサービスを開始したアメリカではプライバシーを侵害されたとして訴訟が起こっている。カナダではサービスインしたものの法律に抵触する恐れがあるとして公開停止になり、フランスでは大通りや観光地など閲覧できる地域が限定された形で提供、イギリスでも批判的なスタンスだったが、自動認識によるぼかし加工等の取り組みにより提供開始に至ったという。

中川氏が会場の参加者に対してGSVに対する意見を聞くと「賛成・容認」が5割強、「留保付き賛成」が2割近いという状況だった。ディスカッションでは、既出の問題点や類似サービス、GSVの特殊性などについて登壇者がそれぞれの立場から意見を述べた。

今のWebの状況と「Googleストリートビュー」

河村氏は総務省の研究会に出席した折、Googleの担当者が「(日本では)表札を出しているのだから、プライバシー意識はないはずだ」と発言したことに対し、強い反感を持ったという。同氏は「法律はあまり出番がないと考えている。単に『写ってしまった』写真とは尺度の点で圧倒的な差があり、網羅性に対する危惧を感じる」と述べ、GSVは「ビューひとつの問題でなく、営利目的企業が、(その活動を)拒む術を持たない人の所に入り込むのが問題」とした。

対照的に一貫して「特に問題があると思っていない」という立場を取っていたのが八田氏。「明確なデメリットがないものは、容認されて良いのでは」と肯定する一方で、現在の形でサービスインしたGoogleの意志決定については「若干残念だ」。「塀があるということは、中を見て欲しくないという意思表示。Googleが工夫すれば、利便性を損なわずに改善はできた」と指摘した。

山田氏は法的な問題以外に「企業の姿勢も多少問題にする必要があるのでは」と、Googleの"表現"を扱ううえでの社会的責任に言及。サービスのメリット/デメリットの観点でなく「"公道から見えるならOK"とした考え方には疑問がある」「手間を掛ければ"問題"とされていることは解消できるはず」など、提供側の考え方の観点で意見を述べた。

壇氏は日本におけるプライバシー観について、かっては電話帳掲載や名簿販売が当たり前に行われていたが、「私的事項に対する意識はこの20年で大きく変わった」としたうえで、「今回の場合は機械的に撮ったというのがポイントで、どうすべきかのコンセンサスがない」と指摘。一方で「インターネットも、世に出たときは便利なのかすら明確でなかった。技術は動くことで可能性が出てくるから、全否定はしたくない」とも。

冒頭で会場参加者の多くがGSV賛成・容認の意志を示したことに「危機感を覚えた」という河村氏。その網羅性のために住所の持つ意味が変わってしまうことに懸念を示し、「ネットは自由であるべきだと思うが、それは"自由だから撮影して良い"ではなく、自主的に参加していくことが大切」と述べた。

八田氏はGSVに対する"気持ち悪い"という批判に対して「明治の人が写真を撮られると魂を抜かれると言うようなもの。明確なマイナスがわからない」、また「技術に対抗するなら技術でするべき」と反論した。

「Googleストリートビュー」に似た先行サービスは?

GSVに対し、既存の類似サービスとして採り上げられた「LOCATION VIEW」。同サービスでは人の目で見て車のナンバーや人の顔はボカしていることや、GSVより低い2m弱くらいの高さで撮影している。削除対応の窓口を(ネット以外にも)設けているものの、2年前のサービス開始から現在まで削除依頼は1件もないという。サービス的には似通っているが、批判が無かったのはその"気遣い"が理由なのか? とは中川氏の見解。

LOCATION VIEW」では、指定した区間を移動しながら表示

他にもiseemediaが提供する地下鉄の出口周りが見られるサービスや、EveryScape、またgooラボやALPS Labのサイトなどが挙げられたが、日本ではいずれも大きな問題にはなっていない。知名度の問題や、明確な目的のあるもの、またCGMの場合は掲載した人の責任であるなど、GSVとの差異が挙げられた。

東京メトロの「駅情報」で、各出口の様子が見られる

パノラマ映像で、疑似観光を楽しめる「EveryScape

Googleに情報が溜まっていく

GSVを含め、Googleに情報が集積されていくことに嫌悪感を持つ人も多い。これについて山田氏は、「集積されること自体は便利」だが、「Googleは、自分の基準が通用しないことも知らなくてはならない。自己完結型の基準で集積されてしまうと、多様性・文化のあり方が成熟しない」との危惧を示した。また、河村氏は「公開するつもりのない情報は集積されない」ことが望ましいとした。

これに絡んで「GSVよりも、自分がそれを見ていることがGoogleに筒抜けなことが気持ち悪い」(八田氏)という意見も。中川氏はこれまでのGoogleについて「これまではGoogleの掲げる理想像と違和感なく"良き情報社会"に向かっていると思えたが、GSVが出たときに、その方向性に疑問を持った」と、Googleが情報の独占に向かっているのではないかとする考えを示した。そう思いながらも「使うのをやめられない」ジレンマをどう考えるのかが課題だという。

Googleそのものについては?

ベクトルが「独占」に傾いている?

山田氏は、「(ネット上で)できる限り自由な活動が保証されるのが良いが、表現は一度傷つけると直りにくく、自由がなくなっていく」とし、今回のディスカッションについて「Googleストリートビューは単に『プラットフォーム』でなく『発信』になっていることから、一定の配慮をする気持ちを示してほしい」とまとめた。