特定非営利活動法人 世界遺産アカデミー主催のセミナー「世界遺産誕生30年。そしてこれから 世界遺産と観光~Sustainable Tourismという考え方~」が8月27日、憲政記念館講堂にて開催され、松浦晃一郎ユネスコ事務局長が基調講演を行った。松浦氏は外務省出身。外務審議官、駐仏大使等を経て、1998~99年には世界遺産委員会議長を務める。1999年アジアから初のユネスコ事務局長に就任、2005年再任され、現在に至る。

世界遺産のこれまでと「平泉」

今回の講演は、松浦氏の新著『世界遺産 - ユネスコ事務局長は訴える』の出版記念も兼ねたもの。「世界遺産誕生30年。そしてこれから」と題された講演は、まず世界遺産の推移についての話から始められた。

ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏

国連で世界遺産条約が成立したのは、1972年のこと。1978年に最初の世界遺産登録が行われ、ちょうど今年で30年となる。当初、日本政府はあまり関心が強くなかったが、1980年代後半にようやく動き始め、1992年に世界遺産条約を批准。その翌年、4つの案件(姫路城、法隆寺、白神山地、屋久島)が登録された。現在、その数は14カ所。世間の関心が高まっていることは言うまでもない。

その一例として、岩手県・平泉の登録延期のニュースが大々的に報じられたことは、記憶に新しい。国際記念物遺産会議(イコモス)が下した結論には、地元のみならず日本各地で世界遺産登録に対する悲観論も出ているほどだ。

「登録が延期されたため、平泉のことのみに話題が集中しています。しかし、このことを理解するためには、世界遺産の全体を知らなければなりません。現在、世界遺産条約の体制は曲がり角に差し掛かってきています。まずその背景を理解してから、個々の問題に目を向けるべきです」(松浦氏)

それぞれの世界遺産についての書籍はあるものの、その全体像を記した本はないため、今回1972年以降の世界遺産の推移を新著に著したと松浦氏は語った。

平泉については、「報道では、イコモスが今回の核となる浄土思想を理解していないような論調が見受けられましたが、浄土思想と平泉遺跡群の関係について疑問が提示されたわけで、浄土思想そのものについては理解されています」と話した。また、世界遺産の登録に関しても4段階「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」のうち、平泉は3段階「登録延期」であって、4段階の「不登録」ではない。現在地元では、2011年の登録に向けて再度準備が進められているという。