クルマやバイクが好きな人なら、自分でオイル交換などのメンテナンスをしたり、ブレーキパッドや各種パーツを交換したりしているだろう。そういったクルマやバイクのメンテナンス作業に欠かせないのが工具である。最近は高価なプロ用工具を見かけることも増えてきたが、通常の工具とはいったい何が違うのだろうか? 国内一のシェアを持つ「KTC」(京都機械工具)の小池覚氏にお話を伺った。

-- まずはKTCの沿革から教えてください。

KTCの創業は1950年なんですが、その前身には別の会社がありまして、工具部門を切り離そうというところから始まりました。今後モータリゼーションが進んで工具が必ず重要にになる、独立して工具だけを作ってみようというのが始まりです。創業のときは3名から始めました。創業から今年で59期目、来年60周年を迎えます。ただ、他の工具メーカーは金物の世界から入ってらっしゃいますので90~100年、長いところでは120~130年の歴史を持ってるところもあります。60年といってもまだまだですね。

KTCは創業した同じ年にトヨタの車載工具に認定していただいて、モータリゼーションはそのころから急激に発展しましたので、それと共に我々も業績を伸ばしました。品質のKTCということでお客様に認知され、それ以来ずっと工具を作っています。その後のいろいろと苦労や努力がありましたが、ミラーツールを出したり、最近では1995年の45周年のときに「ネプロス (nepros)」ブランドを出したりしています。あれからもう13年にもなりますね。今では総合工具メーカーという形で、生産量・販売量を含めて日本一のシェアをいただいています。

-- 工具メーカーというと海外ではSnap-onがメジャーですが

小池 覚 KTC(京都機械工具) 営業本部営業統括部 営業企画グループ マネージャー

Snap-onの市場は世界で2000何百億円ですし、日本で50億円くらい。そうすると"国内では我々の方が少し多いかな"というぐらいの規模です。ただ、Snap-onは50億円といいましても、法人需要が8割とお聞きしてますので、一般のコンシューマーユーザーの比率からすると我々のほうが多いんじゃないかと思っています。

-- Snap-onと比較されてしまうんでしょうか?

もう、常に(笑)。ただ、Snap-onは世界的な規模でやられてるところなんで、我々のブランディングとは、土俵からして違うのかなと思っています。ラインナップも非常にたくさん用意されていますし。

ただ、クオリティに関しては全く負けてないという自負があります。だから皆さんが思っているほど意識はしていません。いちばん重要なのは品質、クオリティという部分だと考えています。私たちがあれこれ提言する前に、こういった取材などで"ネプロスの品質はSnap-onを超えましたよね"と言っていただけるようになりました。私たちが重視しているクオリティの部分で理解していただけるようになってきたので、他社はあまり意識はしないようにしています。

プロフェッショナル向けブランド「ネプロス」

見た目も美しいネプロスの工具

-- KTCには「ネプロス」ブランドもありますが、KTCブランドとは何が違うんでしょうか?

元々は海外からの製品のための対策でした。25年くらい前に海外から光り物(のツール)が日本に進出してきたんですね。我々はこれに何とか対抗しないとアカン、というので「ミラーツール」を出したんです。でも、そのころは今からいうと申し訳ないんですけど、それまでの物を磨いたようなコンセプトでした。当時はまだそれくらいの技術力しかなかった。

それでは、ということで50年、100年後を見据えて、他社がついてこれないような商品、しかも最高級の工具を作ろうということで始まったのがネプロスです。ネプロス(nepros)というのは、「NEw PROfessinoal Satisfaction」の略なんですが、プロフェッショナルにも満足してもらえる工具ということで作り上げました。ですから一般の方は通常のKTCブランドでも満足いただけると思いますが、ガタつきとか精度とか口の薄さ(ボックスレンチなどで肉厚を薄くすること)とか、そういったところを徹底的に見直して、より軽くて強くて、フォルムも美しい工具を目指しました。その当時、数百人のメカニックに徹底的に工具に対する不満を聞いて、それを実現したものがネプロスのフォルムとラインアップの基本になりました。加工方法や素材も含めて全てゼロからやり直しています。

現在では、ネプロスのコンセプトが形として確立できましたので、KTCブランドの汎用工具にも全部フィードバックしています。我々の商品はほとんどネプロスを目指して作っているという状況ですので、クオリティ的には現在のスタンダードの商品もネプロスに近いものになっています。

工具は「永久」に保証されるのか?

本社1階にはKTC製品がずらりと並んだショールームがあるがこれでも全ての工具が展示されているわけではない

-- 工具の永久保証というのが話題になったことがありますが?

そうですね(笑)。ずいぶん勘違いされることが多かったです。「ドライバーをずっと使っていたら折れました、これは永久保証だから交換ですね」と言われることがあったんですが、そういうわけではないんです。例えば昨日ソケットを買って、今日使おうとして一発目で割れたとした場合、背景に生産上の何らかのトラブルが発見されれば、これはメーカーの責任なので保証の範囲内です。でも、「15年前に買ってずっと使っていたら昨日折れました」というのは消耗としておりますので、これは保証外となります。