海外出張に慣れている人はたいてい、荷物をコンパクトにまとめている。時差に悩むことも少なく、現地に着くや、さっさと行動に移る。いつもパッキングに出発直前まで手間取り、あれもこれも詰め込んでおきながら結局、現地で使わない、機内では眠れなくて、現地に着いたらとりあえずホテルのベッドでころり、出張中はずっと半時差ボケ状態で真夜中に目が覚める…という、筆者のような"永遠の出張初心者"とは明らかに最初からふるまい方が違う。どうしたらそんな風に"慣れてる感"を出せるんだろう……と常々不思議に思っていたのだが、どうやら海外にもご同輩がいたようである。

「Harvard Business Review」という有名な米国の月刊ビジネス誌がある(日本語版もダイヤモンド社から出ている)。読者は30代から50代のビジネスパーソンが中心で、当然ながら海外出張に頻繁に行くような人々も対象に含まれる。その発行元であるHarvard Business School Publishingの関連サイト「Harvard Business Online」の「Ask the Coach - コーチに聞け」というブログに「8 Business-Travel Tips - 出張のための8つの心得」という記事を発見。そこには以下のような読者からの質問が掲げられていた。

あなた(コーチ役のMarshall Goldsmith氏)は何百万マイルも飛行機に乗ってきたようだけど、いったい機内ではどう過ごしているの? 飛行機の旅が少しでも苦痛にならない方法があるなら教えてもらえないか---

その方法、ワタクシもぜひ教えてほしい! ということで、Goldsmith先生(以下、コーチ)がお勧めする8つのtipsをチェックしてみた。ちなみにGoldsmith氏は、かのJack Welchを指導したこともあるビジネスコーチングの世界的権威で、別名"コーチングの神様"と呼ばれるお方。『What Got You Here Won't Get You There』(邦題: 『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』)など数多くのベストセラーをもつ。これは期待できそうですね。

その1: 荷物は軽く(Pack Light.)

たいていの人の場合、荷物の中心は出張期間中の着替えである。コーチは「着るモノを決めたらそれ以外は持っていかない。オプションを自分に許すな」とおっしゃる。オプションとは"着ないかもしれないけど、着るかもしれないからいちおう持っていこう"的な洋服のことだろうな、たぶん(耳が痛い……)。着る服が足りなくなりそうだったら「ホテルのランドリーサービスを使え」とのこと。「全日程、全部違う服を着る必要はないはず」って、たしかにそうなんですが。

ちなみに筆者は海外に行くと3日に一度くらいは自分で洗濯するようにしている。手洗いなので面倒臭いのは事実だが、ランドリー代として別料金を払うのは抵抗がある……って、そんな微々たる料金を気にしていては出張の達人にはなれないってことか。最初からハードル高いなあ。

その2: 最終便を予約しない(Don't book the last flight.)

「何が起こるかわからない。何が起きてもいいように"バックアップ・オプション"は用意しておくべき」-- ごもっとも。たしかに最終便がキャンセルになったら…という事態はあまり考えたくないですね、しかも十分起こり得る。終電でうっかり寝過ごしたことがある人なら、「あとに続く電車がない」ことの恐怖は十分知っているだろう。飛行機の場合はもっと影響が大きい。

その3: 空港には時間的余裕をもって行くべし(Get to the airport with time to spare.)

「昨今の空港セキュリティの厳しさを考えると、ぎりぎりに空港に着くなんてのは"最悪(disaster)"である」-- いや、ほんとにその通り。それでもいるんですよね、平気でぎりぎりに来る人たちが。筆者の見る限り、どうもこの種の方々は確信犯っぽいというか、「30分前だって余裕でチェックインできるぜ」とひそかに自信をもって、わざと遅れているような気がする。それってまったく根拠のない自信なんじゃ…?(予約をキャンセルされたって知らないよ)。コーチは「セキュリティチェックの長い列の後方から、"フライトに間に合わない!"とわめきながら、待っている人々を抜いてチェックに割り込む連中を何度も見かけたことがある」としているが、それってかなりムカつく話だ。

その4: 可能なら、荷物は預けないこと(If at all possible, don't check your bags.)

スーツケースも手荷物にしろってことですが、えー、それはちょっとなあ。重たいし(その1はどうした!)、空港内くらいは身軽でいたいよう……という素人の甘えに、手きびしいコーチのお言葉が。「ベルトコンベアの前で(通算で)何百時間も過ごすことになるなんて冗談じゃない」 -- 思うに、出張の達人に限らず何でも効率よくこなせる人って、目の前の小さな欲得に転ばないというか、"トータルバランス"で考えられる頭をもっているというか(訓練しだいでそうなれるものなのだろうか)。あと、海外ではロストバゲージや荷物の取り違えはしょっちゅうある話なので、荷物を預けない、という行為は安全策のひとつなのだろう。ロストバゲージなんかでムダな時間を過ごすのもまっぴら、ってところでしょうか。

以下、ここからは主に機上のおはなし。

その5: 搭乗する前に何か食べておく(Eat before you get on the plane.)

機内食って、たしかにあまりおいしくない。というか、どのエアラインもエコノミーの食事ははっきりってマズい。そして、コーチによれば「マズさはどんどん加速していっている」とか。みんな口を揃えて機内食の文句をいうくせに、なぜか「ちょっとお腹すいているけど、機内食があるから食べなくてもいっか」となる。「最近の空港の食事は30年前とは比べものにならないほど多彩でおいしくなっている」とコーチ。マズくてタダの機内食か、おいしいけど有料の食事か - あなたはお腹にどちらを入れたいですか?

その6: 機内でアルコールを飲まない(Don’t drink alcohol on the plane.)

いきなり余談ですが、先日、ANAの国際線に乗ったとき、ドリンクメニューにスパークリングワインがあって、ちょっと嬉しかった……ってなことに喜んでいるような輩には、かなり(いちばん?)きびしい心得である。もっともコーチも「オーバーナイトフライト(8時間以上かな?)の場合に限り、ワインをグラス2杯まで」は飲んでいいことにしているらしい(笑)。「酒を飲んで、すぐに寝ればいいや」と思いがちだが、睡眠にはアルコールはまったくもってよろしくないというのはもはや定説である。そこまでわかっているのに「お飲み物は?」「ビールください♪」と口が勝手に動いてしまうのは、どうにかならんものか。

その7: 機内で眠る術を取得せよ(Learn to sleep on the plane.)

それがわかったら苦労しないんですが(泣)。筆者の場合、12時間のフライトでも、一睡もできないことがほとんどで、本当につらい。で、コーチは「私には効く方法なんだけど」と前置きしてアドバイスをくれている。まずアイマスク(blind-fold)を用意する。で、毛布をすっぽり頭からかぶり、寝に入る - え、それだけ? と思うが、この「真剣に寝ようとする意志」が大切なんだろう。眠れないからといって本を読み始めたり、映画を観るのはよくない、ということなんだろうなあ(でも観たかった映画が機内でやっているとウレシイ…)。「毛布を頭からかぶると、自分の体温で湿度が保たれるから、乾燥して喉が渇くことも少ない」という副次的な効果もあるとか。ふむふむ。とにかく自然な眠気を期待するだけではダメなんですね…。

その8: 時差ボケになりたくなかったら"今までどこにいたか"は忘れよ - すでに現地入りしているものと思え(To help conquer jet lag, forget about where you have been - and be where you are.)

こちらのコーチに限らず、海外出張が多い人はよく同じことを主張している。曰く「飛行機に乗ったら、すぐに到着地の時刻に時計を合わせよ」- うーん、やっぱり効果的なんだ。筆者はなんとなく習慣で、食事が終わってから時計を合わせるようにしている(その5!)のだが、そんなぬるいコトではダメで、「搭乗したらそこは現地」と思いこめ、とおっしゃる。ゆめゆめ「いま、日本は何時だっけ?」と思い返すことなかれ、ということか。むずかしいなあ…。

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ここでコーチが説く心得は、どれもこれも簡単なようで、筆者のような心のヨワい人間にはなかなか実行がむずかしい。だがコーチはこれらの約束事を自分で守っているおかげで「会議やクライアントとのミーティングに支障を来したことは一度もない」と自信を持ってまとめている。結局、出張期間中を快適に過ごせない最大の理由は「自分の甘さ」、つまりは自己管理能力のなさ、なのかもしれない。

(イラスト ひのみえ)