今年でデビュー10周年を迎えたジャズシンガーの綾戸智恵。デビュー10周年のアニバーサリーツアーを昨年9月15日の東京公演からスタートさせ、全国約100カ所をまわって約25万人もの観客を動員した同ツアーは、7月27日に行われた東京国際フォーラムのライブをもってファイナル。そして、今回の10周年ツアーをもって綾戸名義の単独コンサートを一時休止する。そんな綾戸智恵10年間の集大成ともいえるファイナル公演の模様を、WOWOWで8月29日(22:30~24:00)に放送することになった。本レポートでは、約2時間半にわたって行われたファイナル公演の模様をお伝えする。

アニバーサリーツアーのファイナルを迎えた綾戸智恵

会場となった東京国際フォーラム ホールAには、幅広い年齢層の観客が溢れんばかりに集い、改めて彼女の人気の高さを窺い知る。さすがにファイナルだ。開演前からある種の緊張感が漂っていた。だが、自身お気に入りの白いシャツと黒のズボン姿で登場した綾戸を見て、その緊張感も消えて興奮へと変わる。約100人のバックコーラスとともに熱唱したオープニング『Sweet Caroline』で幕開け。オープニングが終っただけなのに、会場から溢れんばかりの拍手が鳴り止まない。そんな観客に綾戸は「毎度皆さん! おおきに! ありがとう~。まだ1曲しかやってないのに盛り上がってまんな~」。会場はさらに盛り上がる。続いて『New York State of Mind』、『Fly Me To The Moon』を挟み、おなじみの『Route 66』で綾戸節が炸裂! 観客の拍手に乗ってオバハンダンスを披露した。「今の気分? ハア、ハア、ハア」。観客を笑わせるコミカルなトークやショートコントなどが曲と曲の間に繰り広げられ、観客の心を掴む"綾戸節"も"舌好調"だ。

「人生に無駄なことなんか一つもありまへん」

得意のMCも冴え渡る

綾戸といえば、その明るいキャラクターなゆえに『Route 66』や『Bye Bye Blackbird』、『Mr. Bojangle』などに代表されるようなアップテンポで明るい曲がよく似合う。だが、『The Green Leaves Of Summer』や『A Song For You』などのダークでしんみりと聴かせるナンバー、『Comes Love』といったムーディーな曲も実に良い。綾戸の明るいキャラクターとはまた違った一面が垣間見え、是非とも聴くことをおススメしたいナンバーだ。その他、ルイ・アームストロングの名曲『What A Wonderful World』、2003年の紅白歌合戦で披露した『Tennessee Waltz』なども披露。「1人じゃ生きていけないという正直な気持ちを皆さんから頂き、皆さんがいるんで歌える。今日までの人生、嫌な事もええことも全部あったから、今この位置にいるんだと思うと、人生に無駄なことなんか一つもありまへんな。ほんまに嬉しいです。本当にありがとうございました!」と語ってラストナンバー『Sing,Sing,Sing』を迎えた。綾戸がステージの端から端まで移動して熱唱し、会場はこれまで以上にない盛り上がりを見せた。

終了後、綾戸とバックメンバーがステージから去って幕は下ろされるが、会場からはアンコールを期待する拍手が鳴り止まない。そして再び綾戸が登場! アンコール曲『Summertime』、『翼をください』、『For Once In My Life』、『夜空のムコウ』、『明日に架ける橋』を披露した。今後の彼女を思うと、『明日に架ける橋』は感動的なラスト。公演終了後、「みなさん! また会いましょう!」のコメントを残してツアーの幕が閉じた。

ステージ上で踊りながら熱唱するパワフルな綾戸のパフォーマンスを見て、小柄な体なのにどこからそんなパワーが出てくるのかと感じた。コンサート中、幾度も「ありがとうございました」と語っていたが、どのアーティストよりも会場に足を運ぶ観客に対して感謝の念を忘れないその気持ちが、彼女の力の源泉なのかもしれない。今回のツアーで、彼女名義のコンサートはしばらく休止状態となるが、充電してさらにパワフルとなった綾戸智恵が、再びステージに帰ってくることだろう。その時を、期待しながら待とうではないか。

(C)KYOSHIRO YODA